陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「フルメタル・ジャケット」

2011-12-01 | 映画──SF・アクション・戦争
1987年の映画「フルメタル・ジャケット」(原題:Full Metal Jacket)は、「2001年宇宙の旅」で知られる鬼才スタンリー・キューブリックが、手がけたベトナム戦争映画。ベトナム戦争といえば、「地獄の黙示録」「プラトーン」などわりあいヒューマニズムな視点からつくられた反戦意識が強いものが多いのですが、本作もおふざけのなかに只ならぬペーソスを感じさせます。

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前半は、サウスカロライナ州の米国海兵隊訓練基地での演習シーン。
候補生として入隊した若者を叱咤激励する鬼教官ハートマンの姿がなんとも痛快。字幕で観たのですが、よくぞここまで訳せたな思うくらいの卑猥な言葉の数々でびっくりします。
落ちこぼれの訓練生が仲間からはみ出し者にされ、狂気を帯びていくさまはなんとも寒気がしますね。銃弾ではなく、殺意を全身に漲らせていくという「フルメタル・ジャケット」と洩らすあのシーン。なんともおぞましいです。

後半はベトナムに派遣されての実戦。
保身を図る上官や、現地の女性を買う将兵たちのふしだらな現実が赤裸々に描かれます。ベトナム人に対する同情のよしみは微塵も感じられないのです。

主人公といえるジョーカーは、終盤にみずから敵の狙撃兵を射殺しますが、それは憎悪からなのか、それとも情けからなのか。アップになった鬼の形相を観れば一目瞭然。まさにそれは狂気に駆られた訓練仲間のあの表情そのものなです。戦争はここまで人格を変えてしまうものなのか。

一小隊が合唱していた歌が、ミッキーマウスというのがなんとも皮肉めいていますね。アメリカが愛されるキャラクターをだしにするとは。

前半部の下ネタの嵐は、おそらく最後に犠牲になった少女をベトナム一国とみなして蹂躙することが戦争に他ならない、というアンチメッセージだったのだと気づかされます。

愛国心に燃える青年が、戦場から抜けだすために人を殺さねばならない、という不条理に気づいたとき、時すでに遅しといった感を漂わせるラスト。遠回しな反戦映画でしょう。

出演はマシュー・モディーン、ヴィンセント・ドノフリオ、R・リー・アーメイほか。役者の演技力に注目の一作です。

(2011年3月1日)

フルメタル・ジャケット - goo 映画

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