映画『事件』

2012年04月01日 | 映画の感想

監督 野村芳太郎
脚本 新藤兼人
原作 大岡昇平
永島敏行 (上田宏)
松坂慶子 (坂井ハツ子)
大竹しのぶ (坂井ヨシ子)
佐分利信 (谷本裁判長)
中野誠也 (野口判事)
磯部勉 (矢野判事)
芦田伸介 (岡部検事)
丹波哲郎 (菊地弁護士)
山本圭 (花井先生)
渡瀬恒彦 (宮内辰造)
西村晃 (大村吾一)
北林谷栄 (篠崎かね)
加藤桂男 (富岡秀次郎)
森繁久彌 (清川民蔵)
乙羽信子 (坂井すみ江)
佐野浅夫 (上田喜平)
浜田寅彦 (房次)
夏純子 (桜井京子)
丹古母鬼馬二 (多田三郎)
早川雄二 (天野巡査)
当銀長太郎 (女性ウィーク・リー記者/滝川)
富永千果子 (女性ウィーク・リー記者/山岸待子)
穂積隆信 (神奈川日報記者/田淵)
山本一郎 (米子雑誌の主人)

神奈川県の相模川沿いにある土田町の山林で、若い女性の刺殺死体が発見された。その女性はこの町の出身で、新宿でホステスをしていたが、1年程前から厚木の駅前でスナックを営んでいた坂井ハツ子であった。数日後、警察は19歳の造船所工員・上田宏を犯人として逮捕する。宏はハツ子が殺害されたと推定される日の夕刻、現場付近の山道を自転車を押しながら下りてくるのを目撃されていた。警察の調べによると、宏はハツ子の妹、ヨシ子と恋仲であり、彼女はすでに妊娠3ヵ月であった。宏とヨシ子は家を出て横浜方面で暮らし、子供を産んで、20歳になってから結婚しようと計画していた。

★★★★★
群像ダイナミズム!そんな称賛の言葉を贈りたくなる、佳作だ。1978年の邦画だが、こういう凄い映画があったんだなぁ。未成年の工員、上田宏(永島敏行)がスナックの女、坂井ハツ子(松坂慶子)を刺殺、雑木林に捨てた殺人事件、その裁判の過程で少しずつ少しずつ事実が明らかになっていく様子が描かれていく。ドロドロとした女の情念やしたたかさが露わになって、たくましいなぁと思うと同時に恐ろしくも感じる。この映画で扱われる事件、ストーリー自体をはしょって語れば、2時間サスペンスドラマレベルのお話だ。それがここまで面白くなるってことにワクワクする。まずカメラワークがいい。殺人現場を俯瞰でとらえていくカメラ。出演者のひとりひとりに迫るズームイン。映画のラスト、橋の歩き去る坂井ヨシ子の後ろ姿は逆にズームアウトしていく。真相に迫っていこうという意識をカメラワークに反映させて実に雄弁だ。次に人物描写。事件の当事者のみならず、被害者や加害者の家族、証人たち、裁判長と陪席判事、弁護士や検事、学校の先生、それぞれの人物像がしっかりと作り上げられており、全員が生々しく生きているのだ。タテマエやホンネ、事件についての推理、思い込み、批評、そういうのが一人ひとりの血の通った言葉で語られて、次第次第に事件の真相に迫っていく・・・群盲象を評すのごとく、部分から全体が徐々に垣間見えてくる感じが興奮させる。実はこの映画、開始24分で刺殺シーンが出てきて、どんな経過があったにしろ顛末がわかってしまう。にもかかわらず、それから2時間ぐいぐい見せてくれるんだから凄い。もちろん、渡瀬恒彦や大竹しのぶら出演者たちの演技もすばらしい。人間の業とか作風のロマンチシズムでは『砂の器』のほうに軍配があがるので知名度がはるかに高いが、作品としての完成度はこっちが上なんじゃないかな。

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