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【149】Cを35%ほど増やしてYを0・遺伝情報・瞼

 色は色素に含まれるたった四種類の遺伝情報(C、M、Y、K)から構成されている生物で、驚くべきことにその配合割合のみで千六百七十万とも言われる種を形成しているとされる。C、M、Y、Kを神聖四文字(テトラグラマトン)と見る向きもあるが、テトラ種【153】なのかマトン種なのかが曖昧であるし、内服液としての配合方法も無限にあるため、信仰を取り戻すという薬効は寄生を促すために放流された魚ではないかと疑問視されている。常に何かに寄生していなければ生存できないため、動物介護団体【105】の介護リストから外されているが、ギョエテ氏【125】によると、色の方では宿主の実在を疑っている【162】という。

 犬の視野【一一六】に入っている状態ではCMYがナルコレプシーに陥り、陽力素の開閉率を表すKの遺伝子だけが機能する。つまりKは、色における瞼のようなものなのである。だが、普段は威圧的な太陽の視線【136】にさらされているので、瞼を開き続けるしかない。色がようやく安堵の眠りにつくのは、太陽がオゾン僧【177】に隠れたあとである。

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【140】ノキタハ博士の論文1【138】色と対話を重ねている

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【148】色素・陽力素――ノキタハ博士の論文2

 四種の遺伝子からなる遺伝情報【149】(我々における蟻【56】のようなものですな)を内包する染色体で構成された色素は、視線を送受信するための陽力素という器官を有しております。陽力素を通して互いに視線の駆け引き、つまり交合成を行うことで、視覚という均衡状態が生み出されますが、その前提として太陽の視線が一方的に交合成することで生じる従力(我々における靴【46】ようなものですな)が不可欠とされるのです。遺伝子や交合成によって自己を確立した色素同士が、各色各様の配列で結合することにより、彩胞から鉱物に至る広範囲の物質が形作られているわけであります。

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【147】弁護士のメイソン氏【140】ノキタハ博士の論文1【137】色は視線に…【128】キノコ【97】ぎっしりと敷き詰められる【66】眼球

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【147】弁護士のメイソン氏・ノキタハ博士

 メイソン氏は路地裏で寝泊まりしていたノキタハ博士の論文と出会ってからというもの、その説をもとに各地の立法体【9】で弁護を展開している。立法体が球形に膨れあがるほど裁判の傍聴者が多いため、区役所側もそう簡単には彼を処分できず、テレビドラマとして放映することでフィクション化に努めている【161】。
メイソン氏は浅黒く日焼けした顔にくっきりとした笑みを浮かべ、心珠のような光輝を真っ白な歯列から投げかける。その白さを維持するために、タバコ【39】からひっきりなしにカルシウム【13】を補給し、歯【53】を始終生え替わらせている。抜け落ちた歯も無駄にはしない。正論茶の茶歯として需要が高いからである。
この日、弁論台に立ったメイソン氏は、封筒の中からノキタハ博士とそっくりな論文を取り出し、証拠として提出した。
「賢明な皆様には、ぜひともノキタハ博士の論文(1【140】2【148】3【158】4【159】5【162】6【171】7【172】8【179】9【180】に引用)に耳を澄ましていただきたいのです。博士は優秀な学者でしたが、持論のために失色し、今ではガラスの亡骸となってどこかの窓【176】にはまっています――」

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【136】太陽に見られて移ろいでいく【102】コーンの粒は互いに議論をする

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【146】かすかに映り込ませる程度・鏡・発鏡

 映り込ませ方がひどくなると、〈鏡〉と呼ばれる重度の対象恐怖症と診断されてしまう。あらゆる対象の波長に同調してしまうため、もはや精神の片鱗は見受けられず、そもそも何であったのかもうかがい知れなくなる。体が硝子化しはじめると、月【230】にどこまでも追いかけられるようになり、発鏡するとすぐさま駆けつけてくる白服【29】に措置入院させられる。病院では、患者と患者を向かい合わせて無限に映り込ませる自己言及という治療が行われるが、一向に症状が改善されないことが実証されているため、何万という順番待ちの後で医師から一応の診断を受けると、あらかじめ記入欄が鏡文字で埋められたサイン入りの同意書を提示され、反映した文字が署名とみなされ、鏡育を受けて各地に配送【160】されると、世間の映し絵として人々に重宝がられるのだ。


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【136】太陽に見られて移ろいでいく【127】一顔レフカメラ

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【145】波長・従力・視線

 視線省によると、どのような対象からもRGB方式に暗号変換された視線が放射されており、見つめ合いという心理的駆け引き(互いに波長の平均値まで歩み寄って結線、つまり交合成を行うこと)によって視覚が生みだされているのだという。歩み寄りの割合は存在感に左右されるため、視線を無視あるいは回避【158】することもできる一方で、不特定多色に一斉送信される傲慢で一方的な視線【159】には、歩み寄りを待たずして波長を合わせてしまう。これにより従力が生じるわけである。

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【136】太陽に見られて移ろいでいく【118】モノクロ映画の撮影【32】紙面

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【144】質屋に預けられた人・文筆家

 八月二十三日付の一面で報じられた誘拐事件には人質がいなかった。活字【23】の隊列によってランカスター朝【20】に目覚めさせられた高級官吏、ジジジ・リ【151】は、仕方なく新聞社【152】に忍び込んだ。一階のフロアを貫く長大な通路では、活字たちが薄く伸ばした記事を全身に憑依させていく。次々と出発していく活字たちのいびつな後ろ姿を一瞥すると、階段を一気に駆け上がり、重厚な扉の並ぶ三階の廊下に踊り出た。扉はどれも小説家や批評家など、さまざまな文筆家の部屋へとつながっている。彼らは五階のすべてを占めている懐疑室に自らのノートを持ち寄って、行進させるべき内容を拳闘させていたので、部屋でくつろいでいる猫【153】を十匹くらい盗み出すのはたやすいことだった。暫時的誘拐犯のジジジ・リは、すぐさま質屋に直行して値段がつけられるのを待った。懐疑を終えて猫の不在に気づいた文筆家たちが、「ねこぉ、ねこぉ、ねこぉ」と大騒ぎし、通報を受けた警官、夕刊の記者、ケーブルテレビ【154】の報道カメラマン【155】らが質屋の前に続々と集まっていた。その混雑の中から現れたのがギョエテ師【125】だった。ギョエテ師の説得はジジジ・リが着る服の色を揺さぶり、涙を溢れさせて着心地を悪くしたが、活字の隊列から前もって誘拐の成功を知らされていたために耐えねばならなかった。ジジジ・リは耐えられなかった。質屋から飛び出すと、警官たちに身を預けたのだった【156】。結局、猫は著述家たちの元へは戻らず、質流れしてしまった。そのため、世間では支離滅裂な事件【157】が多発した。ジジジ・リは誘拐だけでなく、あってはならない誤報【156】まで犯してしまったのである。

リンク元【135】人質をとって立て籠もった犯人・狂言強盗

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【143】作家

 四面や五面【134】で建築物の設計を任されている人々。著名な作家であるコスタ親方は、まだ朝刊【23】も歩き回らないほど早いうちからグラウンドにやってくると、出版社【205】から取り寄せたボール形の白紙図面を蹴りながら、その日の建築工程を呪文のごとく呟きはじめる。ボールは衝撃を受けるたびに歪んで形を変え、ぎこちなく転がると、やがては動かなくなる。コスタ親方はそれでも蹴り続け、ボールが唸りをあげて人型にほどけたところで慌てて抱え起こした。
「大丈夫か! 気をしっかり持つんだ」
 ボールだった男が顔をあげるが、輪郭らしきものしかない。コスタ親方が口述を再開すると、のっぺりとした顔に切れ目が入り、窪みができ、ごわついた髪の毛と顎髭が生え、コスタ親方そっくりの容貌になった。
 二人は立ち上がり、新たなボールを蹴りはじめる。十一人まで増えた図面は、工具を腰に提げて作家活動を開始する。現場ではコスタ親方ばかりが動いているように見えるが、本物は近くのカフェで物もらいに耽っているというわけだ。ただし、表向きにはその彼も図面の一枚ということになっている。なぜならコスタ親方は刷人罪【150】で捕らえられ、十年も前から刑務所で服役しているはずだからだ。

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【134】売春組織・四面・五面

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【142】切除や摘出した部分をはめ込み

 タンク【126】のプロポーションとの差異が少なければ、数頁の文子を充填する程度で済むのだが、時には破損がひどすぎて、まるごと取り替えねばならない部分もある。大がかりな施術を繰り返したあげく、いったんバラバラに切断されたファッション雑誌がつなぎ直されただけという事態、いわゆる人身Bye-Byeを迎えることもある。肉体のすべてが破棄されても、心珠【174】は新たな体内に据え置かれるが、連続する自己を持てないため、人間なのか雑誌なのかが問題となる。死亡記事が出ていない以上は、区役所も人間として扱わざるをえない。それを逆手にとったのが、ロッサム社という出版社【205】の経営陣、ウイルス感染【206】によって高度な経営哲学を発展させたかつてのファッション雑誌である。

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【132】大幅な後処置

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