陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「真夏のオリオン」

2010-08-28 | 映画──SF・アクション・戦争
2009年の日本映画「真夏のオリオン」は、太平洋戦争末期、米国軍艦と交戦中の日本国海軍潜水艦たちを描いた戦争映画。邦画の戦争ものにしては、なかなかのできばえでした。

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1945年8月。
侵攻しつつある米国海軍軍艦から沖縄南東海域を死守すべく、日本国海軍の潜水艦数隻が防衛線を布いていた。
なかでも、知略に長けた若き艦長・倉本孝行の指揮するイー77艦は、敵艦を十三体撃沈させるほどの活躍をみせていた。しかし、倉本の盟友にしてイ-81艦艦長の有沢たち友軍が、米軍軍艦パーシバルに沈められてしまう…。

物語は、ある若い女性が、米国から送られてきたという古びた楽譜の由来を訪ねて面会した人物の口から語られます。
その楽譜に作曲された創作曲のタイトルが「真夏のオリオン」。かつて倉本艦長に思いを寄せた娘・志津子が、戦勝祈願として渡したものでした。

この楽譜がどういう経緯で異国に渡っていたかは想像がつくと思いますが、その謎解きだけが本作の狙いではない。
「真夏のオリオン」は、じつは海上で命の張り合いをしている両海軍にとっての勝利の象徴。これをおなじ空、海の上でみあげた日米両軍は、友軍の敵討ちとばかりに、一対一で死闘を演じることになります。

よくある戦争ドラマのように、玉砕覚悟、罵倒罵声怒号が飛び交っての特攻戦術などではなく、倉本がたびたびくり出す戦術は、あくまで仲間を生かすためのもの。ピンチにあっても落ち着き払い、船員を激励する倉本を演じるのは玉木宏。さいしょは頼りない感じがしたのですが、なかなかどうして、堂に入ったものです。かわぐちかいじの漫画『沈黙の艦隊』の艦長のようなクールさだと言えるかも。

吉田栄作演じる、ややぶっきらぼうな機関長や、益岡徹、吹越満らなど脇を固める役者も個性的だけれど、艦長を信頼しきっていて誠実そうな青年ばかり。もはやこれまでかと思う場面が続いても、狭い艦内でみごとに連帯感を強めているのがいいですね。

敵方の艦長スチュワートも、人道的な人物として描かれています。日本人に星を眺めるロマンスや、音楽を楽しむようなセンスのあることを知り、親近感を寄せるスチュワートがいいですね。
日米両営の存亡と尊厳をかけた戦いは、意外にも、例の楽譜によって救われるのです。

実際に戦争を体験した世代からすれば描写が甘くゆるすぎるきらいがあるかもしれませんが、海軍を描いたものとしては珍しい部類。
陰惨な戦闘シーンを派手につくりこんだ戦争映画、死なばもろとも、とお国のためと叫んで爆死するような邦画戦争ものに飽き飽きしていた私からすれば、本作はそこそこ感動できるものでありました。あまり説教くさくもないところがいいですね。


監督は篠原哲雄。
監修・脚色を福井晴敏がつとめています。

(2010年8月15日)

真夏のオリオン - goo 映画

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