陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「アメリカン・ビューティー」

2016-09-15 | 映画──社会派・青春・恋愛
1999年という、世紀末に公開されたアメリカ映画「アメリカン・ビューティー」(原題 : American Beauty)は、アメリカ社会の現実にありそうな諸問題を、中年男性の一家と、そのおかしな隣人たちで演じたファミリードラマ。冒頭のシーンがあまりにもアレなので、観るのをやめようかと思いはしましたが、観るとなかなかシニカルでおもしろい。しかし、コメディ要素はありながら、暗い気分が胸に残ってしまう映画ですね。
これだけタイトル負けというよりも、狙ってタイトルを欺いていく映画も珍しい。表紙の麗しい薔薇に騙されて悲恋ものだと信じて、手にとった方は御愁傷様です。


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郊外の閑静な住宅街で暮らすレスター・バームは、ごく平凡なサラリーマン。
不動産ブローカーで虚栄心の強い妻キャロリンとは冷めた関係で、高校生の娘ジェーンは反抗期。味気ない毎日を送るレスターの日常が変化したのは、娘の友人で大人びて美しいアンジェラにときめいてから。
リストラ候補にされた職場でも気に入らない上司に勢いで辞表を提出し、ドラッグにも手を出し、今までになく強気になっていくレスター。アンジェラの気を惹こうとボディビルにいそしんで、妻や娘にも暴言を吐く態度。いったい、このお父さん、どうしたの。

変化したのはレスターだけではありません。キャロリンはライバルだった不動産のオーナーとこっそり浮気。ジェーンは、隣に引っ越してきたフィッツ家の盗撮マニアの息子リッキーと交際をはじめます。

どんどん崩壊していく中流階級の家族の様子が、時にはオーバーな演出をもってコミカルに、時にはシニカルに流れていきます。
物はあふれているのに愛情や優しさの欠けた家庭、夫婦仲の破綻、節操なしの愛欲に走る男女、美貌や恋愛経験の豊富さを鼻にかける少女との友情の崩壊、胸の大きさや筋肉美を求める肉体崇拝、ゲイへの偏見、軍人の高慢ちきぶり、ティーンエンジャーの薬物汚染、銃社会などなど、どれもこれも現代アメリカが抱える病理に違いない。そして、アメリカ発の社会問題はやがて世界に広まるもの、日本も例外ではありませんよね…。

血迷ったような行動に走ったレスターは、最後に精神的な安らぎを得ますが、そのあとに冒頭からほのめかされていた悲劇が襲ってきます。ただし、隣人の不幸な勘違いによって。いや、このシーン、どう解釈したらいいんだろう(笑)

出演は、冴えない男を演じさせたらピカいち、「シッピング・ニュース」のケヴィン・スペイシー。「L. A.コンフィデンシャル」では、けっこうサマになる刑事を演じていましたが。
妻役は、「心の旅」で記憶をなくしたハリソン・フォードに尽くす夫人を演じたアネット・ベニング。
助演で隣人フィッツを演じたクリス・クーパーは、「遠い空の向こうに」でも、息子と対立する厳格な父親を好演し、ひじょうに印象深い男優です。

監督は英国の舞台監督・映画監督のサム・メンデス。「タイタニック」のヒロイン役で有名なケイト・ウィンスレットはその妻。
第72回アカデミー賞で作品賞、監督賞、主演男優賞、脚本賞、撮影賞を受賞し、当時大ヒットした作品ですが、けっして傑作とはいえないお話だと感じます。この味わいが分からない私は、まだ人生経験未熟ってことでしょうか。

(2010年3月3日)

アメリカン・ビューティー(1999) - goo 映画

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