陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

NHK杯2010 氷上のミュージカル

2010-10-26 | フィギュアスケート・スポーツ

もう何度も言っておりますが、フィギュアスケートといえば、なんといってもやはりエキシビジョン。
試合のプログラムで存分な結果が出せた選手、出せなかった選手。それぞれ悲喜こもごもあるだろうけれど、緊張感から解き放たれて舞い踊る夢のステージ。観ているこちらも、気持ちが和らぎますね。

今年、GPシリーズ初戦となったNHK杯のエキシビジョン。
男子シングル四位の新星、羽生結弦選手は、アイルランド出身のロックバンドU2の「ヴァーティゴ」で、男の色気を披露。あどけのなさの残る顔だちなのに、艶のある演技でした。

おなじく十五歳のホープ、村上佳菜子選手。今回はデヴュー戦で銅メダルと大活躍を見せましたが、この余興でもファンを楽しませることを忘れてはいません。
曲は映画「NINE」より、Be Italian
椅子にまたがって暗闇から登場した彼女は、タンバリンを打ち鳴らしながら、笑顔振りまきながらの滑り。緑と赤の怪しいライティングが舞うなかを、大人びた演技を見せます。彼女の表現はどちらかといえば、あのキム・ヨナ選手に近いものがありますよね。

男子シングルの銀メダリスト、ブラジル生まれフランス籍のフローラン・アモディオ選手。
エキシビジョンに初参加だった彼は、急きょ、フリーのプログラムをアレンジ。観客はより進化した、エンターテインメイント色溢れる、氷上のマイケル・ジャクソンに遭遇したことでしょう。場内はすっかり彼の調子に煽られて、手拍子まで生まれています。終盤のムーンウォークが見ものでしたね。

バンクバー五輪銀メダリストにして、今回は残念な結果だった浅田真央選手。
やんちゃな十五歳に比べれば、大人の落ち着きをみせる清楚な純白のドレスで登場。
曲はフレデリック・ショパンの「バラード第1番ト短調」
青白い月光を浴びて、湖面を滑っていく妖精をイメージさせます。遊びをみせない、静謐で、瞑想的なステージ。まるで誰かとワルツを踊っているようでもありましたが、氷上で一人で悩む彼女の心境を裏打ちしているようでもありました。
浅田選手は今季から佐藤信夫コーチに師事しているのですが、曲の振り付けは元コーチのタチアナ・タラソワなんですね。

日本人の高橋成美、カナダ人のマービン・トラン組は、日本籍でのペアダンス三位。
曲はグロリア・ゲイナーの「恋のサバイバル」
明るく伸びやかなコンビネーション。ペアといえば、目を引くのはやはりダイナミックなリフト。男の肩に片足をかけただけで女が立つ、あの危ういバランス。ペアやアイスダンスの面白さは、やはりエキシビジョンのほうが際だちますね。

フィンランド美貌のスケーター、キーラ・コルピ選手は、今大会四位。
ラメの入った黒い警官に扮した前半と、それを脱ぎ捨てて露出度の高い軽装になった後半。変わり身の早さで観客を惹き付けました。

今大会女子シングルチャンピオンに輝いた、イタリアのカロリーナ・コストナー選手。
金髪を三つ編みにし、黒いセーターとタイトスカートというカジュアルな装いで、踊ります。かねてより質の高いスケーティングで評価も高い彼女はバンクーバーでは不振で、今季は膝の怪我を抱えて臨んだ舞台だけに感激もひとしお。精彩を欠いた浅田選手にエールを送ったと聞きます。浮き沈みを経験した女王らしい態度ですね。

さて、最後を締めるのはやはりこの人しかいない。
日本人初の男子シングル五輪メダリストにして、今大会の王者、高橋大輔選手。
曲は映画「アメリ」から、黒いボトムに、マーブル色のエキセントリックなウェアで登場。切なさの漂うピアノ曲に乗って、持ち前の表現力の高さをいかんなく発揮してくれました。四回転も決めて、リンクをめいっぱいに使った大きなおおきな演技。
倒れ伏してのフィニッシュ。安藤美姫選手も、エキシビジョンでよく見せるしぐさですね。
アンコールに応えての再登場では、ショートプログラム課題曲の後半部分。
ラテンの陽気なリズム、快活なビートを刻んで、またあのステップを披露してくれました。

高橋選手と村上選手をゲストに迎えたスポーツ番組が、NHKでエキシビジョン放映直後にありました。
十五歳の存在感を見せつけた村上選手を意識してか、四年後も若手に負けないように五輪を目指していきたい、と控えめに語った高橋選手。あの大怪我を乗り越えた力強さは氷上で漲っているものの、素顔は好青年そう。いっぽう村上選手は堂々としていて、早くも大物感を漂わせていますよね。

GPシリーズのスケジュールによれば、この週末に早くもスケートカナダで村主章枝・織田信成選手らが、そして11月5日の中国杯では安藤美姫・鈴木明子・小塚崇彦選手らが登場。昨季のクレオパトラの安藤選手、 「ウエスト・サイド物語」 のマリア扮する鈴木選手が印象深かったので、今年は何に化けてくれるのか楽しみです。


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