uparupapapa 日記

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お山の紅白タヌキ物語  第18話 予知と会議

2024-02-19 05:25:04 | 日記

 キスカ島守備隊の撤退が終了し、雪江タヌキは札幌の北部軍司令部に報告のため帰投した。

 樋口司令が雪江タヌキの目から見た実際の状況報告を受け、事象の経緯を理解する。

 それまで事前に北方部隊指揮官河瀬四郎第五艦隊司令長官や、第一水雷戦隊司令 木村昌福少将などから受けた報告と時系列の経過は一致するが、何故不可解な奇跡が起きたのかが謎だった。しかし雪江タヌキの報告を聞き、ようやくその謎の部分が腑に落ちる。

 確かに雪江タヌキの妖術や神通力が無ければ、一連のアメリカ軍の動きは説明できない。

 彼女の報告を総合的に判断すると、事実経過の推移の説明に齟齬が無く、多分自分の手柄として誇大に吹聴した訳ではないだろう。

 アッツ島での活躍は目に見えにくいものであったが、キスカ島撤退は明らかな超常現象と云えたから。

 

 そして何より驚いたのは、雪江タヌキの姿の変容にあった。

 彼女は司令部に赴くにあたり、当然人間の姿に化け司令に謁見したが、以前とは見違えるような神々しさのエネルギーに満ちていた。

 樋口司令はもちろん雪江タヌキの正体を知っているので、何も人間に化けてまで会うことはない。

 だが司令部の中には彼女の正体を知らない者もいる。

と云うか、知る者の方が少ない。ごく限られたもののみが司令部を訪れた雪江タヌキを司令室に通すため、事前に知らされているだけである。

 だから余計な誤解や波風を避けるための配慮として、人に化けているのだ。

 

 雪江タヌキの報告が終わり「戻ってよし」と云われても、雪江タヌキは何か言いたげで動こうとしない。

「どうした?」と問うと、思案の挙句とでもいうように、

「司令に申し上げたいことがございます。」と何かを決意したかのように口を開いた。

「聞こう。」

「実はわたくし、一度神通力を失っていた時期がございます。

 ですがわたくしに神通力を授けてくださったお地蔵さまより、以前より強力な神通力を再び授けて頂きました。」

「ほう、より強力な神通力とな?」

「そうです。その力はひとつひとつの戦地に影響を及ぼすのみならず、この戦争の行方を左右するほど絶大なものです。」

「戦争の勝ち負けを左右すると?どれほどの力なのか?それ程の殺傷力があるとは恐ろしいものであるな。」

「いいえ、違います。わたくしがお地蔵さまから授けられた能力は、人を殺めるためのものではありません。むしろ、人を生かすための能力です。」

「それは如何なるものか?」

「はい、実はわたくしが本来持っていた神通力は、主として千里眼でした。

 でも今はその千里眼に加え、未来を見通す予知能力も授かったのです。

 この能力を使えば、今後の戦況を総て事前に把握できます。

 つまり今後起きる悲劇を回避したり、有利に誘導できると云う事です。

 でもお地蔵さまが私に授けて下さった時、当然のことですが人を殺めることを目的にしてはいけないとの教示も受けております。なので私は考えました。

戦争に勝つためにこの能力を使うのではく、戦争を終わらせるために使うことこそがお地蔵さまの意に添う行いではないか?と。

 戦争を終わらせるためには、今後起きる総てを知っていただくことが一番かと。

 私が持つ予知能力は私のみが知るだけではなく、私に見える総てを映画の映像のように写し出し、皆様にご覧いただけるのです。」

「ほう、それは凄い!是非我にもその未来の映像を見せて欲しい。

 どうだ、この場で映し出せるか?」

「はい、可能です。ですが今後の戦況はあまりに刺激が強すぎますので、まずは試しに明日の司令の一日をお見せしましょう。」

 そう言って雪江タヌキは樋口司令の起床から就寝までの様子をダイジェストで映し出した。

 そこには確かに明日の行動予定が映し出されている。

 それも、誰も知らない筈のスケジュールまでも、まごう事無き自分の姿で映っているではないか。

 樋口司令は衝撃を受ける。

 これは本物である!しかもこの映像はモノクロではなく、鮮明なカラー映像であった。 

 だが、この未来の自分の日常を写し出した映像を見ただけで満足するはずもない。

 雪江タヌキは、戦争そのものの未来を映しだせるというではないか。

 であるならば、当然司令官の立場として、強い興味と情報収集の意味からも、未来の戦況を知りたいと思った。

「雪江タヌキよ、私の明日の行動はよく分かった。

 そこもとは戦争の未来は刺激が強過ぎると申したが、私はこの戦争を預かる軍人であり、司令官である。

 我はその責任ある立場として、今後起きる事柄を知る義務を負うておる。

 我らの未来が如何に困難なものであっても、この戦争を指揮する者として直視しなければならぬのだ。

 だからどうかその未来の映像を見せて欲しい。」

「承知いたしました。

もとよりまず樋口司令にご覧いただかなければ、先に進めません。

ですが事前の警告として申しますが、これからご覧いただく内容は想像を超えた悲惨さを伴います。

ですので、心してご覧ください。」

 

 そうして雪江タヌキは1943年8月以降の主な戦況を司令の目の前の空間に写し出した。

 インパール作戦、マリアナ沖海戦、ペリリュー島の戦い、レイテ沖海戦、硫黄島の戦い、東京大空襲、沖縄決戦、広島原爆投下、ソ連参戦、長崎原爆投下、ポツダム宣言受諾、ソ連の満州侵略、占守島の戦い、米ソ対立・・・。

 

 激戦地での悲惨な状況、阿鼻叫喚、アメリカ軍の圧倒的な火力!

 原爆の想像を絶する凄まじい破壊力と迫力。

 見る者の頭の中に響く大音響。

 我らはこんな奴らを相手にしていたのか?

 相手が準備不足だった緒戦はともかく、本格的な戦時増産体制が整った今のアメリカは、日本との国力の差が顕著になり過ぎていた。

 それに雪絵タヌキのパワーアップした神通力を以てしても、かないっこないと分かる。

 この大きな違いに「もう無理!」と云う言葉しか出てこないではないか。

 これ以上の戦争継続は、全くの無意味だと見た者誰もが悟るだろう。

 今以降、戦死者を出すのは、戦争の行く末を目撃してしまった以上、戦争責任者としてこれ以降の戦争遂行は無責任の誹りを免れず、(どう考えても戦死者たちに対し不遜であるが)ハッキリ言って無駄である。

 

 不遜?尊い英霊を『無駄』と申すか?

 

 いや、我が命を賭けてでも国を護ろうという行為が無駄なのではなく、無為無策で無能な作戦と指導者の行為が『無駄』なのであり、英霊に対する不遜の極みなのだ。

 『無駄』な戦死者を出すのは罪である。

 それも国家を揺るがす大罪である!!

 

 

 この大戦を戦った結果の凄惨な未来を目撃し、

「何という・・・・・・。」

 樋口司令は言葉を失い、茫然自失の状態になった。

 これは作り物なんかではない。総て戦争継続の結果、今後実際に起きる出来事なのだ。

 これから先、何人の犠牲者が出るのか・・・。いや、『我々が』出してしまうのか?

 樋口司令の印象に強く残ったのは、原爆投下の言いようのない恐ろしさと、我が北部軍が直接関わるソ連参戦、続く占守島の戦いにより強い衝撃を受けた。

 この一連の映像を見てしまった以上、指揮官としてやるべきことは一目瞭然である。かかる悲劇は例え自らの生命を賭けてでも、責任を以って何としても止めねばならぬと。

 

 樋口司令は決断した。

「雪江タヌキ殿、今の映像をもっとたくさんの者たちにも見せねばならない。

 悪いが幾度か又、この映像を他の者たちにも繰り替えし見せてやってはくれないか?」

「承知いたしました。

 喜んでご希望に添わせていただきます、はい、何度でもお見せいたしますとも!

 でもひとつだけご忠告申し上げます。

 この映像をご覧になって未来を変えようとなさるなら、当然その行為は未来の歴史を変えてしまうという、重大な結果をもたらすと云う事を。

 その決意とお覚悟はお有りですか?」

 樋口司令はその問いに応えず、真っ直ぐに雪江タヌキを見据え、

「まずはこれから北部軍司令部首脳たちに見せ、その後大本営、政府首脳、天皇陛下にも見て頂かなければならないだろう。

 差し当たってここ(北部軍司令部)からだな。これから頼めるか?」

 この返答が雪江タヌキの問いかけへの答え(覚悟)の全てだった。

 もう何も恐れない。今後予想されるどんな障壁をも命賭けで突破してみせる。

 私が必ずこの戦争を終わらせる!そんな気概に溢れていた。

「大丈夫です。」それを受け、雪江タヌキも司令から視線を逸らさず応える。

「それでは大至急首脳会議を開催する。人を集めるので暫し待って欲しい。」

 

 そして休む間もなく、北部軍緊急首脳会議が開かれた。

 

 首脳たちも樋口司令同様、強い衝撃を受け、暫しの無言状態に陥った。

「明日の戦いが苦難・困難を強いられると感じていたが、よもやこれ程とは。」

 見た者すべてが同じ感想を持ち、この戦争を終わらす方向で意見・意思の一致をみた。

 

 樋口司令はその後 さま直接 東条英機首相と会見すべく連絡をとり、急遽(雪江タヌキを秘密裏に同行させ)軍用機で東京へ向かう。

 その内容の重大さにかんがみ、東条本人及び、小磯国昭(陸軍大臣で次期首相)同席の場で未来映像を観て貰うことにした。

 樋口司令にとってこの両名は、満州時代(オトポール事件から)の恩人であり、庇護者の関係にある。

 政府や大本営の中枢にこの両名が居ると云うのは心強く、目的を遂行し易い。

 何故ならこの戦争で必死に作戦を遂行している最中に終戦を呼びかけるなんて、(この当時は)天下の大罪であり、反逆罪で処断されても仕方ない状況下にあったのだから。

 故にこの命がけのミッションを達成するためには、何としてもこの両名の賛同は不可欠である。失敗は許されないのだ。

 

 まず東条・小磯両名に雪江タヌキを紹介する。

 但し、最初は人間に化け姿を現す。事前に正体はタヌキであると明かしているが、人間の姿のままである方が、見る方も見せる方も都合が良い。

 タヌキの姿のままでいるより、人間の姿の方が説得力があると思うし。

 

「そなたが雪江タヌキであるか。そなたの噂は樋口より耳に入っておる。

 そなた達タヌキ部隊が志願した時から、その経緯の報告も受けているしな。

 そなたの能力と実績は、突出しておるそうな。

 そのそなたが今後の戦況に警鐘を鳴らしておるというのなら、是非耳を傾けなければな。

 きたる未来を見通し、且つ映像として示す能力があるとは恐れ入った!

 雪江タヌキ殿、この国の未来を我らにも見せてくれ。」

 

 仰せのままに両名に未来の映像を見せると、樋口司令同様、激しい動揺を現わした。

 元々東条も小磯も、対米戦争など考えていない。

 開戦当時、陸軍・海軍が想定する相手はあくまで英国。

 英国さえ潰せばその後の展開を有利に運べ、圧倒的国力差があるアメリカに対峙できるとの計算があった。だからできうる限りアメリカとの戦闘は避け標的をイギリス輸送船に限定した作戦を立て、御前会議で昭和天皇からの了承も得ていたのに。

 ところがその作戦命令に背き、山本五十六連合艦隊司令長官は行き先をインドシナ方面ではなく隠密裏に太平洋に進路を変え東進、真珠湾奇襲攻撃を敢行。

 それを支えていた永井修身軍令部総長の術中にマンマと嵌められた。

 

 東条と小磯は「しまった!」と思ったが後の祭り。

 その後の展開は衆知の通りである。

 だが戦争責任者として、後には引けない立場にあった。

『後悔先に立たず』

 

 だがこれで幕を引ける。

 この戦争を引き起こした責任は、引き起こした山本五十六が4月18日ソロモン諸島上空で戦死してしまった以上、我が命を以って一身に受けよう。

 早速天皇陛下に緊急御前会議開催の儀を奏上、1943年9月30日天皇臨席の上、雪江タヌキの未来映像を会議の場で公開した。

 

 当然大きな反響を呼び、それまでの抗戦方針が一変した。

 そしてここで決した方針が、後の世の歴史を大きく変えるきっかけとなる。

 

 本来この会議では「絶対防衛圏の後退を決定」するものだったが、「連合軍側に降伏を宣言し、大戦の終息を図る」と大きく方針変更し舵を切ったのだ。

 

 だが軍の中には未だ徹底抗戦派が多数存在し、不穏な動きが予想された。

 それらの動きを断固封じ、何としても降伏を成功させるのが至上命題である。 

 だが今、現時点で降伏方針を軍や一般に公にはできない。

 

 下士官以下、軍や国民に対する秘密裏の作戦行動と、少しでも有利な早期降伏条件を引き出す難題に立ち向かうと覚悟を決めた軍上層部と政府であった。

 

 

 

 

 

 

     つづく

 


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