やおよろずの神々の棲む国でⅡ

〝世界に貢献する誇りある日本″の実現を願いつつ、生きること、ことば、子育て、政治・経済などについて考えつづけます。

【中学歴史教科書8社を比べる】90 ⒀ 万葉集の描き方のちがい <その3:まとめ・考察・評価>

2017年02月13日 | 中学歴史教科書8社を比べる(h28-令和2年度使用)

ⅲ まとめと考察


 


1 索引 

 当然ながらどの社も「万葉集」を索引語としている。わざわざここで取り上げたのは、「神話」「天皇」や「神道」の異常さと比べたいため。

 索引語「神話」が無い教科書=帝国書院、清水書院

 索引語「天皇」が無い教科書=帝国書院、学び舎

 そして、索引語「神道」にいたっては、自由社、帝国書院、教育出版、日本文教、清水書院、学び舎の6社が採用していない。(採用は育鵬社と東京書籍のみ)

※受け身の(消極的)学習ではなく、主体的学習(≒アクティブラーニング)で、つまり、ある問題意識をもって調べる場合、索引は欠かせない資料だ。
 ある用語が使われている個所を探そうとする場合、その方法は索引か全頁しらみつぶし調査しかない。索引の抜群の効率性・重要性は明らか。


・索引語に載せるかどうか

 それは重要度(優先度、歴史的価値)と、使えるスペースで決まる。

 もしも3語しか載せるスペースがないとしたら、あなたは、「神話、天皇、神道、万葉集、会津(藩)、新羅」のどれを選びますか? 優先する順番をつけてみましょう。

 実は、価値観は《共有的でありまた個人的》であるので、答えは人によりちがって当然だが、「歴史的価値」と言う場合は、それなりの共有性が必要とされる。
 日本人ならおそらく会津や新羅は4,5番だろう。

 では、万葉集は何番? 
 けっこうむずかしい選択だが、決して「天皇」より前になることはないはず。

 世界標準的・文明史的観点では、1:神話(その民族の紀元)、2:神道(その民族・国民の世界観・宗教)、3:天皇(その国家の政治体制)、4:万葉集(その民族・国民の文学)とする学者が多いだろう。

 このように考えれば、索引語:「神話・神道・天皇」を載せないのはとても特殊な編集判断。

 このうち2つも載せていない清水書院と学び舎はあきらかに異常であり、3つのどれも載せない帝国書院にいたってはそれが歴史(教科)書だとは絶対に言えない

 それとも(中共や朝鮮半島のように)《子供向けの教育用歴史書は宣伝(洗脳)文書だ》とでも言うのだろうか。

 


2 作者 

 「巻頭は雄略天皇」。天皇は特別で重要な作者だ(※好き嫌いは関係なく)。

 意図的に「天皇」を載せない →× 東京書籍、帝国書院、学び舎。いったいどんな編集意図? 

※東京書籍と帝国書院は「歌人、農民、防人」と書いている。
 しかし、「農民、防人」は職業・身分分類だが、「歌人」はちがう。農民の歌人だっているのだから。

※学び舎の異常=これ以外には万葉集の内容についての説明記事はない。
 だから、学び舎の教科書で勉強した中学生は、《万葉集は防人の歌集だ》と誤解するしかない。

 


3 内容:選んで紹介している歌 

 限られた頁数のなかで、全社がその中の歌まで紹介する歌集は万葉集だけ。(例外:育鵬社が古今和歌集で2首紹介)

 それほど万葉集は重要な文学(歌集)なのだが、紹介する歌にちがいが大きすぎる

 一般的に、歴史上の事象を伝える場合、普通は《過不足ない全体像》を描こうとする。

 資料などでさらに具体的内容を紹介する場合は、通常は、その全体像を壊すことなく、なおかつ、その重要な部分・中核的な内容をさらにくわしく知らせるために行うと思われる。

 

 では、各社が紹介している歌(資料)がどのようなものなのか検討してみる。

 育鵬社・自由社・清水書院以外の5社は「防人の歌」か「貧窮問答歌」だけを紹介しているが、それらの万葉集にいける位置づけを調べてみる。(※そう言えば、私の学生時代の記憶をさぐると、《万葉集=防人や、憶良の超貧乏の歌》というイメージが出てくる。) 

・防人の歌

たのしい万葉集: 巻ごと(巻1~20)>および、<⓾  防人の歌にみる人々の生活>より抜粋・引用

 万葉集の全4516首のうち、防人の歌は98首で全体の約2%

 ほとんどが最後の第20巻にある。第20巻には224首あり、防人の歌はそのうちの93首。
 (※全20巻の作者や内容については上記リンクで調べてください。)

 

 

・山上憶良の貧窮問答歌 <参照:ウィキペデア:貧窮問答歌

 万葉集の全4516首のうち、長歌は約260首で、約6%。貧窮問答歌はそのうちの一つ。

 

~では次に、歌人や文学者等による文学的価値づけ関する資料をみてみる~

主な万葉歌200首>より引用

・防人の歌  全200首のうち5首入選(73・117・129・129・148位)。

 ※なお、東京書籍・日本文教・学び舎が紹介している「から衣・・・」は入っていない。つまり、3社の選択基準は、歌の文学的価値ではないのではないか、と思われる。

・貧窮問答歌  152位に入選。長歌の中では6位。

 

 したがって、6社は万葉集の《過不足ない全体像》を描く意図はまったくなく、《徴兵された防人の悲しさや、貧乏への嘆き》を特に重要・中核的な内容として伝えたかったということになる。

 《客観的な、過不足ない全体像》を描こうとしていない →△ 東京書籍・帝国書院・教育出版・日本文教・学び舎。

 

4 万葉集の価値づけ 

 万葉集は「日本文学における第1級の資料」。

・育鵬社・自由社は正確な(=日本や世界での標準的評価)記述をしている。

・日本民族(国民)の代表的歌集としての特別な価値を、意図的に無視している →△ 東京書籍・帝国書院・教育出版・清水書院・学び舎。

 

~古代の部が終わり、次回から中世:「元寇」~

<全リンク⇒> 万葉集<888990(この項終り)