東京教組(東京都公立学校教職員組合)

教職員のセーフティーネット“東京教組”

漫画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」完結に寄せて

2021年08月24日 | 日記

図書室に「はだしのゲン」とともに「ペリリュー」も静かに置くべき

漫画「ペリリュー 楽園のゲルニカ」完結に寄せて

 いくつかの新聞の書評にも載っていましたが、この夏「ペリリュー 楽園のゲルニカ」の最終11巻が刊行され完結しました。

 2014年のNHKスペシャル「狂気の戦場 ペリリュー ~忘れられた島の記録~」が放送されそれまであまり知られてこなかったこの島が注目されるようになりました。、2015年に「平成天皇」が訪問したことでも話題となりこの漫画の連載のきっかけとなったようです。

 太平洋に浮かぶパラオの小島ペリリューでの、主に日本軍側から見た戦闘を描くこの漫画は、これまでのどの戦争を描いた漫画とも違った深い想いに捉われる漫画でした。これまでの漫画の多くは、「はだしのゲン」にしても「この世界の片隅に」にしても、戦争での一般市民を描いてきたように想います。日本兵の武勲をたたえた戦記物以外で戦場での様子をここまで克明に描いた漫画は、水木しげる以降には、なかったのではないでしょうか。

 一見すると、かわいくて表情が乏しく思えるデフォルメされた三頭身のキャラクターで描かれるのですが、このタッチだからこそ描けた「戦争のリアル」は、戦場の経験のないものからしたら、最大限「それ」に近づいているだろうと感じさせるリアルなのです。単純な顔の表現が却って各キャラクターの心情を想起させるのです。

 グアムとフィリピンの中間に位置するこの島では、玉砕から徹底抗戦に作戦が切り替えられ、ゲリラ戦が展開します。その間の逃げ隠れる緊張感や戦闘の悲惨さや極度の物資不足の中におかれる日本軍の飢餓などもすさまじい表現なのですが、2か月半という長い大規模戦闘は6巻で終わり、7巻で終戦を迎えたにもかかわらず、7、8、9、10巻とずっと「戦争」が続いていく悲惨さ、そこでさらに失われる命が一番胸に残ります。

 最終11巻では、遅れに遅れた「戦後」と現在が描かれ、ペリリューの漫画が描かれるに至った経緯もフィクションとして描かれますが、もうこれは半分以上が本当の体験でしょう。取材の経緯で「漫画で本当に伝わるのか」と問われ苦悩する姿に作者の真摯な姿勢が伝わってきます。

 戦争が終わって76年目の夏。こうして一人ひとりがそれぞれの方法で戦争に向き合い、体験者から聞いたことを伝えていこうとする試みが大事なのだと、自分にもう一度問い直すきっかけとなった作品でした。これは学校の図書館に置くべき漫画として、新しい定番にすべき作品です。