【万葉集巻十一2828】 譬喩(ひゆ)
紅の 深染めの衣を 下に着ば 人の見らくに にほひ出でむかも
訳)紅の濃染めの衣を下に着たら 人が見ているところで 赤く透けて見えはしないだろうか
赤い下着が、上から透けて見えやしないか、と、心配してるんですね。
これだけ読むと、それだけの歌とも読めるんですが、これが「譬喩」に分類されていますからね、いったい、何のことを歌ってるんでしょう。
「紅の深染めの衣」は、女の比喩。
「下に着ば」は、ひそかに契りを交わしたなら。
下衣の交換が、当時、恋人間におこなわれたそうです。
歌そのものに、男女の関係を思わせる語句はないんですが、こうして裏の意味を見ますと、恋の真っ最中ですね。
二人の恋、まわりにわかってしまわないだろうか、みたいなことですが、深く染めた衣を下に着ているというのが、なんとなく、思いの深さを感じられるような気もします。
これは、、「譬喩」として、うまくいっている例。
では、これは。
【万葉集巻十一2829】
衣しも 多くあらなむ 取り替えて 着ればや君が 面忘れたる
訳)衣ならいくら多くてもよいもの つぎつぎ取り替えて着ていらっしゃるせいでしょうか あなたがわたしを見忘れるとは
衣の歌だと思っていたら、途中から「あなたがわたしを見忘れる」と、一貫性がなくなります。
「衣」は女の比喩。
次から次へ女を取り替える、ということが言いたかったのが、もう、衣の話にしておけなくなっちゃった。
これは、「譬喩」としては、ちょっとおしい。
服は、たくさんあっていいね、次々取り替えられる、あなたは、私を忘れちゃう。
「譬喩」でなければ、これでも面白いですが、
「譬喩」なら、
服は、たくさんあっていいね、次々取り替えられる、どんな服があったか忘れちゃう。
と、ま、稚拙ですが、全体を服の話にしておけばよかったところでしょうか。
さて、久保田洋司、本日は、朝、すでに個人練習をし、これから、杉真理さんのレコーディングを見学に行ってきます。
素敵な一日になりますように。
美しい明日へ心をこめて歌っています。
洋司