陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「青燕-あおつばめ-」

2015-08-17 | 映画──社会派・青春・恋愛
韓国やら朝鮮の作品をとりあげると「愛国主義」の方々から反感を喰らうだろうな、ということは承知しつつ、紹介しておきます。

2005年の韓国映画「青燕-あおつばめ-」は、実在する朝鮮人女性飛行士の半生を描くスカイロマンス。

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忍者のごとく軽やかに、鳥のように自由に空を飛ぶことに憧れていた少女パク・キョンウォン(朴敬元)。貧しい農村の生まれで学校にもろくに通わせてもらえずじまいだった彼女は、1925年、日本の立川飛行学校に入学。
夜間にタクシードライバーとして生活費を稼ぎながら、トップ飛行士として腕を磨いていくのですが…。

厳しい訓練を経て独り立ちするというのは、ケビン・コスナー主演の海軍士官学校の候補生たちを描いた「愛と青春の旅立ち」を思わせますね。技術力では勝りながら素行の悪さのためにあまり教官にいい感情を持たれていないところも似ています。実際、大会出場の女性枠をかけてライバル木部との火花を散らす練習戦、訓練を共にした朝鮮人仲間の無念の死などなどオーソドックスな展開が待ってはいます。そして、運命の相手、韓国人留学生ハン・ジヒョクとのラブロマンスが合間に挿入され、緊迫感のある航空戦の息抜きとなっています。

しかし、加味せねばならないのは、主人公が女性、しかも韓国併合以後の時代の日本を舞台にした物語であること。キョンウォンの女性飛行士としての自立は、当然ながら、植民地からの戦力養成のためということもうっすらと読みとれます。個人の純粋な夢ですら、いやおうなく国威高揚に折り込まれていく。ライバルとのしのぎあいを制し、仲間への弔いともいえるような空の勝利をおさめ、さらに一戦交えて深まった日本人女性飛行士との友情が芽生えますが、ジヒョクとの愛と一流飛行士としての夢との板ばさみに苦しむことも。キョンウォンは故国訪問飛行のために資金集めに奔走中。

やがてジヒョクが韓国独立を願うテロ事件にまきこまれ、キョンウォンも身柄を拘束されてしまいます。不純思想の持ち主と認定されたキョンウォンは、日本軍の政治的意図に利用されて空を飛ぶことになります。時代に翻弄された悲しみを胸におさえつけて。「青燕」と名づけられたその機体を駆って空へと向かうキョンウォン。彼女が目指したのはもはや誰にも運命を左右されない空で、それは彼女の終わりを意味していました。

監督はユン・ジョンチャン。
出演はその魅力で人気を博すも2009年に惜しまれながら胃がんで他界したチャン・ジニョン、キム・ジュヒク、教官役は仲村トオル。

空撮した飛行シーンがなんとも美しいですね。
しかし、これは勇気ある女性パイロットのサクセスストーリーというよりも、日本に虐げられた韓国の歴史の闇を抉りだす戦時ドラマともいえますよね。日本人にとってはやや胸に痛い内容もあるのでは、とくにあの拷問シーン。残酷すぎて正視に耐えないですね。

ラストシーンはなんとなくサン=テグジュペリの『夜間飛行』を思わせ、切なさがこみあげてきます。

(2011年8月7日)

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