拝啓、私の読者さま。
忘れた頃にやってくる、『京四郎と永遠の空』コミックス第二巻(介錯・富士見書房・2006年12月発売)のレヴューです。
このアニメはおよそ四組の愛情の形を描いているわけですが、じつは、けっこうどれも不幸なんじゃないかな?と今になって思ってしまいます。かねてより人気の高いソウジロウの包容力でさえ、あれは愛情と言えるのだろうか? ただ、怒りんぼうの猫にサンドバッグにされているだけでは? なんでも我がままをきいてくれる、叱りもしない。それは、子どもを甘やかすような愛情ではないのか? と考えてしまうわけですね。
それはともかく、漫画版のレヴューです。
ずいぶんと前に一巻については書いて、そのままでしたので、第二巻から。ブログをさかのぼってみると、断片的に掲載誌を購入してレヴューしていたのですね。当時とアニメ終了から年経たいまでは、読後感が違うと思うのであらためて、しるしておきます。
この二巻がうれしいのは、表紙、巻頭カラーのせつな(可愛いすぎる! 可愛いすぎる! 可愛いすぎる!)・くうのツーショット。
そして、裏表紙はかおんちゃんだったり。巻末にはお役立ちの用語辞典もついていて、作品への理解が深まることまちがいなし。
率直に申し上げて。
神無月の巫女ファンなら、この二巻だけは買っておいて損はない。
アニメでいいますと、DVD二巻収録の特典話「逢瀬」(『京四郎と永遠の空』第二・五話「逢瀬」 その1・その2・その3)、二話の「三華月百夜」(京四郎と永遠の空 第二話 「三華月百夜」 その4)にあたる、かおんとひみこのエピソードがふんだんに、あります。実においしい。作画も手抜かりなく美しい。(掲載画のオリジナルの絵はもっと線が繊細で儚い感じのするものです。二人の身長差は5センチなので、おそらく座っているものと思われます)しかも、もはやお互いに誤解しあうこともなく、すれ違うことも、無知から傷つけ合うこともない。しかし、理解しあっているからこそ、なお、身を挺して互いを救おうとするいじましさが感じられるふたりの愛が、切々と描かれています。
アニメでは三話以降に、このふたり、かなりの試練を受けてしまうわけです。
かおんちゃんはアニメの尺の三分の一ぐらい悲鳴をあげていたか、寝ていたような記憶しかないのですが(苦笑)、漫画ですとそこらあたりはすんなり省かれていますので、安心してお読みになれるでしょう。かおんがひみこ以外とは、キスしないのもポイント。アニメ版だとひみこが「ある人物」に強いられる(かおんもですが)のですが、あれは観ているこちらも精神的にきついものがありました。
ミカ様もどことなく、いい人(というかちょっと色ボケ? 『アムネシアン』のあの人の片鱗が、もうすでにしてここに…(笑))に描かれていますよね。これは、もしかしたら、原作者先生いわく、「ミカがもうひとりの姫子」という裏設定にもとづいているからなのでしょうか。漫画ではミカ様の目的がいまいちよくわからない。これは小説を読めばわかるのですが。このミカ様はけっこうハイテンションなお方に見えました。こんな女子高生ぜったいいないよ!
アニメのあの甘ったるいしゃべりが消えたぶん、白鳥くうの悲愴感が増していますね。
くうが自分の正体を知ってとってしまった行動は、いささか嫌悪すべきもの。しかし、何の取り柄もない彼女にとっての武器が自分の肉体そのもでしかない、という選択は、無力な少女なら、酷い時代に生まれていたら生き延びるためにやりそうなことでもあったりします(それを容認したいわけじゃないんですけどね…)
誰かに愛してもらわないと、女として魅力がないんじゃないか、という女の弱さが現れた一面です。恋人に捨てられたら、女友だちに慰めてもらおうとするところとか。でも、この突き落とされた部分、ごめんなさい、シリアスなのに笑ってしまいました。このヒロイン、つくづく可哀想とは思えなかった。前半のせつなちゃんに対する優越感がさんざんひどすぎたもので。「そうだ、京都行こう」みたいなノリで、「空になろう」とか言われても(酷)
くうのアプローチを拒んだ京四郎。
真剣にくうのこと愛していたんだな、大事に想っていたんだな、とこの男、見直すわけです。…ですが、その思いが、はっきりいって第三巻のラストではあっさりくつがえってしまうんですよね。ですから、これが愛だとか、青くさいこと言っている京四郎さんが、ちゃんちゃらおかしく感じてしまう。
この二巻のラストでは、いっしゅん、せつながカズヤに変身したのかと勘違い。
これはアニメで語られなかった、せつなとカズヤの因縁を匂わせていたのでしょうか。単にコマが足りなかっただけでしょうか。その答えは三巻で。女の子の涙は、最大の武器ですよね。
DVD一巻所収の特典話「エンゲージ」の元となる、せつなと京四郎の外伝話もあります。
せつなちゃんの押し殺した心情が暴かれるのは三巻からなのですが、彼女が捧げる京四郎への忠誠心は、かおんとひみこの妨げとなってしまうのですよね。たとえば、東月封魔を急襲した際、陽動作戦でひみこのいる離れをわざと狙ったのは、かおんの気持ちの向かう対象を知っていた(これについては小説版参照されたし)からなんですよね。せつなちゃんも、案外したたか。彼女、見かけかわいいけれど、やはり、たるろってに近くて人を襲うにもためらいながなく、京四郎のためなら手段も選ばず、犠牲も厭わないんですよね。だから、終盤、京四郎がせつなを見捨てようとしていても同情できない面もあります。想いの一途さにかけては、憎めないんだけど。亭主の横暴にひたすら耐え忍ぶ古女房という感じですね。
敵方よりも、主役サイド三人がなぜかことごとく悪役に見えてしまうという、ふしぎな物語です。
もちろん、あえてそう描いたんでしょうけど。やはり、どうしても、かおんとひみこの引き立て役にしか思えない。でも、不完全な愛だからこそ、またドラマとしてのおもしろさもあったわけですよね。京四郎は兄さんが出てくるまでが華でしたよね。
【漫画「京四郎と永遠の空」レヴュー一覧】
【追記】
ウェブノベル「姫神の巫女」が更新されています。
まさに神無月の巫女状態(泥沼的な意味で)ですね。
二人には幸せになってもらいたいのですが…。
やはり、巫女服はいいものです。