陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

ハードボイルドな映画「マルタの鷹」(1941)

2023-06-30 | 映画───サスペンス・ホラー

ハードボイルドというジャルは、未だもって私にはその魅力がどこにあるのか、さっぱり分からない。孤高の私立探偵や刑事が犯罪に巻き込まれ、そこに謎めいた美女の存在がついて回るのだが、その彼女がじつは食わせ者。ひととき愛に落ちるが、手ひどい裏切りにあって最後はお別れを迎えてしまうパターン。
以前に観た「さらば愛しき女よ」がまさにそんな筋書きだったのが、こうしたハードボイルド映画の古典ともいうべきが、1941年の「マルタの鷹」(原題 : The Maltese Falcon)
筋書きは上記のパターンを踏んでいるが、主演俳優の渋さによって助けられているといえる。

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サンフランシスコに探偵事務所を構える凄腕の私立探偵サム・スペードのところに、美女の依頼が舞い込む。内容は、サーズビーなる人物の尾行。美女にひと目惚れした相棒のマイルズ・アーチャーがさっそく依頼を引き受けるが、翌日、遺体で発見されてしまう。しかも、サーズビーも殺されてしまった。マイルズの奥方と一時的に関係をもっていたサムは、警察から嫌疑をかけられてしまう。

同じ頃、サムの元を訪れたカイロという紳士ふうの男が、黒塗りの鷹の置き物を探してくれないか、と半ば脅迫に近いかたちで依頼する。黒幕のガッドマンという金持ちの登場によって鷹の置き物がいわくつきの代物で、サーズビー殺しと依頼主の美女ことオーショネシーの思惑が絡んでいると睨んだサムは、一計を案じるが…。

どんなに善良な市民を装った端役でも殺人犯になってしまうようなミステリーに慣れっこになると、こういった硬派な手合いのサスペンスでも真犯人探しに躍起となって疲弊してしまうもの。だが、このハードボイルドはまず解決の行方というよりは、殺人の濡れ衣と三つ巴のお宝争奪戦の火中に放り込まれても、巧みな話術を弄して窮地を切り抜ける主人公の叡智に注目すべきだろう。ハードボイルドと聞けば、「男は黙って」という思いこみがあるが、本作の主人公、けっして言葉少なで銃の腕だけ競うようなタイプでもない。
はからずも自分のところへ届けられてしまった鷹の置き物を巡って、一筋縄でいかぬような男を相手取って交渉し、仲間割れで自滅させてしまう手法は鮮やか。最後に愛した女に引導を渡すくだりは、微塵もやさしさを感じさせない冷酷無比ぶりであるが、突き放すような言葉のなかにも愛していることをほのめかす部分がある。

主演は「カサブランカ」が代表作の名優ハンフリー・ボガード。お相手役にはメアリー・アスター。
監督はボガードが飲んだくれの船長を演じた名作「アフリカの女王」のジョン・ヒューストン。

原作は米国の推理小説作家ダジール・ハメット作の1930年発表の同名小説。
なお、1931年にロイ・デル・ルース監督、リカルド・コルテス&ビービー・ダニエルス主演で映画化されている。36年にも、別題で脚色を加えているようだが映画化されている。

(2010年2月2日)


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