自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

2.口蹄疫の防疫指針に示されたワクチン

2015-04-08 21:19:06 | 牛豚と鬼

三谷 口蹄疫の防疫指針(平成23年10月1日)は、ワクチンについて次の取りの指針が示されています。
 第13 ワクチン(p.45)
 1.現行のワクチンは、口蹄疫の発症の抑制に効果があるものの、感染を完全に防御することはできないため、無計画・無秩序なワクチンの使用は、口蹄疫の発生又は流行を見逃すおそれを生じることに加え、清浄性確認のための抗体検査の際に支障を来し、清浄化を達成するまでに長期間かつ多大な経済的負担や混乱を招くおそれがある。このため、ワクチンの使用については、慎重に判断する必要がある。
 2.動物衛生課は、ワクチン接種が必要となる場合に備え、患畜又は疑似患畜の判定後速やかに、その原因ウイルスの血清型及び遺伝子の配列情報の分析結果等に基づき、当該ウイルスに対する備蓄ワクチンの有効性について、判定する。
 3.備蓄ワクチンが有効と考えられる場合は、第12(予防的殺処分)に定めるところにより使用する。
 4.農林水産省は、ワクチンについて、韓国の事例も踏まえ、更に研究・検討を進める。

 国が管理している備蓄ワクチンを無計画・無秩序に使用することはありえず、第1項のワクチン使用を慎重にする理由は全て科学的ではありません。また、第3項の予防的殺処分のためのワクチン接種は、現在の科学的知見では考えられません。第4項の研究・検討を進めるでは、口蹄疫発生時の防疫指針にはなりません。これらについては順次検討させていただきたいと思いますが、まず備蓄ワクチンは、どんなワクチンなのでしょうか?

山内  日本の備蓄ワクチンの内容は2008年に購入した際の立会調査報告 からうかがい知ることができます。
 この報告などから、日本はワクチン・バンク用の濃縮ワクチン(英国で備蓄)と最終製品(動物検疫所神戸支所で備蓄)の2種類を保有していたことが分かります。ワクチン・バンクは英国パーブライト研究所の敷地内にあるメリアル社が保管しています。ワクチン・バンクでは通常300倍位に濃縮した口蹄疫ワクチンが液体窒素タンクで冷凍保存されています。これは中間段階のワクチンで緊急接種の際には、それを融解・希釈して最終製品に仕上げることになっています。2000年の宮崎の発生の頃はまだワクチン・バンクのシステムはなく、最終製品を輸入して冷蔵庫で保管していました。このワクチンの有効期間は2年間でしたが、ワクチン・バンク保管のワクチンでは5年間です。2010年宮崎の場合にはメリアル社は注文を受けて5日後に最終製品を納入したと聞いていますこの緊急輸入ワクチンと日本で備蓄していたワクチンのどちらが使用されたかは不明です。また、この報告では1つの血清型の不活化濃縮抗原を購入したとなっていますが、EUでは流行株に適合させるために数種類の血清型のワクチンを備蓄しており、さらに適合した株の備蓄がない場合にEU加盟国間で提供する態勢を作っています。ワクチン・バンクで1つの血清型ワクチンだけの備蓄はきわめて考えにくいのですが、ワクチン・バンクの実態について政府はまったく説明していません。

三谷 日本はワクチンの最終製品を動物検疫所に備蓄し、不活化濃縮抗原は英国に備蓄して、口蹄疫発生時には緊急に英国からワクチンの最終製品を輸入できる準備ができていて、両方を備蓄ワクチンとしているということですね。政府はこの備蓄ワクチンとワクチン・バンクの契約内容を公表して、ワクチンに関する情報は広く共有すべきだと思います。
 ところで最近報告された動衛研研究報告118号(2012年3月)のp.29には、ワクチンの使用決定時には、ワクチン株であるO1/Manisa株は分離ウイルスと相同性が高い香港分離株に対して有効であるr1値を示すことが判明していた」と報告されています。また、日本の口蹄疫ウイルスの分離株(O1/JPN/2010)のO1/Manisa株に対するr1値は約0.7であったと報告されています。このr1値が日本の分離株に対して約0.7であったことは、ワクチンが香港株と日本の分離株のどちらにも有効であったことを証明するものでしょうか?

山内 この報告では“検証”するために免疫血清を牛で作製したと述べられています。おそらく事態が落ち着いてから牛にワクチンを接種して免疫血清を作製してr1値を求めたと推定されます。その免疫血清についてワクチン株と分離株の抗体価を調べてOIEマニュアルにしたがってr1を計算した結果0.7 となったのです。OIEマニュアルでは中和試験によるワクチン適合試験(vaccine matching test)では0.3以上であれば、“流行ウイルスは十分にワクチン株と同等、すなわちワクチンによる防御効果が得られる可能性がある”となっています。したがって、ご質問のとおり、このワクチンは香港株と日本分離株に有効とみなせます。
 なお、本来であれば備蓄ワクチンに対する免疫血清は用意しておいて発生があった際には直ちにワクチン適合試験が実施できる態勢をとっておくべきです。

三谷 ワクチン適合試験は、「口蹄疫ウイルス不活化精製ワクチンAftopor(O1/Manisa株,メリアル製)2mlを約6ヵ月齢の黒毛和種に筋肉内接種し、接種後3週目以降の血清を用いてO1/JPN/2010株とO1/Manisa株に対する中和抗体価を測定したところ、それぞれ64倍と90倍であったことからO1/JPN/2010株のO1/Manisa株にたいするr1値は0.7であった」と報告(p.29)されています。2008年に購入した備蓄ワクチンは、O1/Manisa株に加えMalaysia97株とAsial-IRS(Shamir)株を混合した混合ワクチン でしたので、このO1/Manisa株ワクチンは緊急輸入した単種ワクチンかもしれませんね。日本でO1/Manisa株に対する中和抗体価を測定していますが、これはワクチン株のウイルスは日本でも保管しているということでしょうか?また、ワクチン株をO1/Manisa株に絞り込んだのは、ウイルス遺伝子の塩基配列の情報からでしょうか?

山内 中和試験にはウイルスが必要です。しかし、日本がウイルスを保管していたかどうか分かりません。おそらく保管していたものと推測されますが、海外で試験を行った可能性もありえます。ワクチン株をO1/Manisa株に絞り込んだ理由ははっきりしませんが、前のご質問で紹介されているように、O1/Manisa株は分離ウイルスのVP1の塩基配列で相同性が高い香港分離株に対して有効なr1値ということから決定されたものと推測されます。VP1は中和抗体産生にかかわるタンパク質です。なお、O1/Manisa株は1969年にトルコで分離されたもので、血清型Oのワクチンとして代表的なものです。

三谷 英国で2007年に口蹄疫が発生した際には、ウイルスは英国動物衛生研究所とメリアル社の敷地から流出したことが24時間以内に判明して公表され、5日以内にワクチン接種ができる態勢を準備しています。また、ウイルス遺伝子の塩基配列の分析によって感染経路を疫学的に調査して発生順についても明らかにしています。わが国の防疫指針でもワクチンの第2項で、「ワクチン接種が必要となる場合に備え、原因ウイルスの血清型及び遺伝子配列の分析結果に基づき、備蓄ワクチンの有効性について判定する」とありますので、英国と同様の初動対応ができるはずです。しかし、備蓄ワクチンの説明がされていないだけでなく、ウイルスの遺伝子塩基配列の分析結果に基づく疫学調査やワクチンに使用するウイルス株の選択等の重要な情報が今回は一切活用されていません。この第2項を重視して英国と同様の初動体制を準備する必要があります。

初稿 2012.7.5 2015.4.5 更新


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2 コメント

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既にご存じかも知れませんが、こちらで、宮崎口蹄... (コンタン)
2012-07-07 17:45:39
既にご存じかも知れませんが、こちらで、宮崎口蹄疫関連の大量の資料が公開されています。
http://www.miyazaki-ombuds2.org/kouteieki.php
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 口蹄疫対策に関係する専門家グループは「最新の... (三谷克之輔)
2012-07-07 23:16:36
 口蹄疫対策に関係する専門家グループは「最新の科学的知見と国際的動向」を無視して、嘘の説明ばかりしています。この点につきましては、
 5.口蹄疫の防疫指針作成の経緯
 6.口蹄疫対策検証委員会の問題点
で対談していますが、ご指摘のように、みやざき・市民オンブズマンから公開請求された牛豚等疾病小委員会の議事録が黒塗りで公開されています。口蹄疫対策の誤りを認めようとしない国の態度の行きつく先が黒塗りの議事録であり、それはまた再び失敗を繰り返すことにもつながりますので、これを放置することはできません。
 口蹄疫も原発も、専門家グループだけに任せておけない問題になってしまいました。専門家グループを信頼できないことは、市民にとってしんどいことですが、手塚治虫作「陽だまりの樹」のように、この国をシロアリの巣にしてはいけないという思いで、情報発信を続けさせていただいています。情報共有の場が拡がることを祈りつつ。


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