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シベリアの異邦人~ポーランド孤児と日本~【カクヨム】連載版 第2話、第3話

2022-10-05 15:41:33 | 日記

     

 

 

 

 第2話  ポーランド・ソビエト戦争

 ここでポーランドが歩んだ苦難の歴史をかいつまんで見てみよう。




 それまでポーランドは幾度かの列強からの理不尽な武力を背景にした分割を経てロシアの完全支配の下にあった。               

近年ではヨーロッパを席巻したナポレオン戦争の戦後処理がポーランドを奈落の底に落とす。




 今から約200年前、ナポレオン没落後の1814年から15年、欧州秩序を再構築するためウィーン会議開催。

ウィーン体制が敷かれる事となる。

 その中でポーランド関連の取り決め条項は、ポーランド・ワルシャワ公国を廃止し、代わってポーランド立憲王国設立。

 ロシア皇帝はそのポーランド立憲王国の国王を兼任する。

 

 こうして100年間ロシアの支配を受けたポーランド。

 そこに第一次世界大戦(1914~1918)勃発。

それはヨーロッパ全体を覆いつくす人類史上、未曾有みぞうの大戦争だった。




 その大戦争の最中、ポーランドに独立の千載一遇のチャンスが訪れる。

 

 大戦末期の1917年、ロシア革命が起き、支配者であるロマノフ王朝のロシア帝国が倒れたのだ。

 しかしまだロシア国内はボリシェビキやメンシェビキ・反革命勢力などが互いに争う情勢下にあり、混とんとしていた

 ソビエト連邦成立(1922)前の混乱期、ポーランドはその間隙を縫ってパリ講和会議の結果を受け独立。

 1918年11月ポーランド共和国が成立した。

 過去3度にわたるポートランド分割によるロシア国家の支配。

 そんな屈辱と悲哀と苦難に満ちた過去から、ようやく悲願の独立を果たしたポーランド。

 かつてのポーランド・リトアニア共和国の栄光を取り戻すべく、講和会議で得られた領地から更に西、ベラルーシ西部およびウクライナ西部での(分割前1772年8月5日以前と1791年以降の領土)失地回復を図るべく、ロシア内戦の混乱に乗じて1919年2月ロシア・ボリシェビキ政府に対し侵攻した。

 

 1920年、ポーランド軍はキエフ(現ウクライナ首都キーウ)を占領、大きく進撃したが、1920年4月以降赤軍が反撃開始、同年6月逆にワルシャワが包囲された。





       つづく

 

 

 

       第3話  鬼の赤軍

 

 そんな頃のお話。



 現ベラルーシには当時、ロシアに支配されていても、昔から住み続けるポーランド人が多数存在していた。

そんな中のひとり、ヨアンナの父アルベルトは、(幸運にも)ポーランドが独立後、急遽編成した軍隊の招集からは外されていた。

 何故なら戦争勃発時、まだポーランド領に組み込まれていない状況では、兵役の招集命令は届いていない。

 その後ポーランド軍が現地を解放したが、アルベルトには兵役に就けない別の理由もあった。

それはまだ若いみぎり、事故のケガがもとで今でも全力で走る事が出来なかったのだ。

 戦場で走れない兵には死あるのみ。

そうした理由で招集検査には合格できなかったのだった。

 

 それはアルベルト本人にとって、世間に対し肩身の狭い想いをする要因ではあったが、同時に愛する妻マリアと幼いヨアンナの傍らで、共に暮らし続ける幸せを実感できる大切な日々の暮らしをもたらした。

 

 それに加え、心根の優しいアルベルト。

誰が見ても地獄をくぐる兵士には不向きだった。





    *************






 ある日の日曜日。

いつものようにヨアンナ一家は教会に行くと、いつもより沈痛な面持ちで神父様のミサが行われた。

それは押し迫る軍靴が近づく予兆だった。

 戦況が悪化し、どうやら友軍が苦境に立たされているらしい。

 異変を察知したミサの参加者たちは、その日を境にいつもと違うより真剣な祈りに変わり始める。

しかし神様へのそんな祈りの声はとうとう届かなかった。

 

 そして一家の平和で幸せな日々が、銃声のとどろきと共に無残に消え去った。




 「ロシア軍だ!ロシアの兵隊たちが攻めて来たぞ!!」

 

 聞いた者たちに恐怖の戦慄が走った。

   

 ロシア赤軍の足音がすぐ目の前まで迫ってきたのだ。

 それまで攻勢だったポーランド軍は、体制を立て直したロシア軍を前に、退却するしかなかった。

しかし、ポーランドの兵士たちは退却出来ても、現地の住民たちは置き去りのまま。

 ヨアンナの家もそんな災難から逃れられない。

 

 今まで見た事の無い大きな動く鉄の塊りが、いくつも押し迫る。

 そしてけたたましいエンジン音と共に、金属のきしみ音を垂れ流しながら砲弾を打ち鳴らす。

そして「ゴー!」といううなりをあげて、こっちに近づいてきた。

 

 いくつもの砲弾が、点在する住居にさく裂しながら着弾する。

 

 家の外の逃げ惑う隣人たち。

そのうち鉄の塊りの背後から、銃を持ったソ連の兵士が多数脇に出て足早に近づく。

 やがて、いたるところで機銃掃射の乾いた音と悲鳴が聞こえる。

 灰色の空と地獄絵図。

昨日まで過ごしてきた街ののどかさが嘘のようだった。

 やがて乱暴にドアを叩く音と共に、粗暴なロシア語のがなり立てる声が聞こえる。

 ドアを蹴破り兵がなだれ込み、生まれ育ち、慣れ親しんだかけがえのない家に火を放つ。

 間一髪で難を逃れたが、家を焼かれ、取り残されたヨアンナ一家たちは家の外の広場に集められる。

集められた住人の胸に、ロシア兵の残虐で不吉な噂がよぎる。

 略奪や暴行、そして無差別殺りく。

この世で考えられ得るありとあらゆる残虐行為と無法行為がポーランド兵が退却した後、進撃したロシア赤軍兵士の下で実行されてきた。

 

 そうした人間とも思えない残虐な行為が、ここでも繰り返されるのか?

 

 事実、眼前のロシア兵たちの眼差しは、血に飢えたゲダモノそのものだった。

 まるで蛇の目のように冷たく、豹のように残忍な牙を剥く。

 そしてヨアンナ達はその時初めて実際に目撃した。

 

 目に余る略奪や暴行を。

 

 そしてとうとうその運命は自分たちにも注がれる事となる。

 銃を持ち、取り囲むロシア兵。

 壁を背に行き場のない追い詰められた数十人の住人達。

 

 ロシア兵下士官と思われる者が

「撃て!」

と冷酷に命じる。

 

 咄嗟に母マリアがヨアンナに覆いかぶさり、父アルベルトが二人を覆う。

 

 まさに機銃の音が無情にも鳴り響こうとする瞬間。

 

 その時、幼いヨアンナはそれまで心と身体を覆いつくしていた恐怖から解放された。

 人が死に至る恐怖を感じた時、極度の緊張が走る。

 しかし、よいよと云う時、全身にアドレナリンが充填され、何も感じなくなるのだ。

 まるで自分が虫けらにでもなったかのように。

まさに虫に過ぎない自分がケダモノに捕食されようとする瞬間、諸行無常の境地に達観する。

 

 ヨアンナ一家たち住人は、家族ごと一列に並べられ、右わきから機銃掃射は始まった。

 とどろく銃声、断末魔の悲鳴。




「神様・・・・・」





     つづく



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