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【321】鵜

靴のウッシェンバッハ【323】〉という店で、陸に上がってから初めて履いた靴【46】のサイズが合わずに苦情を訴えていた男(後のスワローさん)は、いやいやそれこそがあんたの靴だよその靴こそがあんたの靴なんだよく似合ってるよその靴は、という小魚【87】を、怠惰なマスター・ヤクシデに鵜呑みにさせられた。鵜として生きることを運命づけられた瞬間である。ヤクシデが手渡したのは、仕立て直しにやって来るなり心臓発作で死んでしまったスワローさんという街娼【324】が履いていた靴だったので、男は拒絶反応【325】に苦しむようになったが、鵜呑みにしたのだから仕方あるまい。スワローさんとなった男は、おじぎのひとつも知らぬまま、何度となく命を落としかけながら【326】、鵜匠に拾われるまでの三十年間をたった一人で息延びたのだった。とてつもなく長い溜息であった。

 

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【318】なんでも鵜呑みにするような連中しか鵜呑みにしない・鵜飼

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【320】どうしてそんなこと聞くんですっ!

 おいおい、俺は非礼代表に選ばれたことだってあるんだぜ? 非礼は承知のうえだと思ったよ、初めて見る顔だってことは、まだ俺たちを使ったことがないんだな、ふ、あんたは簡単に伝話と言うが——いや、お伝話と言ったな、お忙しいとも言った、どうして〈お〉なんて枕詞をつけるんだ、伝話するのはあんたなんだから——ああなるほど、自分に敬意を払っているわけか、お忙しいというのもあんた自身のことなんだな、そうでもなけりゃ、俺みたいな見苦しいやさぐれものには近づこうとすら思わんだろう、「尊敬されるべきあたしとつきあう相手は高級でないといけない」というわけだ、あんたの声色似ているだろう? 伝話になるには声帯模写が必須でね——おっ、ちょっと待ってくれよ、久しぶりの呼び出しだ、

 おーい、この辺にオーガスト先生【34】って人はいないかっ? 

 聞いちゃいねえか、そういやさっき前を通っていったっけ【308】——一口に伝話と言っても相手あってのことなんだ。だからどんな奴で、どこに住んでいるのかを聞いておかなくちゃならない。俺の兄弟たちの近くにいなけりゃ、わざわざ家まで訪ねるんだから。恋人について尋ねたのは、あんたを陵辱したら悲しませることになってしまう、と気遣ってのことなんだ、いやいや、ただあんたの意向を無視して陵辱しようってんじゃない、私利私欲に走ろうものならビッグ・ママにこっぴどくしかられちまうからな、 なにしろ俺たちはネーブル・コード【338】でつながっているから隠しようがないんだ、だがつながっているからこそあからさまにできることもある、つまり、あんたをスカウトしてるわけなんだがまあ聞けよこういう按配なんだ、あんたは俺に犯される、見苦しいやさぐれものの俺に犯される。いきなりじゃない、まずは臍をねぶるところから始めるんだ、高級好きなあんたの陵辱される姿が各地の兄弟たちに有線で伝えられる、兄弟たちはたまらない、あんたもたまらない、その様子をケーブルテレビ【154】局に売り込んで、これまで俺たちを見下してきた連中(つまり全人類だな)に頭をさげさせるんだ、どうだい、心配しなさんなって、念土の解像度じゃあ誰だかわかりゃあしねえよ、あんたかわいいもの【165】が好きだろう? 隠さなくたっていい眼の隈でわかるさ、番組の編集【168】に立ち会えば、猫【153】を思う存分にさわれるんだぜ? がっぽりおじぎ【163】をためこんだ暁に、あんたはこれまで自分に敬意を払っていた真の理由を知るんだろうぜ、どうだい、悪い話じゃなかろうが?——

 

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【317】不快にさせられる

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