陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

神無月の巫女原画集(後)

2012-11-26 | 感想・二次創作──神無月の巫女・京四郎と永遠の空・姫神の巫女
昔、そこそこ人気のあったアニメですと、カラーのガイドブックが販売されていたものですよね。
原画集や絵コンテや設定資料までついて、さらには声優や制作者たちの対談まで収録されていて、アニメーターもしくは漫画家さんのおまけ漫画まであったりするという。『少女革命ウテナ』のそれなんかがそうでしたが、マニア向けというのが分かってますから、あきらかに「狙ったような」「そそるような」超絶恥ずかしい表紙にするわけですよね(笑)。あれはいけずな制作者が、にわかファンをふるいにかける拷問なのでしょうか(謎)。いまみたいにネット通販が充実していない時代に、あれは辛いことこのうえないです(反語的に(笑))。でも、カラーで各回の見どころが載せられたものを読んでしまうとそれに満足してしまって、アニメ本編をディスクで鑑賞しないことが多かったりします。映像を文字で理解してしまうほうなので。

さて、『神無月の巫女原画集』の話題に戻ります。
この原画集、原画しか載っておりませんので、残念ながらモノクロです。表紙はたいへん美しい描き下ろしカラーなのですが。しかし、だからこそいいのです。肉感あふれる、生々しい鉛筆のタッチがなんとも趣きのあるスケッチとなっておりますが、各話ごとに編集され、しかもしかも、その回の見せ場というべきシーンのシナリオまで横に添えていたりします。とくにロボットに関する説明では、アニメをただ流し見していただけでは気づきにくい事実(ソウマが姫子とともに搭乗していた時とはことなる、真アメノムラクモの形態など)が、さりげなく知らされていたりします。先述したようなガイドブック仕立ての出版物にある原画は代表的なものだけを抜粋したものが多いので、このように各回のすべてにわたって紹介したものは珍しいのではないでしょうか。

原画集によれば、とくに最終話では絵コンテにあがりながらも、惜しくもカットされたシーンが多かったそうで。
第十話の姫子の回想で千歌音たちが順繰りに映るシーン、最終話での前世での儀式の場面など、背景が白抜き効果にされているために線描が融けてなくなっている絵が、この原画集ではその描線が美しく蘇っているのが嬉しいですね。いちばんの驚きは、最終話Cパートでは見えなかった、交差点をわたってくる「謎の少女」の顔がはっきり描かれていることですね。

この冊子を編集された介錯先生、および、藤井まきさんからの聞き書きのコメントもあったりします。またオロチ神それぞれに設定上正式名称がありながら、オロチ衆たちがかってに命名した理由も明かされています。また内輪でしか知り得ない制作スタッフの裏事情(九話のメカ作画監督が匿名のT・T・B名義であるが、実はかなり有名な方らしい?)もこっそり語られていたりして。また、あえてストーリーの流れを落とさないために、終盤になると、前半と後半の長さをあえて変えることまでしています。製作陣の並々ならぬ、本作にかける執念を感じさせるのです。なにげないひとコマなんだけど、描く側はこれだけの想定を重ねて挑んでいるということに、胸が熱くなることでしょう。

この原画集の最後のお楽しみは、巻末にあります、2クール、二十四話構成のシナリオ。
十二話までだったことは確定されていたのですが、シリーズ構成の植竹先生はじめ、スタッフがお遊びでつくりあげてしまったという。これによりますと、敵はロボットを使わずとも生身で奇襲をかけたり、姫子と千歌音がそれに応戦するために鍛錬をしたり、ソウマに負けずおとらず、巫女ふたりが戦う場面もあったようですね。二十四話なので、さすがにいちゃくらする百合どころも増えていますが、ややベタなシチュエーションが多いかも。本編ではほぼ無口でいちばんやる気なさげだったレーコ先生が、まるまる一話かけて活躍していたりもします。最大の相違点は、乙羽さんが終盤、そそのかされて悪役に回ってしまうところでしょうね。オロチ八の首機体の搭乗者が不在であるのは、その設定の名残りであったらしいのですが。個人的にオンナ三人で愛の奪い合いなんて、ありがちな百合三角関係は観たくはないので、本編どおりでよかったですね。あの絶妙なテンポで、畳み掛けるように苦難の連続で男女三人を追い詰めていく、この物語ならではの良さは、十二話に凝縮された密度の濃さにあると言えるでしょう。この2クール版で考案されていたアイデアをいくつか拾ったのが、じつは「京四郎と永遠の空」なり「絶対少女聖域アムネシアン」なりの後続作品だったのでは、という気もしますね。

ところで、この原画集における最大の謎は、ラストの奥付。
「see you NEXT 神無月の巫女─月の雫 陽だまりの想い(仮)─」とあるのですね。この言葉に続編を期待したファンもさぞや多かったことでしょう。まさか、違うかたちで実現されていくとは思いもよらずに。


【追記】
ツイッター上で神無月の巫女のメカデザイン・村田護郎さん描く、3Dモデルのアメノムラクモが随時公開されています(→こちら)。ちゃんとBGMもついて、背景の社もあって、芸が細かい。すばらしい職人技と色褪せないこだわりに感服。


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神無月の巫女原画集(前)
あの日、プロジェクト神無月チームは偉大な仕事の痕跡をとどめるために、膨大なエスキースを残した。アニメ「神無月の巫女」を美麗な作画スタッフの原画でふりかえる、ファン必携の資料集。


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