自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

「口蹄疫禍」を新しい時代の夜明けに

2011-07-16 17:28:58 | 牛豚と鬼

 山田前農林水産大臣が「口蹄疫レクイエム 遠い夜明け」 2)を出版されました。殺処分してしまった29万頭の家畜への鎮魂の記で、副大臣として陣頭指揮をしたワクチン接種までの経緯や口蹄疫疫学調査チームの中間報告 3)への疑問等について、知りうる限りの事実を記録で残しておきたいと実名小説となっています。小説とされていますがノンフィクションであり、そこに登場する人物の言葉の引用に嘘はないでしょう。しかし、「遠い夜明け」と記されているように、前大臣の良心として知りうる限りの事実を調べてみても、なお真実は闇の中にあるようです。

 「夜明けが遠い」のは、一つには口蹄疫は殺処分しかないと信じているためであり、もう一つは科学的事実が闇に隠されたままだからです。ウイルス感染症はワクチンで根絶 4)してきました。また、2001年の英国の口蹄疫大発生以来、大量殺処分を回避するためのワクチン接種へと世界は動いています 1) 。なのになぜ、ワクチン接種した家畜を殺処分・埋却しなければならなかったのでしょうか。

 口蹄疫対策検証委員会報告書 5)は、今回のワクチン接種・殺処分が適切であったことを前提にしていて、その問題点について科学的検証をしていませんリンク。殺処分を前提にしたワクチン接種だから実施の了解が得られず、殺処分に対する手当金を法的に準備する緊急事態となりました。しかし、ワクチン接種だけなら手当金も必要なく、ワクチン接種を早くすることができ、感染の拡大を防止できたのではないでしょうか。この防疫指針の問題点が問われなかっただけでなく、ウイルスの遺伝子検査やワクチン接種に関する誤った説明 1) p27-35をしています。「最新の科学的知見と国際動向」を無視した獣医学の学者や専門家の見解 6)が被害を大きくしたのではないでしょうか。2010年6月7日に欧州家畜協会(ELA)から農水省家畜衛生課長宛に、日本の防疫対策を危惧して生かすためのワクチン接種をするよう忠告した手紙 7,8)が届いていますが、この手紙に示された科学的事実に日本の獣医学の学者や専門家は真摯に向き合おうとはしませんでした。

 「口蹄疫は感染が確認されたときには、その農家の家畜はすべて感染していると判断しろ。口蹄疫を撲滅するには殺処分して埋却するしかない。」という獣医学の学者や専門家の御託宣に従えば、感染の疑いがある農家の家畜全頭を殺処分し、埋却するしかありません。また、感染を食い止めるために健康な家畜まで防火帯のようにワクチン接種するのは理解できますが、「ワクチンを接種した家畜については、早急かつ計画的にとう汰するべきである」 9)としたのは何故でしょうか。これも御託宣に沿った決定なのでしょうか。

 科学は仮説を疑い、あるいは仮説を証明する真摯な知的行為です。不都合な情報は無視し、疑われず、証明されることもない御託宣(ドグマ)に固執することは破滅をもたらします。殺処分を前提にしか説明しようとしない口蹄疫対策は、安全を前提にしか説明しようとしない原発推進と同根であり、前提として命より一部の利益を大切にしたドグマが破綻をもたらしたのではないでしょうか。

 29万頭の家畜への鎮魂は、現在の口蹄疫対策を科学的に検証することから始めなければなりません。第11回家畜衛生部会議事録(平成23年5月25日) 10)によれば、「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針 11)」の変更が検討されているようです。改訂されたばかりの家畜伝染病予防法には、防疫指針は「最新の科学的知見及び国際的動向」を踏まえて検討すると明記されていますが、どのように踏まえて何を見直すのでしょうか。

 口蹄疫対策は国や県の権限で作成、実施するものではなく、民間の英知を結集して問題解決にあたるべきです。口蹄疫は現場で発生するので、関係者一人一人がマネージャーとして官民一体となり、真摯に取り組むべきマネジメントの問題です。このため国や県や現場の関係者が、「最新の科学的知見と国際動向」に対する認識を共有し、現場で実現可能な対策を実現し、実践していく必要があります。「口蹄疫禍」を新しい時代の夜明けにできれば、家畜への真の鎮魂になるでしょう。

 スライド1-2 ,スライド14

畜産システム研究会第25回大会
口蹄疫に関するシンポジウム「口蹄疫禍を繰り返さないために」(リンク10)
15:00 - 15:45 口蹄疫被害最小化のためのマネジメント -遺伝子検査とワクチン接種-
               畜産システム研究所  三谷 克之輔

2011.7.16 開始 2011.8.4 更新 2012.1.2 更新中


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