「わらび座」・小島克昭会長おおいに語る

2016年08月17日 | Weblog
 朝日新聞のテレビ番組欄に、本日の見どころ番組を紹介する「試写室」という囲み記事がある。
「あれ、今晩(8月11日)10時からテレビ東京でアキちゃんが出演するよ」と、妻が記事を見つけ声に出して読みはじめた。
……見だしは「多角経営の劇団に迫る」。秋田県仙北市に拠点を構えつつ、全国にファンをもつ劇団「わらび座」。その運営会社の小島克昭会長が今夜のゲストだ。劇場のある敷地内にホテルや温泉、ビール工場まで多角的に営み、人口約2万7千人の地方都市に潤いをもたらす手腕に迫る。今では年間40万超の客を呼び込む劇団だが、1980年代には倒産の危機もあった。地域演劇が盛んな米国の町を参考に「滞在型リゾート構想」をぶち上げたのが小島で、これが躍進の足がかりに。以来、劇団の人気ばかりか、地元に観光産業も生み出してきた。小島は、地方の魅力について「角度をかえれば、なんぼでもある」と言い切る。小島の言葉の数々は、元気がない全国の地方都市にとってのヒントになりそうだ。(小峰健二)……。
番組名は「カンブリア宮殿」。毎週木曜日に、ニュースが伝えない経済人を1時間にわたって放送する番組であるらしい。

 夜10時を待ちかね妻ともどもに見た。
見終わっていちばん心に残ったのは、「温泉への集客・地ビールの販売などの収益で、外部の作者・演出家・俳優などの力を借りられるようになった」との言葉だった。
演技者の安達和平さんも「多方面の才能に触れることができ、学ぶことによって自己をさらに高められた」と語っている。
わたしが在籍していた当時のわらび座は、営業部員が全国に展開し、「実行委員会」を組織しながらかなり旺盛な上演を果たしていた。
しかしその収益だけでは、座の経営を安定させることは困難で、時々ではあるが給与の遅配・欠配は避けられなかったのも事実だ。
なにしろわらび座は、座員の医・食・住を保障し、子どもは高校まで座で面倒をみていた。
座員の給与は、座の創立者も新入りの座員も同じ額で、世間の相場からみれば、微々たるものだった。
差をつけようにも、原資が少ないのでそれしか配分の仕方がなかったのだろう。
わたしがわらび座に入っていちばんびっくりしたのは、給与が支給されることにあった。
わらび座にはいる前、わたしは東京の小さな新劇団に所属していた。
劇団を成り立たせるため劇団員は「劇団維持費」を月々納入し、公演を打つにはチケットの割り当てがたくさんある。
生活費もあわせて稼がなければならず、ビルの窓ふき、サンドイッチマン、清掃、女性はバーなどで働く人が多かった。
いちばん多かったのは「筆耕」=ガリ版で蝋原紙を鉄筆で切る印刷の一工程である。わたしもガリ版学校に通って一応の技術を習得したが、いろんなアルバイトに精を出したものだ。
わらび座はアルバイトの必要なく、切符売りもしなくてよい。現金支給の額は少ないものの座の仕事一筋だけで生活できることに驚いたものだ。

 わたしは23年間、わらび座に在籍した。
母親が高齢になり母といっしょに暮らしていたいちばん末の妹が結婚することになる。
わたしは5人きょうだいの長男であったが、母親の生活は他のきょうだいたちが支えてくれていた。
わたしと妻も「自分たちで出来る限りのこと」として、座からの現金支給の一部を月々おくっていたが、その額は微々たるものにすぎない。
ある日、二番目の妹から「あんちゃん、ばあちゃんが一人住まいになってしまうよ。いままでわたしたちが面倒みてきたけど、あんちゃんも考えてくれない…」と電話があった。
座にひき取っていっしょに暮らすという選択肢もあったが、母の晩年は母が住みなれた地で過ごそうとわたしは座をはなれた。
座の経営状況が厳しいのは身にしみて分かっていたから、もし座が万一の事態に立ちいったたら、当時の座員300人分の1の責務を果たす決意で、退座ではなく休座として母の元に帰ったのである。
座を離れるにあたっては、当面の生活費を座から借りた。それは十数年かけて返し終わった。

「カンブリア宮殿」放映では、ブルベリー農園が紹介され、東京大手ホテル料理長が「代えがたい食材だ」と賛辞を呈していた。
後継者不足などで休耕地が多い中、周辺農家にブルベリーの栽培ノウハウを伝え、年若い農業の受けつぎ手が将来の夢を笑顔で語っているのが頼もしい。
秋田で初めて手がけた地ビール「田沢湖ビール」は販路が広がり、材料である大麦の生産農家のたわわに稔る畑、「温泉ゆぽぽ」で寛いで料理を堪能する人々のゆったりとした姿などが印象にのこった。
本業である文化の仕事は、「わらび劇場」200回を含め年間700回をこえているという。

 民謡の宝庫、秋田県仙北郡に住みついた9人の若者は、地域の方々に守られ育てられた。
60有余の年数を経て、地域に恩返しできる力を蓄えることができたこと、座員の経済生活も向上していることなどうれしい内容であった。


 
 
コメント
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