陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「セイヴィア」

2011-02-27 | 映画──SF・アクション・戦争
1998年のアメリカ映画「セイヴィア」(原題:Savior)は、ジャンルとしては戦争ものに配分されるのでしょうが、これといった戦闘シーンはありません。その点で、過激な戦闘描写がめだった同年作の「プライベート・ライアン」とは趣きを異にしている作品ですが、女性ならおそらく共感できる内容でしょう。

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パリにいた主人公は、イスラム原理主義者の爆弾テロで最愛の妻と息子を奪われた。失意のまま騒動を起こし国を追われた彼は、数年後ギイと名を変えて、民族紛争のつづくボスニア・ヘルツェゴビナ紛争での傭兵となっていた。

ある日、暴行されて子を身ごもったセルビア人の娘ヴェラを助けたことから、ギイの運命が変わってしまう。無事に赤ん坊を産み落としたヴェラ母子ともども、彼女の両親のもとに送り届けるが追い出されてしまう。しかも、ヴェラに暴行しようとした同僚兵士を射殺してしまったため所属部隊からも命を狙われる羽目に。母子を救うために、国境を超えようとするギイだったが…。

子持ちの女と家庭に縁のない孤独な男とが、かりそめの家族愛にめざめて逃避行をする、といった定型にあてはめるにはあまりにも、彼らの背負っているものが重すぎます。敵の兵士の子を産んだがたがために侮蔑され、帰る場所を失ってしまうヴェラ。兄や父にさえ銃を向けられ殺されそうになってしまう。そして、その家族すら敵方になぶり殺しにされてしまう。

とうしょは絶望感のために、赤ん坊を手にかけようとすらしたヴェラでしたが、甲斐甲斐しく世話を焼くギイに感化されて、しだいに母親としての情を呼び戻し、赤子を慈しむようになります。我が子とギイを護るために、そして自分とおなじくテロリストに葬られていくバスの同乗者を救うために、彼女があえてとった行動には胸打たれますね。

あまりに悲しいことばかりが続き、ラストには赤ん坊を安全なところまで連れて逃げおおせたところで力尽きるかと思われた主人公。しかし、救いの主が現れます。
冒頭で主人公が自暴自棄になって罪もないムスリムを射殺するなど湾岸戦争への皮肉をこめたシーンもあって鼻白むこともありますが、やはり報われるという気持ちに落ち着くのは、この最後があったればこそ。
迷彩服のいかつい顔した軍人が、赤ん坊のおむつを替え、ミルクを求めて放し飼いのヤギを追いかけ回すすがたは、なかなか微笑ましかったですね。死に場所を求めるように戦場をさすらっていた彼が、憎悪を忘れ、産気づいたヴェラを守った以後はまったく誰ひとりとして殺めなかった。すべて赤子を生かすための苦渋の選択でした。幼い命を抱えて落ち延びるなかで、自分の家族を奪い、かつヴェラを孕ませたムスリムへの敵意も消え、クロアチアとセルビアというもとは同胞の諍いも無意味と映ったのでしょう。途中で逃亡を幇助してくれた夫婦の存在がまだしも希望となっています。民族間の不毛な対立を静かに糾弾するとともに、守るべきものがあるからこそ生き抜いていこうとする人間の本能的な逞しさを教えてくれる優品であるといえるでしょう。

主演は、「ライトスタッフ」のダニエル・クエイド。「エデンより彼方に」では、エリートの夫だが、同性愛に苦しむ男を演じています。ヴェラ役はナタサ・ニンコヴィッチ。
監督はユーゴスラビア出身のピーター・アントニエヴィッチ。製作が「JFK」「ワールド・トレード・センター」のオリバー・ストーン。

セイヴィア(1998) - goo 映画

(〇九年十二月十八日)


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