本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

静かな大地 池澤夏樹

2017-08-07 | 小説

 わしらアイヌの神々はな、と熊のキンカムイは三郎に言った、バチェラーさんが唱えるキリスト教の神の様に強くはない。その代わりあの神の様に遠くにもいない。

静かな大地 (朝日文庫 い 38-5)
池澤夏樹
朝日新聞社

 作家の小川洋子さんがパーソナリティを務めておられるFMラジオの番組「メロディアスライブラリー」という番組をたまたま車で聞いた時に紹介されていて、興味を持ち、読んでみました。

 本書は維新の後、故郷の淡路を後にして北海道に渡った池澤夏樹氏の曾祖父志郎とその兄の三郎の物語ををベースにした作品なのだそうです。

 とても大切な家族の物語なので、自分の各文章にある程度自信が持てるようになるまでは、出版できなかったとのこと。

 読み始めた時、文章が”巧い”という感じがしなくて、やや違和感があったのですが、読み終わってみれば、このあまりにも”素朴な語り口”以外の方法では、著者の伝えたかった世界が描けなかっただろうなとつくづく感じました。

 

 子供の頃に北海道に渡った三郎、志郎の兄弟は、年頃も近いアイヌのオシアンクルという少年と友達となったことをきっかけに、アイヌ語を覚え、アイヌの人たちに受け入れられて育つ。兄の三郎は、札幌官園でアメリカ人から新しい農業を学んだのち、静内に戻って牧場をアイヌの人たちと経営することになった。

 名馬を多く産出し、牧場の経営が安定しかかった時、東京から視察に来た男に「協力してもっと手広くやっていこう」と誘われるが、儲けが札幌や東京に流れる事になり、せっかく作ったアイヌの人たちの居場所がなくなることを嫌った三郎は、この誘いを断ってしまうが、そのことがきっかけで、嫌がらせをうけるようになり、”和人”を雇わないで成功した牧場への地元の人たちの嫉妬もあり三郎の人生は悪い方へ悪い方へと転がり落ちてしまう。

 実話をもとにしているために、安易な救いがない結末で、読み終わった後、すごく悲しくなってしまいました。

 アメリカのインデアン、オーストラリアのアボリジニなど、「先住民」となった民族の物語は、美しいけれどもやはりかなしい。

 小説中に紹介されるアイヌの習慣や言い伝えなどは非常に興味深いものがありました。詳しくは知らないのですが、ケルト文学などにも通じるものがあるのでしょうか。

 冒頭に引用したように、アイヌの人たちの生活は、神(カムイ)とともにある

 

自然を愛する誇り高い民族が、時代の波に押し流されたとはいえ、「和人」つまり、所謂日本人によって、酷い差別を受け、絶滅の危機に陥っているという事実を認めるのは日本人として辛いことですね。

 



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