陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

映画「サラエボの花」

2011-05-08 | 映画──社会派・青春・恋愛
年末年始の深夜の映画特集に放映されていたのは2006年のボスニア・ヘルツェゴヴィナ製作の映画「サラエボの花」
この映画、レンタルで借りようとDVDの説明文を確かめただけで、なんとなく結末がわかってしまい、借りるのをやめた作品です。今回あらためてじっくり視聴いたしましたが、たしかに心に残る映画ではあるけれども、ふたたび視聴したいとは思わないです。あまりにも主人公の置かれた境遇が痛々しくて。
2006年ベルリン国際映画祭金熊賞を送られた作品ですが、筋書きはいたって単純。さほどひねりはありませんが、受賞理由はおそらくボスニアの悲劇を悼んでのことと察します。


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縫製工場に勤めるエスマは十二歳の娘サラと二人暮らし。
旧ユーゴスラヴィア解体にともなうボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争後、町には職を求める人があふれていた。暮らし向きを良くするために、夜はナイトクラブの給仕としてはたらきはじめたエスマ。疲弊もあってか、多感なお年頃のサラとはしばしば衝突してしまう。

ボスニア紛争というバックボーンがなければ、じつは、日本でもよくあるシングルマザーのお話とおなじ。しかし、違うのはこの母が、その昔は医学生で将来のあった身の上であり、いまでも職場では同僚に慕われて、娘想いであること。ささいな喧嘩は絶えないながらも、母子の仲は剣呑というわけでもない。どこにでもありがちな関係です。

しかし、母と子はお互いに嘘をついていました。
サラは、自分の父が戦死した兵士でシャヒード(殉教者)だと信じて疑わない。しかし、サラがねだってもエスマは父のことを話そうとしません。
いっぽう、級友と喧嘩騒ぎを起こしてしまったサラは教師の同情を引くために、母親が病気で学校に来られないなどと嘯く。

サラの不信感は、母を送り迎えする男の存在を知ってか、ますます募ります。そのうち、修学旅行の代金の支払いをめぐって、エスマがひたすら隠しとおしてきた痛ましい過去の傷が明らかに。このあたりは、戦争で女性が直面する悲劇として想像できるもの。しかし、望まぬ子を孕みながらいざ生まれた子に対し美しいものだと感じたと告白するくだりは、感動的ではあります。
しかし、よくよく考えてみれば、「ニセ医者と呼ばれて ~沖縄・最後の医介輔~」と本質的にはおなじことを扱っています。なぜ、こちらの映画ならば感動しえたかといえば、やはり傷ついた女性の気持ちを尊重して、あざとい演出もなく(たとえば被害に遭った場面を克明に挿入したりはしないので嫌悪感がやわらぐ)描かれているからなのでしょう。そして母親の愛というものをお仕着せに唱えたりしないこと。

母の懊悩とみずからの出生の秘密に驚愕しながらも、それに挫けないようにあらたな決意をする娘サラのすがたに、希望を感じさせる終わり方です。
この母子のみならず、未来を奪われたがために裏世界に生きる男の母想いや、つつましい生活をしながら助け合っている女性たちの生き方にも共感を覚えます。悲劇をとことん湿っぽく味つけするのではなく、暗さをやや控えめにして,ハートフルなタッチにしあげているのがいいですね。一時間半ほどの短さなのもちょうどいい。

監督はヤスミラ・ジュバニッチ。
出演はおなじくボスニア紛争をあつかった「アンダーグラウンド」のミリャナ・カラノヴィチ、ルナ・ミヨヴィッチ。

(2010年12月28日)

サラエボの花 - goo 映画


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