陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

日本映画「劔岳 点の記」

2010-08-24 | 映画──社会派・青春・恋愛
2009年の邦画「劔岳 点の記」は、山岳文学の至宝といわれる新田次郎の同名小説を実写化した話題作。レンタルで視聴をと願いつつ過ごしていたら、早くも地上波で放映。去年から登山者の事故があいついで多いため、注意を喚起する目的なのでしょうか。

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日露戦争直後、陸軍陸地測量部の若手測量官・柴崎芳太郎は、北アルプス・立山連峰に位置する劔岳山頂に初登頂せよとの拝命をうける。劔岳は当時、日本地図上にゆいいつ三角点のない空白地。防衛上の観点から地図を作製するのが測量官のつとめだが、この登頂命令には、陸軍の別の思惑もあった。それは、民間の登山団体である日本山岳会隊に出し抜かれてはならぬことだった。

柴崎の片腕となってくれるのが、熟練の案内人・宇治長次郎と、助手の生田信。長次郎の手引きで人夫を募り入山しますが、標高およそ3000メートル、冬には氷点下40度ともなる過酷な大自然が相手。雪崩に襲われ、天気は移ろいやすい。測量機材を運搬しながらの行路は困難をきわめます。しかも、調査開始前から、霊山信仰から登山を許さない地元住民たちの反発もあり、調査隊のなかで方針をめぐってのいざこざもありました。

ロケがかなり危険だったと出演者が口をそろえておっしゃるのですが、その大変さが迫力ある映像にはなっていなくて伝わってきませんでした。峰の連なるパノラマや、雪の覆い被ったクレバス、雲海にさしこむ朝陽など止め絵の映像美はあるのですが、ダイナミックさは感じられない。CGで凝ってつくりこまれたアクションに慣れすぎたせいか、こういう静謐な画面ばかりが続くと単調で飽きてしまいます。
監督いわく、明治時代の測量官の目線や感覚を尊重するためだったそうですが、人間が目に見える範囲のものだけ映すのではなく、数少ない視覚情報から組み立ててた想像力をも再現する必要があったのではないでしょうか。
たとえば、戦国時代の合戦などで地理上の利点をおさえて勝利した武将は、俯瞰的に戦場を把握する想像力に長けていたはずですよね。そういう空間把握の演出のためにも空撮は必要だったとは思います。

くわえてがっかりしたのが配役。
人の良さそうな長次郎役の香川照之は適役だとしても、主演の浅野忠信があっていない。この人は顔が派手じゃないので、大正明治時代の地味で無口なタイプに似つかわしくないんじゃないでしょうか。香川照之とならぶと、どうしても無表情な分、存在感で負けてしまいますね。せめて、ライバルの登山家小島烏水を演じた仲村トオルを主役に据えてほしかったかも。
ただでさえ、壮大なスケールの山景を背後にいただいて、人間がちっぽけに見えてしまうのですから、多少なりとも誇張したドラマや演技があってもよかったと。撮影がキツいので発揮できずじまいだったのかもしれませんが。大変だと嘯きながら、飄々と登りきったようにみえます。

原作の小説はすばらしく、厳しい登山の様子や人物の人柄までがありありと描きこまれているのに、ひじょうに残念なできばえです。音楽だけは崇高すぎる。いっそのことドキュメンタリーにしたほうがよかったのではないでしょうか。

監督は、撮影カメラマン出身の木村大作。

(2010年8月7日)

劔岳 点の記 - goo 映画


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