自然とデザイン

自然と人との関係なくして生命なく、人と人との関係なくして幸福もない。この自然と人為の関係をデザインとして考えたい。

「口蹄疫を終息させるための被害最小化問題」と対策

2010-10-21 16:09:53 | 牛豚と鬼

口蹄疫の悲劇は、症状が軽くても伝染力が強いので経済的影響が大きく、今のところ殺処分しか伝染を防ぐ方法がないことにあります。しかし、伝染を防ぐための殺処分それ自体が被害を生みますから、いかに殺処分を少なくして口蹄疫を終息させるかが問題となります。

口蹄疫に感染している患畜と、感染の疑いがある疑似患畜について殺処分されますが、感染か健康かをどう見分けるか、しかもその見分ける方法を現場の状況によって実際にどう利用できるかによって、殺処分の方法も分かれます。

殺処分の方法は、個体単位、畜房単位、畜舎単位、農場単位、地域単位が考えられますが、日本では農場単位、韓国では地域単位の殺処分が実施されています。いずれも感染か健康かに関わらず全殺処分する方法でリングカリングと言われています(日本の農場全殺処分もリングカリングの1種と考えて良いでしょう)。

しかし、全殺処分で注意しなければならないことは、動物を殺処分してもウイルスは糞尿、敷料、未完熟堆肥等に生き残ることです。しかも殺処分の規模が大きくなるほど、必要な人、車、重機の移動、時間、場所が多くなり、そのことによってウイルスの伝搬を拡げる恐れがあります。

したがって殺処分は、感染の可能性が高いと科学的にも考えられる最小単位にすべきです。豚は伝染力が強いことや衛生管理を個体単位で実施するより全殺処分の方が現実的であると養豚関係者は主張されているようですが、養豚経営も放牧養豚から大型経営と多様です。そこで最小単位として豚は豚舎単位、牛は同一群で飼育している牛房単位での殺処分を提案します。

ここでは牛房単位の殺処分を前提に防疫体制について具体的に考えてみます。

1. 口蹄疫感染の早期確認
 口蹄疫の防疫対策にとって早期に感染畜を確認することが最も重要ですので、次の防疫体制を提案します。
1) 家畜保健衛生所におけるウイルス遺伝子検出による1次検査を導入し、日常的な病性鑑定の項目に加えるようにする。
 海外ではウイルスの核酸増幅と蛍光分析を組み合わせた小型簡易迅速検査法が開発されています。日本ではもっと簡易なウイルス遺伝子検査法が人の新型インフルエンザやノロウイルス検査用に実用化されていますので、口蹄疫検査に応用すべきです。
2)届け出のあった検体を1次検査し、その結果を検体とともに国に送り、確認検査をします。
3)届け出のあった検体が1次検査で陽性の場合は、農場全頭について赤外線体温計(サーモグラフィー)で体温を測定し、高温のものは検体を採取して1次検査をします。
4)近隣農家についても調査を続けます。
5)豚の場合は豚舎単位で同様な作業を実施します。

2.口蹄疫防疫体制の検討と決定
 国が感染を確認したら、直ちに県に防疫対策本部を設置し、以下について決定します。
1) 発生農場の殺処分の範囲
2) 危険区域、移動禁止区域、搬出禁止区域の範囲
3) リングワクチンの実施時期と範囲
ただし、リングワクチンは移動禁止区域の周縁から発生源に向かってリング状に接種
4)危険区域と移動禁止区域の担当と作業を完全に分離
5)危険区域における発生農場の担当者と未発生農場の担当者の作業を分離
6)危険区域の全頭について、毎日、赤外線体温計で体温を測定し、目視検査とともに記録

3.発生農場の殺処分
1) 感染が確認された農場では赤外線体温計と1次検査の結果から、牛房単位で殺処分することを原則とします。
2) 近隣農家の調査や届け出のあった農家についても、1次検査と国の確認検査の結果により陽性であれば同様に牛房単位で殺処分します。
3)豚の場合は豚舎単位で同様の方法で殺処分します。

4.ワクチン接種群における監視
1) ワクチン接種群は全頭、毎日、赤外線体温計で体温を測定し、目視検査とともに記録します。
2) 体温の異常が続き2頭に拡がった場合は、検査用検体を国に送りNSP抗体検査をします。

5.ワクチン接種群の感染畜の殺処分
1) NSP抗体検査が陽性の場合は、牛房単位で殺処分します。
2) 搬出禁止区域の赤外線体温計と1次検査を強化します。
3) 搬出禁止区域にリングワクチンを拡大するか検討します。

6.清浄化確認検査
新たな発生が認められなくなった場合は、
1) ワクチン接種全頭についてNSP抗体検査を実施する。
2) リングワクチンの内側の全頭、外側はサンプリングによって遺伝子検査によって感染畜のいないことを確認する。

2010.10.21  開始 2010.10.22  更新1


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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
>しかし、全殺処分で注意しなければならないこと... (現役養豚家)
2010-10-24 11:16:19
>しかし、全殺処分で注意しなければならないことは、動物を殺処分してもウイルスは糞尿、敷料、未完熟堆肥等に生き残ることです。しかも殺処分の規模が大きくなるほど、必要な人、車、重機の移動、時間、場所が多くなり、そのことによってウイルスの伝搬を拡げる恐れがあります。

家畜の生体内でウイルスは増えますが、糞尿や敷料のなかではウイルスは減ることはあっても増えることはありません。
物事には優先順位と言う物があります。
牛農家の牛房はコンパートメントの概念からかけ離れていることおお忘れ無く。

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現在の農場単位の殺処分は、感染畜の殺処分のため... (satousi)
2010-10-24 18:10:08
現在の農場単位の殺処分は、感染畜の殺処分のために多くの健康畜を殺処分しています。健康畜からはウイルスは排泄されません。この健康畜の殺処分をいかに少なくするかを考えねばなりません。牛房単位の殺処分は、現在利用できる科学技術を前提にしていますが、近い将来では個体単位での殺処分も可能になると考えています。

畜舎や道路を消毒するのは、そこでウイルスが増えるからではなく、ウイルスを人や車が運ぶからです。感染畜を殺処分しても糞尿や敷料は最も危険な感染源として残ります。

ウイルスをワクチンで撲滅するのは世界の常識だと思いますが、なぜ殺処分を前提にしたワクチン接種をしたのでしょうか。OIE基準の改定を知らなかったか、無視したのでしょうが、その一方で、「牛房はコンパートメントの概念からかけ離れている」と脈絡なくOIE基準を持ち出される。

OIE基準や法律にしたがって過剰な殺処分を正当化するのではなく、科学技術の進歩を促しつつ、口蹄疫を終息させるために、いかに被害を最小化するかを考えるべきです。科学技術の発達によりOIE基準は改定されましたが、日本の口蹄疫の防疫方針は見直しの検討さえされていません。

日本の専門家は口蹄疫ウイルスを、「牛の1日ウイルス排泄量で10万頭、豚はその1000倍の1億頭を感染させ得る」と、とんでもない鬼にしてしまい、科学ではなく恐怖心を根拠にして防疫対策を考えているようです。

宮崎の被害がいかに大きかろうが、他の地域の畜産が守られれば良いという問題ではありません。そのように考えられる方には、なぜ日本に家畜が必要ですかと問いたい。日本に家畜がいなくなれば口蹄疫を心配することもなくなりますから。

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問題は、陽性家畜を早期発見して、隔離することで... (りぼん。パパ)
2010-10-27 18:28:09
問題は、陽性家畜を早期発見して、隔離することです。この場合に、陽性家畜の見逃しは、許せません。少なくとも、豚は、陽性で生きていれば、ウイルス発生器になるので、殺処分ですね。あとは、日本のような密飼いですと、殺処分頭数が増えるのは、やむをえないでしょう。

どこまでを、殺処分範囲としべきなのか、科学的データーがほしいところです。

不顕性陽性家畜をどう発見するかが、問題でしょう。1番は、生きている家畜で、ウイルスが増殖するのを、早く止めたいですよね。

宮日新聞によると、口蹄疫が治って、疫痕が残っていた牛が相当数居たとのこと。。これ、治っても、ウイルスが排泄される以上、殺処分してもらわないと、いけないのですが、自然治癒牛の取り扱いが、明確でないのが困ります。
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そろそろ話題が机上演習の段階に入ってきたようで... (satousi)
2010-10-28 21:14:24
そろそろ話題が机上演習の段階に入ってきたようですね。摘発・淘汰(スタンピングアウト)を基本としますが、その最小単位として1頭でも陽性が確認(摘発)されたら牛ではその牛房、豚はその豚舎の全頭を殺処分することから机上演習を始めることを提案します。最初の摘発の段階で、これにリングワクチンとリングカリングのそれぞれを何時、どの範囲で実施するかを決定します。

今回の大きな問題点は、最初からワクチン接種と殺処分を一体に考えていたことですが、これは分けて考えねばなりません。

今回は29万頭の殺処分のうちリングワクチンと称して20万頭が殺処分されました。真の感染畜は29万頭のうち何頭だったのでしょうか?

今回は20日に発生確認し、その翌日に2件の届け出があったことから、この段階で感染が拡大していることを想定し、ワクチン接種を検討すべきでした。また、農場全殺処分の前に牛房単位の検査をしておく必要があり、どの範囲まで殺処分をすべきかを検査の結果から決定すべきでした。リングワクチンは移動禁止区域の周縁から感染地帯に向かって接種し、殺さないで防火帯を作ることです。密集地帯であるからこそ検査を徹底し、殺処分を少なくすべきだと考えます。ただし、豚は検査なしで畜舎単位の殺処分の方が早くて感染を拡大させないためにも良いかも知れません。

2000年宮崎口蹄疫では2ヵ月で出張費を含めて7千万円の試験場経費で6万検体の抗体検査をしています。1日平均1000頭、1頭当たり12千円の検査をしたことになります。今日の技術革新を導入して検査体制を充実すれば、この倍の検査も可能と思われ、全頭検査をしてその結果によって殺処分することは可能と思われます。
http://ss.niah.affrc.go.jp/disease/FMD/taiou.html

韓国ではこの段階で3農場それぞれから半径3km以内の全殺処分になりますが、密集地帯でも同じことをしたでしょうか。英国はこの段階でワクチン接種の範囲を決定したでしょう。

2007年英国のケースでは、最初の発生確認の段階でウイルスの塩基配列分析から隣接している研究所のウイルスが感染源である可能性に言及していました。ワクチンは発生確認後5日までに準備するルールがありますが、疫学調査が的確に迅速になされたことで、ウイルス株まで指定して注文しています。しかし、使用しなくても危険区域の半径3kmより外に拡がる心配がないとして、摘発・淘汰(スタンピングアウト)の対策だけで終息させました。

詳細は英国Defraの報告にあります。
http://www.defra.gov.uk/foodfarm/farmanimal/diseases/atoz/fmd/2007/index.htm

日本は初動の遅れが問題になっていますが、4月20日以降の疫学調査の遅れと杜撰さも大きな問題だと思います。

自然治癒牛の問題も検討する必要がありますが、疫学調査を徹底すれば確認出来たでしょうし、今回は自然治癒牛がいることが感染拡大に大きな影響を与えたようには思えません。しかし、机上演習では想定しておく必要はあるでしょう。

それよりも今回のテレビ映像からワクチン接種の注射針を交換していないことが気になりました。殺処分するまでの時間稼ぎワクチン接種が、逆に感染を拡大した要因の一つになっていたのではないでしょうか。

また、畜舎から車の出入りする通路脇に牛糞が積まれて、人や車が踏んでいる光景も見ましたが、このような農場が多いとしたら、感染拡大の要因になったと考えられます。

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牛舎単位とか、何々単位とかで、殺処分範囲を決め... (りぼん。パパ)
2010-10-30 22:58:38
牛舎単位とか、何々単位とかで、殺処分範囲を決めるとのことですが、農家さんごとで、牛も豚も、微妙に、飼育方法が、違っていると思います。

陽圧ウインドレスから開放放牧まで、システムがありすぎて、それら飼育条件を、採点して、判断しないと、どこまでが、汚染範囲と認定できるのか、検討がつかないと思います。

人間だって、伝染病の疑いがあれば、隔離病棟へまず、隔離しますが、日本の過密畜舎では、隔離する場所さえないでしょう。

24時間以内に、健康家畜と感染家畜を分けて、しかも、不顕性陽性家畜も、分けることが、理論ではなく、実際できるのか?

時系列で、NSP抗体判別法を詳しく説明されないと、ある瞬間時刻に、ここまで、陽性の疑いがあるので、処理時間を余分に入れて、ここまで、殺処分と言う具体的な方法を、提示してもらわないと、よく解りません。

山内教授に、擬似患畜の実データーなど、参考に、具体的淘汰プランを、特定の農場の畜舎構造ごとで、ここまで汚染、ここから健康という風に決めてもらわないと、正直、良く解りません。

PCRでの、擬似患畜のサンプルデーターをみせてもらい、NSP抗体のものもみせてもらい、もっと、より具体的な説明を受けないかぎり、もし、陽性を陰性と間違って判断した場合の防疫ラインの採り方など、ピンと来ていないです。畜産って、同じようにやってるように外部からは、見えるのですが、実態は、農場ごとでばらばらで、器具も共用だったり、別だったりでしょ。

どこまで、やれば、安全帯ができるのか?未だ納得できません。

ただ、すべて殺してしまえば、増殖すべき家畜が居ないので、消毒との併用で、沈静化するだろう程度でしか、わかりません。

その辺を、きちんと書いてくださらないと、無難とすれば、家畜を殺すウイルスともにが、簡単ってことになっちゃうようです。
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口蹄疫は感染している家畜を殺処分して終息させる... (satousi)
2010-10-31 09:42:13
口蹄疫は感染している家畜を殺処分して終息させるしかありません。殺処分を多くすればするほど安心ですが、それだけ被害も多くなります。私たちの目標は「口蹄疫を終息させる」だけでなく、「被害を最小にする」ことではないでしょうか。現在は牛も豚も、飼養形態も無視して農場単位の殺処分にしていますが、これは「被害を大きくする」が安心な対策に過ぎません。

感染しているか健康かを見分けるには遺伝子検査しかありません。現在の検査技術と検査体制で1日何頭の遺伝子検査ができるかで、殺処分の範囲も決まります。少なくとも検査の結果を参照して牛房単位、豚舎単位から殺処分すべきだと主張しています。牛房単位の理由は、牛同士の接触感染と糞尿、敷料を介しての感染の可能性が最も高い群であるからです。

最初の検査で陽性と確認されたら、会議で公的に確認する作業の準備と平行して、まず取り組むべきことは感染源の周辺の遺伝子検査を可能な限り実施することです。この検査の結果から殺処分の範囲を決めます。

遺伝子検査と抗体検査については別に説明しますが、遺伝子検査(1次検査)を家畜保健衛生所で実施する体制を1日も早く実現するように農水省に呼びかけることが急がれます。

マニュアルを求める前に、どうすれば「被害を最小化できるか」をみんなで考えることです。獣医師や医師の方々も含めて英知を結集することが、このネットの目的です。口蹄疫のワクチン問題は、インフルエンザのワクチン問題と不思議なくらい構造が類似していますから。
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遺伝子検査(1次検査)を家畜保健衛生所で実施す... (りぼん。パパ)
2010-11-01 19:24:46
遺伝子検査(1次検査)を家畜保健衛生所で実施する体制を1日も早く実現するように農水省に呼びかけることが急がれます>>>>

これには、毎年、小平で、各県の検査技師を呼び、研修する必要を感じます。蛍光染色など、うまくできているか、それぞれの技師にやらせてみて、また、過去、PCR陰性後、24時間後PCR陽性とか、PCR擬似陽性とか、やらせてみないと、わからないことばかりです。

すでに、2010Jとか、塩基が、解ってしまった後は、楽になるでしょうが、初発をPCRに掛けて、発見するのは、経験と技術を、研修で、伝授しないと、陽性検体を、陰性と判断しかねないでしょう。

PCRは、一般的に、到着後すぐ検査。24時間後検査と、2段階は、最低しているはずですし。。

後は、全家保で、P3やP4施設を持たなくても、動物衛生研究所の支所単位でも、構いませんが。。

1次検査で、陽性を陰性と誤判断すると、後が、大変になります。この例が、韓国、台湾でしょう。
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