陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「ウォルター少年と、夏の休日」

2011-06-01 | 映画──社会派・青春・恋愛
お金や権力といった相手の持てるものすべてや噂話に左右されずに、人を掛け値なしに判断して信用することができるかどうか。大人になればなるほど難しい問題です。とくに裏切られた回数が多ければ多いほど、人を信用しなくなります。

2003年のアメリカ映画「ウォルター少年と、夏の休日」(原題 : Secondhand Lions)は、家庭の愛に飢えた孤児も同然の少年が、ひと夏、縁遠い田舎の親戚に預けられて成長するヒューマンドラマ。主人公の母親がシングルマザーで息子のことを顧みず、アウトローな爺様が親代わりになるという設定は、「アトランティスのこころ」と似ていますが、本作が際だっているのは、預けられ先のご隠居が少年のままの魂をもった老人ふたりだったということ。

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1960年代初頭のこと。
おとなしくて意志薄弱の14歳、ウォルター少年が、母親のメイに連れてこられたのは、テキサス州の広大な農場に暮らす大伯父のマッケーン兄弟。母は二人の伯父が隠し持っているという莫大な金のありかを、このひと夏の滞在中に突き止めろと急かして去っていく。

一人で二十人力の剛腕のハブ伯父と、穏便な風貌のガース伯父のところへは、頻繁にセールスマンが車で乗り付けては、伯父さんたちの銃撃にあって追い払われていく。電話もテレビもない暮らしで、型破りな老人ふたりはウォルターをやっかいなお荷物とばかりに煙たがっている様子。そこへ、マッケーン兄弟の財産を狙う弁護士の甥一家が押しかけてきて、ウォルターはさらに肩身の狭い思いにさらされてしまう。

最初は距離のあった少年と老人が、親睦を深めていくのはお約束ですよね。でも、気持ちの近づけ方に無理がなく溶け込んでいくところがいい。
ウォルターが母に捨てられ深く傷ついたことを知った老兄弟は、欲得づくめの甥一家を追い出して、三人で疑似家族のような関係を結びはじめます。

ウォルターは、屋根裏部屋の古びたトランクにしまわれていた女性の写真に興味を抱く。そして、弟ガースの口から明かされる彼ら兄弟が、外国人部隊に所属して二つの大戦をくぐり抜け、三つの大陸を股にかけて戦い抜いたという冒険譚の数々。あまりに荒唐無稽すぎておとぎ話のような語り草、ウォルターですら半信半疑のように耳を傾けています。でも、その目つきは真剣そのもので輝いています。こんなに一生懸命に体当たりで人生を生きてきた男たちを、彼はそれまで知らなかったのでしょう。

やがて、新しい男を連れて現れた母のメイが自分を連れ戻しにきます。母たちは、伯父さんたちが隠し持つ大金はかつて銀行強盗で多くの人を殺して奪ったもの、その金は自分のものにして当然だと言い張るのです。ウォルター少年は、一見うさんくさそうで謎の多い過去をもつ伯父と、数年過ごしてきた愛すべき母親の言い分とはたしてどちらを選ぶのでしょうか。

老いたれどもまだなお血気さかんなハブ伯父は、無理をしてからだを壊してしまう。畑いじりだけの引退生活に満足できない。パブの若者とだって喧嘩騒ぎを起こしてしまう。無免許で飛行機だって乗りたがる。あたかも死に急いでいるかのようにいのちを危険に晒しているハブの過去に、飾りっ気もなにもない大切な存在を失ったという事実があったと気づかされたとき、ウォルター少年は二人の伯父こそ信じるに値する人物で、自分を成長させてくれる居場所なのだと疑わず、そこに帰る決心をしたのです。

生きのびていくために人生を嘘で塗り固めていかざるをえない母親、野武士のように我が身ひとつで乗り切ってきた勇ましい男の生き様。対極的に描かれていますが、子育て放棄のシングルマザーを批判する意味あいはあまり感じられず、むしろ、愛情に飢えた子供を受けとめる環境の在り処を実の両親以外に求めることも、子供の健やかな教育にとっては救いなのではないかしら、と実感させてくれます。

イラストレーターとなった成人後のウォルターが、久しぶりに訪れた伯父たちの家で、あの夢物語のような過去語りを証だてる人物と巡りあう締めくくりが、なんとも胸に淡い嬉しさをもたらしてくれます。自分が長いあいだ信じ続けていた男たちの真実を、真実かどうかはさておいてひたすら信じきっていた彼らの勇気と名誉が語り継がれていること。それは血が沸き立つほどの喜びだったのではないでしょうか。

エンディングのロデオ調の歌声に乗って流れる映像が、なかなか凝っていましておもしろいですね。1930、40年代ふうの名作文学を映像化したような良心的な内容で、お子樣向けの鑑賞としてもお勧めしたい良作です。「アルプスの少女ハイジ」と展開が似ていて、ご都合主義的なところもありますが、ハブ伯父のかっこ良さは熟年世代も憧れそう。ただし、こういう無茶ぶりをなさる老人は、きまじめな家族からすれば遠慮したい存在でもあったりしますけれどね(微苦笑)

年老いた世代から受け継ぐべき真の遺産は、お金でも地位でもなく、その時代に生き延びた人間の勇気と知恵であることを、地味な展開ながら、ひしひしと感じさせてくれます。こういう映画を待っていました。飼いならされたライオンと五匹の犬、豚がユーモラスな味を添えてくれています。

「サイダーハウス・ルール」のマイケル・ケインがガースを演じ、「地獄の黙示録」「ゴッドファーザー」「アラバマ物語」の怪演ロバート・デュヴァルがハブ役。主演の少年は、「A.I.」で名高いハーレイ・ジョエル・オスメント。母親役は「7月4日に生まれて」のキーラ・セジウィック。
監督・脚本はティム・マッキャンリース。


(2010年11月25日)


ウォルター少年と、夏の休日 - goo 映画

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