がじゅまるの樹の下で。

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創作琉球小説「月下に語る」 4/4

2010年12月31日 |   …… 「月下に語る」

 

「月下に語る」(4/4)  予告編  はじめに  1/4  2/4  3/4   
原案/和々  著者/シルフ+和々

  

◆ 七

再び辺りを静寂が覆った。
遠く、静かに響く虫の鳴き声がどこか物悲しく聞こえるのは気のせいなのか。
津堅は阿麻和利の遺体の側にうずくまり声を殺して泣いていた。
賢雄は静かに剣を鞘に収めた。あの心のざわめきは、いつの間にか止んでいた。
しかし、やるべきことはまだ残っていた。
賢雄が阿麻和利の遺体に近寄ろうとした、その時、津堅がキッと振り返った。
「……無礼を承知で申し上げる。阿麻和利様に、触らないでいただきたい。」
そして、阿麻和利の身体を守るように、賢雄の前に立ちはだかる。
「…どけ。」
「いやです。」
「このまま骸をほったらかしにしておくつもりか。」
津堅はいぶかしげに目を細めた。
「……どういう意味です?」
「……阿麻和利按司の墓を作る。」
津堅は予想外の言葉に目を見開いた。
「……賢雄殿が?」
「俺にはその責任がある。」 
賢雄は羽織を脱ぐと、敬虔な振る舞いで阿麻和利の首を取り、それに包んだ。 
丁寧に抱えもち、津堅に振り返る。
「…どこかよい場所の心当たりはあるか。」
「………こちらです。」
津堅はそう言うと、阿麻和利の身体を背負い、歩き出した。

「―――ここは…。」
「……食料を探している時に、見つけました。一時の隠れ家にはちょうど良いかと思っていたのです。」
二人は、巨大なガジュマルの樹の下にいた。
ガジュマルの下ある巨大な岩は鍾乳洞になっており、その入り口を覆うように伸びたガジュマルの気根が、まるでその岩を包み守っているような、そんな感じに見えた。
賢雄は辺りを見回す。人里から離れたこの場所は実に静かで、作物のできない不毛の地ゆえ、人々が寄り付く心配もなさそうだった。 
「なるほど…。隠れ墓にするには、ちょうどいい。」
二人は場を整え、阿麻和利の身体を静かにそこに下ろした。
「……どうぞここで、静かにお眠りください。阿麻和利様。」
と、その時、目の端で橙色の光が見えた。
「朝陽……。」
夜が、明けていく。
「もう朝か……。」
夜明けを告げる光が、全てのものに平等に降り注いでいる。
「そういえば……」
賢雄は口を開いた。
「太陽のような男だった。」
「……阿麻和利様がですか?」
「ああ。」
―――太陽のように、強く、明るく、誰にでも分け隔てなく暖かく包み込む、そんな男だった。 
流れ者の身から按司に登りつめ、民の人望を集め勝連に繁栄をもたらした肝高き按司、阿麻和利。
「……。」
しばしの沈黙。
わたしは、と津堅が沈黙を破った。
「わたしは、武士の心得などわかりません。
阿麻和利様は覚悟を決めろとおっしゃいましたが、賢雄殿の心情も、阿麻和利様が自分を討たせた理由も、理解できません。
わたしは武士として失格なのでしょう。……きっと、一生、あなたを許せないと思います。」
「……ああ、それでいい。許せなくていい。」
―――そんなこと望んでいない。俺は、自分の意思で、武将として自分の誓いを立てるために阿麻和利按司を斬ったのだから。
穏やかな夜明けの光の中、二人はただただ、静かにそこに立っていた。

 

 

◆ エピローグ

線香の煙が細く立ち上っていく。
鬱蒼としたガジュマルの樹の下に、今日も人知れず線香を捧げる人影があった。
どこか子どもっぽさを残していた面影はすっかりなくなり、たくましい青年に成長した津堅であった。
しかし腰に刀はなく、代わりにてぃさーじとクバ笠を手にした農民姿であった。
――――阿麻和利様。今年もあなた様の命日がやってきました。
静かに手を合わせ、合掌する。
年に一度の命日は、自然と阿麻和利との心の対話も長くなる。
改めて、津堅は阿麻和利の最期の日から今日までを振り返る。
――――阿麻和利様。あの後、賢雄殿は何事もなかったかのように首里に帰りました。
賢雄殿と阿麻和利様がここ読谷山で立ち会ったことは今だ明かされていないようで、
王府では阿麻和利様は勝連で死んだものだと処理されたようです。
おかげで、この隠れ墓は静かに守られております。
――――百十踏揚様は、時間はかかりましたが次第に回復され、後々賢雄殿と再婚なされたのだとか。
……そうです、賢雄殿は百十踏揚の一番近くで、阿麻和利様との約束を果たしておられます。

かすかに吹くそよ風に、線香の煙がたゆたう。
――――わたしは武士としての行き方を捨て、農民として、そしてこの墓の守り人としてこの読谷山で生きていくことにしました。
最初は苦労もありましたが、今は妻を娶り、息子も生まれ、やがて一歳になります。
もう少し息子が大きくなったら、ここに連れて来て、わたしがやっていることを継がせようと思っています。
――――どうか、見守っていてくださいませ。阿麻和利様。

津堅はゆっくりと瞳を開く。
頭上から小鳥のさえずりが聞えてきた。
さわやかな風が吹き通り、ガジュマルの葉がさやさやと音を立てる。
穏やかな表情で目を上げると、さぁっと木漏れ日が降り注いだ。

その風と光に身をゆだね、津堅は再び瞳を閉じた。

 

 

―――了―――

 

 

 

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この物語は史実や伝承・民話などの諸説を元にして作ったフィクションです。

「月下に語る」まとめのページ+裏話はこちら♪



6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (YM)
2010-12-31 09:03:33
素敵でした!

賢雄をカッコヨク!男気抜群です♪

が しかし 個人的に津堅が上回った!!

和々さん 古の世界へ導いてくれてありがとうございました!
返信する
Unknown (aika *)
2010-12-31 15:34:04
初めてのコメントです。
毎回更新されるのを楽しみに見させてもらっています!

月下に語る
とても素晴らしいお話ですね!
私は尚巴志の舞台に所属していますが、
平田舞台に関わって6年目。
尚巴志、朝薫等さまざまな人物を主役にした
舞台に立ち、沖縄の歴史上人物にも
興味を抱くようになりました。
今回阿麻和利と賢勇の物語
肝高の阿麻和利にはない物語を
知ることが出来てとても勉強になりました。
ありがとうございました。

(いつも応援していただき、
ありがとうございます!!!)

これからも更新を楽しみにしています!
返信する
YMさんへ (和々)
2011-01-01 10:12:11
最後まで読んでいただきありがとうございました!

おおっとぉ!津堅ですか!これは意外(笑)
でも登場人物皆が魅力的に写ってくれれば良かったので嬉しいです。

そのうち、首里視点(金丸・尚泰久)の話ができればと思ってますよ(笑)
返信する
aika *さんへ (和々)
2011-01-01 10:21:30
こんにちは♪
ご訪問&コメントありがとうございます!

尚巴志メンバーさん、いらっしゃいませ(o^∀^o) ★
いつもステキな舞台をありがとうございます!!
(特に2010年はフル活動でしたね!)

さてさて「月下に語る」最後まで読んでいただきありがとございます。
そうそう、「肝高の阿麻和利」とはまた全くちがった話を作ろうと、
だけどやっぱりみんなかっこよく書こうと思ってできた話です。
阿麻和利の時代はむかーしむかしなので、
色んな説もあって(しかも相反するような)、見方もあって、
そんな色んな説や伝承を知る楽しみ面白さもありますよね♪

aika *さんも色々と調べてみるとまた新しい発見があるかもしれませんよ☆

返信する
感激 (NK)
2012-04-02 09:00:53
涙が止まりませんでした(涙)

津堅のセリフで一気に涙がこぼれて
文字が読めなくなりました。


返信する
NKさんへ (和々)
2012-04-12 22:30:33
はじめまして♪
ご訪問&コメントありがとうございます!

もしかして朗読劇の「月下に語る」を見て、この原作も読んで下さったのでしょうか?

こんなに感動していただきワタシも嬉しいです!
文字でここまで感動できるNKさんはとても感受性と想像力が豊かな方なのですね、きっと(*^-^*)

>津堅のセリフ

……ん?
なんでしょう?(^^;
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