陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

アニメ映画「崖の上のポニョ」

2011-05-06 | 映画──ファンタジー・コメディ
2008年の話題作アニメーションといえば、スタジオジプリの意欲作「崖の上のポニョ」(原題 : Ponyo on the Cliff by the Sea)
じつはこのヒロインの蛙のような顔がどうもなじめなくて、長らく視聴をためらっていました。視聴後感も観る前と変わることがなかったですね。「ファインディング・ニモ」みたいに、素の正体が表情だけ豊かな魚でもよかったんじゃないかと思う。
以下、辛口批評です。

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日本のとある漁師町。
崖の上の一軒家に介護士の母リサとともに暮らす五歳の少年宗介は、海面に漂っているふしぎな金魚をみつける。金魚をポニョと名づけ可愛がった矢先、フジモトという謎の長髪の男に連れ去られてしまう。
だが、町が台風による高波の被害を受けた夜、ポニョは人間の女の子になって帰ってきた。

ふつうの人間の少年が人ならざる者もしくは超人的な能力をもつ少女と出会う。「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」でもおなじみの設定ですが、大人であれば誰でも人魚姫がベースになっていると気づきます。じつは人間の王子様と人魚の王女様との種族を超えた愛というかたちが、宗介とポニョ以外にもう一組あるのがミソではあるけれど、ここではあのグリム童話のように悲劇でお涙ちょうだいの展開にはなりません。

話題を呼んだのでどれだけおもしろいのだろうかと期待はしていましたが、話の半分ぐらい進むと先が読めてしまいます。ポニョが人間になるための試練というのも、あっけない。五歳の男の子に、ペットを飼うような慈しみでなく、一人の女の子の人生を引き受けることのたいへんさが分かるものでしょうか。
ただ、この単純さこそが、子ども向け(小学校入学以前のレベル)としては適切なのかもしれないのですが。

母親を呼び捨てにしている男の子や、子どもを乗せているのに乱暴な運転をしたり、高波のなかを突っ切ろうとしたり、ましてや職場の人びとが心配だからとはいえ、子どもだけを家に残しておくのはどうなのだろうか、と余計なことまで考えてしまいました。
こういう無茶ぶりな大人を描きたいのならば、むしろ、リアルな日本の田舎町を借りてきたものでなく、徹底的にファンタジーとして作りこんだほうがてきめんではなかったでしょうか。
人間ではない子が人間界にお呼ばれして、そこで目にする日常におもはゆい反応を示すという部分もありきたり。

主人公たちの住む町が「ウォーターワールド」のごとく水に浸かってしまい、「アフリカの女王」よろしく粗末なポンポン船で出航するシーンがありますが、実際に水害にあった人からすれば、あんなに無邪気に楽しめたりはできません。ほんとうは嵐で荒れ狂った海の恐ろしさを描こうとしたのだろうけれど、あの妙に愛らしい手描きのタッチではその恐怖が伝わってきませんでした。なので、ポニョが引き起こしたという世界の均衡の破れというのにも、危機感が募ってこない。

宮崎駿が諫早湾の干拓地を視察して思いついたと聞いていたので、もっと社会的な深刻なテーマが盛り込まれているかと思ったのですが、ひどく肩透かしでした。私が感じとれなかっただけなのかもしれませんが、これだはただのボーイ・ミーツ・ガールのおとぎ話です。

演出がおもしろいとさかんに褒めそやされてはいるけれど、あの有名なポニョが爆発するような水の勢いに乗って飛び出すシーンは、今年あたりに開催された「ジプリ原画展」のTVコマーシャルで繰り返し流されていて、新鮮味が薄れました。

そして、老人ホームにいるのが老女ばかりなのも気になります。
どうして年老いた男性は出さないのでしょうか。宗介の父親も海にいるばかりで親らしい面がなく、家族揃っての温かみが感じられません。
宮崎アニメは、やたらと気の強い女性が多いけれど、もう型にはまった感があるので、いっそのこと「天空の城ラピュタ」みたいなおしとやかなタイプを出してもいいのでは。

そのジプリ原画展、知り合いからチケットがあるのでと誘われたのですが、行く気がしませんでした。アニメーションというものは、画家のように静止画をこぎれいに描けばいいのではなくて、あくまで動きのリズム、音楽との調和、そしてなによりストーリーの面白さこそ重視されてこその評価ですよね。有名な建築家の建てた家を見ずして、その設計図だけ並べられてもちっともそのすばらしさが分からないのと同じです。

「千と千尋の神隠し」で国際的に評価されたのをいいことにブランドネームだけで売りこもうとするのはやめてほしいですね。大家とあがめられはじめたときには、すでに発想に限界があって作品の質が落ちる。皮肉なものです。作家名や製作会社名にとらわれずに、おもしろいものが観たい人間にとっては、上がりすぎた期待値のために、実見したときのあまりの落胆にため息が出ます。

正直、ここ二、三年ぐらい前から邦画はアニメーションよりも実写の方が出来がいいのでは、と感じます。アニメはいくら動きを豊かにしようとしても、CGでいくらでも工夫できる実写に太刀打ちできなくなったのでは、と。影がなくて平板な色塗りと、背景だけが絵本のように弛んだタッチのミスマッチさも気になりました。

(2010年11月4日)

崖の上のポニョ - goo 映画


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