陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「クレイマー、クレイマー」

2010-11-22 | 映画──社会派・青春・恋愛
英国のウィリアム王子が来年にも結婚なさるとか。おめでたい話です。本日はいい夫婦の日なんです。でも、いい夫婦ではなくて、悪い夫婦の映画を紹介してみます。

1979年の映画「クレイマー、クレイマー」(原題 : Kramer vs. Kramer)は、熟年離婚をした夫婦をあつかった作品です。

最初、タイトルからして商品やサービスにイチャモンをつけるコメディ、のような印象があったのですが、けっこうシリアスな夫婦ドラマなんですね。原題からいえば、正確には「クレイマーvsクレイマー」、クレイマー夫婦の対立といった意味あい。

クレイマー、クレイマー コレクターズ・エディション [DVD]
クレイマー、クレイマー コレクターズ・エディション [DVD]ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 2010-03-19売り上げランキング : 2670Amazonで詳しく見る by G-Tools



大手の広告代理店勤めのエリート営業マン、テッド・クレイマーは仕事一筋の男。
大口の仕事が舞い込み出世のチャンスが開けた矢先、八年連れ添った妻のジョアンナが家を出てしまう。その翌日から、七歳の息子とふたり暮らしがはじまった。慣れない家事と、多忙な仕事との両立に悪戦苦闘しっぱなし。息子とは喧嘩したり、監督不注意で怪我を負わせてしまったりしつつ、いつしか以前にはなかった父子の絆を深くしていく。
だが、身を立てる職を得たジョアンナが現れて、息子を引き渡せと迫った。養育権争いは法廷に持ち込まれたが、前職をリストラされて再就職し、収入の激減したテッドには不利だった…。


最初は、テッドが身勝手で傲慢な父親にも思えます。まだジョアンナとは法律上、夫婦なのに別の女を家に連れ込んだりしていて、女としては許しがたい。
ただ、息子を必死に手もとに置いておくためになりふり構わず、職を求めようとする姿勢は父親らしい。

いっぽう、妻のジョアンナ。テッドがとくに暴力夫でもなく、単に理想の奥さんぶりに疲れただけ。そんなつまらない理由で、家庭を捨ててしまう。「誰かの娘や妻ではない、自分自身を見つけたい」といって家を出た彼女のすがたは、まさにウーマンリブ世代といえます。でも、子供を置いていってしまって、またかってに引き取りにくるなんて、少々自分勝手すぎやしませんか。仕事も子育てもがんばっている母親という評価を得たいがために、子どもを道具にしているような気がしてなりません。

もちろん、子供を連れた女性が独り立ちするのはたいへんですから、生活が落ち着くまで残していかざるをえなかったのは理解できます。でも、ジョアンナのボーイフレンドが複数いたという証言を聞いた時点で、同情心が失せました。けっきょく、家庭に縛られるのがいやで、遊びたかっただけ。花嫁にはなりたかったけれど、奥さんにはなりたくなかったのでしょうか。夫婦は好きなときだけいちゃいちゃして冷めたら縁が切れる、都合のいい友だちじゃないんです。

最後は、けっきょく物語最初の状態に戻ったことになるのですが、できたら夫婦がよりを戻す展開を望んでいました。

主演は、夫役に「ニューオーリンズ・トライアル」で市民派弁護士を演じたダスティン・ホフマン。本作でアカデミー主演男優賞を受賞。「アウトブレイク」でも、離婚した夫役でしたね。
その妻に、「めぐりあう時間たち」でも自立した女編集者を演じたメリル・ストリープ。

監督は、ロバート・ベントン。「プレイス・イン・ザ・ハート」では、夫を事故で亡くしても健気に生きようとする未亡人を描いています。

近年、日本でもとみに離婚率が増えています。
タレントがバツイチ.バツニなどとみずからの汚点をかっこよく披露したり、離婚したタレントがそれをネタに本を書いたりするせいです。ほんとうに嘆かわしい。そして、離婚どころか、経済が逼迫して正社員にありつけない労働者は結婚すらできない、結婚しても貧困が生まれた子どもを苦しめることになってしまいます。

この70年代の映画のような状況は、現今の日本では恵まれた階級だけの悩みではないでしょうか。お金がなくてもなんとかなる、とりあえず家庭を持って子どもを産みなさい、と安易にけしかける年輩者が、じつは家庭不和を抱えていたりすると、首を傾げてしまいます。もちろん、夫婦間のすれ違いだけでなく、いろいろな要因が混ざりあって離婚というのは起こってしまうのでしょうけれど。

本作を不快に思われた方は、小津安二郎監督作の「晩春」にある名言を贈ります──。

「結婚するのが幸せじゃない。幸せは夫婦になって、ふたりで新しく創りあげていくものだ」



クレイマー、クレイマー - goo 映画

クレイマー、クレイマー - goo 映画

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 氷上の舞姫、最終ステージへ... | TOP | 氷上の舞姫、最終ステージへ... »
最新の画像もっと見る

Recent Entries | 映画──社会派・青春・恋愛