陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「静かなる男」

2013-06-17 | 映画──SF・アクション・戦争
1952年の映画「静かなる男」(原題 : The Quiet Man)は、「駅馬車」(1939)「黄色いリボン」「三人の名付け親」と、数々の名作を世に送り出したコンビ、ジョン・フォード監督・ジョン・ウェイン主演の現代劇。西部劇の名手とされたフォード監督が、生まれ故郷のアイルランドを舞台にどんな現代劇をしかけてくるのか、大いに期待を寄せたのですが、私には期待はずれ。引退したボクサーという役どころも、名優ジョン・ウェインには役不足だったように感じます。

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アイルランドの小さな村イニスフリーに、到着したアメリカ帰りの男ショーン・ソートン。眼光鋭く逞しい風貌のショーンは、生家を買い取って、静かに残りの人生を送ろうとしていた。
彼の祖父は暴れん坊だったが村では勇者として伝えられ、とうぜん、ショーンも人気者になる。
ショーンがひと目惚れした娘は、気性の荒いメアリー・ケイト。しかも、彼女は大地主のダナハー家の当主レッドの妹だった。
家の買い取りですでにレッドと揉めていたショーンと、メアリーの恋も前途多難を極めることに…。

お節介な牧師や村の老人の策略で、めでたく挙式したものの、腕一本で荒稼ぎし荷物といえば寝袋で暮らしてきたアメリカ男と、三百年も土地にしがみついて暮らしてきた古い価値観のアイルランド女。出会ったときも、戒律を無視してキスしてきたショーンに惹かれながらも素直になれないメアリーは、兄が持参金を渋ったことで家具も買えず、正当な結婚ではないと主張。そのうえ、レッドに面と向かって持参金を要求できないショーンを弱腰だとののしって、村を逃げ出そうとします。
しかし、ショーンがレッドに刃向かわないことには、理由がありました。

プロボクサー時代、試合の相手を死なせてしまい拳を封じてしまったショーンの胸中を知らずに、夫婦の愛情よりも体面にこだわりつづけるメアリーの愚かしさ。そして、ショーンを弱虫だとひそかに噂して、レッドとの対決をそそのかす村人たち。
ついに二人は激突し、殴り合って、めでたく仲直りするというラスト。

緑ゆたかで光眩しい田園地帯に、荒々しい西部劇の乱痴気騒ぎを持ちこんで掻き乱したようで、違和感を感じざるをえません。
ジョン・ウェイン演じる男も、「静かなる男」というタイトルとは裏腹に、たしかに拳は黙らせているけれども、口調はいつも挑発的。しかも女を引きずる荒っぽさで、西部劇のような逞しいけれども、紳士的なエレガントさがまったくありません。

アイルランドの楽器や歌謡を歌わせていますが、他のアイルランド映画と比べると祖国愛には欠け、むしろ形式的な宗教観に生活を縛られ、住民の小さなできごとにも聞き耳をたてる保守的な田舎を諷刺して描いているようにも思えます。

テクニカルカラーだけあって、映像としてはかなり美しい作品。とくにほとんどのシーンで、鮮やかな青が印象的に用いられています。褒められるのはそれだけですね。
過去の過ちからトラウマを負った男が、その力を発揮する相手は、やくざみたいな小者ではなく、もっと大きな敵だったらよかったのにと感じました。花嫁の兄と戦っても、先が見えていますものね。ボクサー役なので、せめてもう少し若い役者の方がよかったようにも思えますね。

ジョン・ウェインのお相手役は、モーリン・オハラ。敵役は、ビクター・マグラレン。

(2010年2月21日)


静かなる男(1952) - goo 映画

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