本が好き 悪口言うのもちょっと好き

読書日記です。っていうほど読書量が多いわけではないけれど。。。

服従 ミシェル・ウェルベック

2017-06-18 | 小説

『O嬢の物語』にあるのは服従です。人間の絶対的な幸福が服従にあるということは、それ以前にこれだけの力を持って表明されたことがなかった。それがすべてを反転させる思想なのです。

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

ミシェル・ウェルベック 著

大塚桃 訳

河出書房新社

 本を読んだ後にブログに記録を残すという習慣から遠ざかると、書き留めておきたいと思う本に出会っても、そういう「作業」が本当に億劫になってしまって、またまた更新が滞りました・・・。

 もともと、さほど読書家でもない私ですが、ブログ更新の停滞と合わせて読書量も落ちてきて、そうすると読書力も落ちてしまって、以前はなんとか読了できていたような本でも、読み切れない。これはいかんと思い、リハビリに少し軽めの本を読もうと思って図書館に行ったのに、この本を借りてしまいました。

 だって、カバーに、著者、翻訳者に並んで、「佐藤優 解説」って書いてあるんですよ。なんとなく興味が湧くじゃないですか。

 とはいえ、なかなか取っ付きの悪い書き出しで、早々にギブアップしそうになったのですが、とりあえずどんな話かだけは知りたいと、Amazonの内容紹介を見てみたんですよね。

 そしたら、

 

2022年フランスにイスラーム政権誕生。
シャルリー・エブドのテロ当日に発売された、
世界を揺るがす衝撃のベストセラー、日本上陸。

 

 ってあるじゃないですか。これはやっぱり読んでみたい。

 そう思って、衰えた根性に鞭打って図書館の貸出期間を延長してなんとか読了・・・。

 いやぁ、あそこでやめなくて良かったです。

 フランスの政治や思想に詳しくないと、さっぱりわからない部分も本当に多かったのですが、ニュースなどでは伝わらない、ヨーロッパの状況を見る視点と人間の本質を考えさせられる一冊でした。

 

 主人公フランソワは、ユイスマンスという19世紀の作家の研究の第一人者、パリ第三大学の教授。独身で、ことさら素晴らしい人生というわけではないが、若い学生と時々関係をもったりして、まあ悪くない生活を送っていた。2022年の大統領選でイスラム政権が誕生し、公立の学校ではイスラム教徒でないと教員になれなくなったため、職を失うが、サウジアラビアマネーを巧く取り込んだ政権により、十分な年金を得て、それまでとあまり変わらない生活を送ることになる。新しい大統領の”クレバー”な政治手腕のおかげで、フランスは緩やかにイスラムの習慣も取り込んでいき、挑発的な服装の女性を見かけることが無くなったせいか、フランソワ自身の性欲も収まってくるのだが、そうなると伝統的な「家族」のない寂しさに耐えられなくなり、妻(それも複数)と大学での仕事を提供してくれるという条件を受け入れて、イスラム教に改宗することを決心する。

 

 というようなお話です。(かなり、荒いあらすじですが、私が理解できた範囲ではこんな感じ)

 私は、経済のグローバル化とともに、欧米的な価値観もグローバル化されるとなんとなく思っていたのですが、「神」の存在をとりあえず脇におき、それよりも人間一人一人の尊厳に重きを置く価値観は、イスラーム社会に受け入れられなかっただけではなく、ヨーロッパ社会そのものも蝕んでいったのでしょうか。

 確かに、個人の尊厳とともに大きな責任を負わされるくらいなら、尊厳と責任はすべて「神」にお返ししたほうがお気楽ではないのか・・・というのは、「1984年」を読んだ時にも感じたことです。「1984年」では、人口の大多数を占める「プロール」の生活は、お気楽ではあっても、暴力や犯罪がはびこり混沌としていました。が、そこに「神」と「服従」がセットになれば、「秩序」が生まれそうな気がして、どちらかを選べと言われれば、「服従」の方がいいと思う人は決して少なくないと思うのです。

  佐藤優氏の解説の中の友人の言葉として、この小説がヨーロッパで大きな衝撃を与えている理由として、「ヨーロッパ人のイスラーム世界に対する無理解から来る『イスラーム国』への恐怖心」をあげ、もう一つは「ヨーロッパの崩壊に対する不安」が挙げられています。

 

 「EUが分解するとその(21世紀の独仏戦争)危険が生じる。それよりも、イスラーム教のもとでヨーロッパの統一と平和が維持される方がよいのではないかという作業仮説をウェルベックは『服従』の中で提示しているのではないかと思う。ヨーロッパ人は、自らが内的生命力を失ってしまっているのではないかと恐れている。この恐れが『服従』からひしひしと伝わってくる」

 

 小説の中でも、かつては極右の活動に参加しながらも、イスラム教に改宗し新しいイスラム政権下で有力者となった人物がフランソワにこう語っています。

 

 「キリスト教がなければ、ヨーロッパ諸国家は魂の無い抜け殻に過ぎないでしょう。ゾンビです。しかし、問題はキリスト教は生き返ることができるのか、という事です。私はそれを信じました。何年かの間は。それから、疑いが強くなり、次第にトインビーの思想に影響されるようになっていきました。つまり、文明は暗殺されるのではなく、自殺するのだ、という思想です。」

 

 ある時代に支配的となった文明も、永遠であったことはなく、確かにキリスト教社会を核にに広がった現代文明もいつかは滅びるのでしょうね。私達はそれをLiveで目撃しているのかもしれません。

 佐藤氏の解説は、こんな文章で締めくくられます。

 

 『服従』を読むと、人間の自己同一性を保つにあたって、知識や教養がいかにもろいものであるかという事がわかる。それに対してイスラームが想定する超越神は強いのである。

 

 先日のフランスの大統領選挙では、この小説の設定とは違って、中道のマクロン氏が政権を取りました。25歳年上の妻を持つことしか印象になかったのですが、今後はもう少し注意深く見ていきたいと思います。

 

 そして、女性目線で一つ付け加えるとすると、多くの保守的な男性にとっては、「家父長制」を軸にするイスラームの社会制度は非常に受け入れやすいのではないでしょうか。また、女性にとっても家族内で不当に抑圧されない限り、夫、父の庇護のもと、安定して子供を産み育てることができるのであれば、それがいいという女性はきっと多いはず。

 

 さて、これからヨーロッパは、そして日本を含めた世界は、どのように変わっていくのでしょうか。ここに『AI』という人格も登場するのでしょうか。

 

 人生の半分以上は過ぎた自分の年齢を、つくづくありがたいと思ってしまう今日この頃なのでした。

 


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