メイキング・オブ・・・

2013年09月24日 | ショートショート



体重計に載って両足を揃える。
大型モニタに体重と体脂肪率が表示され、数値が推移グラフに即座に反映される。
ニヤリ。
急降下していく折れ線グラフが、目標数値の赤いボーダーラインを下回っている。
アスレチック・ルームの全身鏡に引き締まった己が肉体を映し、椴松円楽(とどまつえんがく)は惚れ惚れと眺めた。
椴松円楽。
若くして某仏教系宗教法人グループの代表へと成りあがり権勢をほしいままにする僧侶にして、タレントを霊視するレギュラー番組で絶大な人気を誇る霊能力者。
仏道者でありながら飽食の限りを尽くし女色を貪るうちに、彼は肥え太り脂ぎっていった。
その享楽ぶりにバッシングの声も囁かれ始めた某日、円楽は鏡に映るブヨブヨと垂れた腹を見つめ一大決心をした。
山形県の山間、地下10メートルの密室。
循環型の空気清浄機、アスレチック・ルーム、そして脂肪燃焼タイプの食べ物と飲み物。
(近未来、脂肪吸収を抑制する『特保』どころではなく、飲めば飲むほど、食べれば食べるほど、カロリーを消耗する『痩せる食品』が開発されていたのである)
そこに籠もって節制した生活を送り、若々しい肉体を手に入れる。
スリムな椴松に世間は驚嘆することだろう。彼の肉体美に女たちは瞳を潤ませるであろう。
かくして円楽は地下からは決して脱出不可能な地下室に籠もり、究極のダイエット&シェイプアップに取り組んだ。
そして半年。
割れた腹筋をうっとり見つめ、円楽は呟いた。
もう、よかろう。
通信装置を手にして、地上へと救い出すように指示を送る。
・・・
おや、どうしたことか?
地上の法人事務所には、常時職員が待機している約束であったはずだが。
じゅうぶんに間を置いて、再び通信を試みる。
・・・
やはり、応答なし。
半年の間に、地上でなにごとか起きたのではあるまいか?
まさか、まさか核戦争が?
円楽は、山積みになった、摂れば摂るほどにカロリーを失う飲食物を見上げる。
いや、よしんば核戦争が起きたとしても、全人類壊滅などありえない。
いつか誰かが、きっと救い出してくれるにちがいない。
円楽は結跏座を組み、目を閉じ、読経した。
地上の人々よ、ひとりでも多く生き延びていてくれ。そして救い出してくれ。
己が生存のためとはいえ、生涯において初めて全身全霊の真摯な誦経が唇から漏れた。

かくして数ヶ月後。生存者たちによって地下室は開かれることとなった。
「うわっ、こんなところに即身仏が」



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ヒッチコック大作戦

2013年09月21日 | ショートショート



休日の昼下がり、約束どおりの時間に古田はやって来た。
古田とボクは中学時代からの旧い仲で、性格も専門も進路も違っていたが、互いに映画好きだったこともあって不思議とウマが合った。
ひとしきり昔話や映画の話題に花を咲かせているうちに夜は更け、ボクはボクの秘密を彼に明かしたくてたまらなくなった。
それで、離れの研究室に連れて行き、完成真近のタイムマシンを古田に披露した。
「このポッド内に入れたモノをお望みの時間と場所に送ることができる。理論上、人間も可能だ。ただし、片道切符の時間旅行だがね」
「片道切符?片道切符ってことは、ここに戻って来られないってことか?」
ボクはうなずいた。
「なあ、君ならどう使う?」
「さあ、どう使うかなあ・・・100年後の未来ってどうかな。これから先100年分の面白い映画を堪能できるなんて最高だなあ」
「君らしいなあ。やっぱりボクら、ソコになっちゃうよねぇ」
今度は古田が同じ質問をボクにぶつけた。
しばしの沈黙。研究室の蛍光灯に羽虫が体当たりするカンカンという音が耳についた。
「ボクは、過去に行ってみたいと思うんだ。1939年、ロンドン」
「なんでまた?」
「アルフレッド・ヒッチコック。『三十九夜』『第3逃亡者』『バルカン超特急』、斬新な傑作を続々と発表し、ハリウッドに招かれながらも直前にドイツ軍の空襲で命を落とした、夭折の監督。焼け落ちる撮影所から彼を救い出せたら・・・」
古田がボクの言葉を遮った。
「おいおい待ってくれ。映画史を変えちまおうってのか?ダメだろ、ソレ」
「わかってる。わかってるけど、想像してみたまえ。その後の彼の活躍を。サイコスリラーの元祖を作ったかもしれない。動物襲撃パニック映画の走りだって。たたみかける娯楽アクションの礎さえ。自分の名を冠したミステリー番組も・・・ああ、彼が生きてたらなあ」
「そういう気持ちはボクだって同じさ。でも歴史を変えるなんて断じて許されない。忘れるんだ、高橋。さ、戻って飲みなおそうぜ」

友人の高橋の家を訪れて数週間後、高橋は忽然と姿を消した。
もしかしたら、例のマシンを本当に試したのだろうか?だとして、行き先は未来?それとも過去?
問題はそこじゃない。
あの晩、研究室で友人と話した会話の中身、記憶がすっかり無くなっているのはなぜなんだろう?
高橋に思いを馳せるとき、ヒッチコック監督の渡米後の豊穣な名作群を観てしまうのはなぜなんだろう?



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恐怖!これが金縛りだ

2013年09月18日 | ショートショート



金沢の鄙びた一軒家でひっそり暮らすようになって一週間。
この季節ともなれば、寝室まで虫の声が聞こえてくる。
軒下で鳴く虫までいて、枕元で鳴いていると錯覚するほどうるさいのが常である。
ところが。
今夜に限って、虫の声がまったく聞こえない。
訝しく思いつつも、日中の疲れからウトウトし始めた、その時。
グッ
両の足首を握りつぶさんばかりの力でつかまれた。
もがこうとしても、両手両足ピクリとも動かない。
グッググッ
重みが膝へ這いのぼり、石の板に挟まれたようだ。
た、助けてくれっ
懇願すれども、声にならない。
抗しがたい重みは下腹部へ、さらに腹部、胸までも圧迫してきた。
息が、息ができない!
突然、目を開くことができた。その目に、老婆の顔が飛び込んできた。
白髪をふり乱した、蒼白の老婆が血走った目で覗きこんでいる!
老婆の喉から嗄れた声が漏れる。
「か・・・え・・・せ・・・」
かえせ?
「かえせ・・・金、返せ・・・」
金返せ?いや、それはちょっと・・・
老婆が威嚇するように、口をこれでもかと大きく開いた。
全ての歯が金歯の、総入れ歯を剥いて。
恐怖のあまり、叫んだかもしれない。
次の瞬間、暗い水中から一気に水面に浮上するように、布団から跳ね起きた。
早鐘を打つ心臓は治まらず、厭な汗で全身グッショリと濡れていた。

「例の、金沢の民家に隠れてた男、翌日には耳をそろえて返済したよ」
某サラリーマン金融の社長室。専務はニヤケ顔だ。
「よほどうちの金縛りが応えたようですな」
専務が窓辺に寄って駐車場を見下ろす。
そこには、うちのバンが停まっている。
屋根にはアンテナとパラボラ、ボディに『KKK』の文字、テレビ中継車そっくりのバンが。
「あの車で?あそこから頭に電波を?」
「ええ。レム睡眠時の脳に直接暗示をかける仕掛けですが、詳しくは企業秘密です」
私の言葉に専務がごもっともとうなずく。
「それにしても依頼した債務者全員が完済、いやはや最強の取立屋だよ、お宅は。ねぇ、社長」
奥に腰掛けた社長を見た。
「うちの金縛りマシンも最強だが、どの契約会社よりも返済率がいいのは、最恐のモデルのおかげですよ」
と言いたい気持ちをグッと堪えて、
「これからも、『金渋りかけてあげよう金縛り』略してKKK社をどうぞお引立てください」
とだけ言った。
「こちらこそよろしく」
女社長がニッと笑うと総入れ歯がキンキラリンと輝いた。



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イプシロン、侵略の手口

2013年09月15日 | ショートショート



日頃から訪問販売の類は一切お断りしているボクだが、興味半分に玄関を開けてみた。
「は?さっき、なんとおっしゃいました?」
「いやだから、ウ、チュ、ウ、ジ、ン、宇宙人なんですよ」
聞きまちがいじゃない。宇宙人だって?愛想よく笑う、この小柄なオッサンが?
「どちらの?」
「一応、イプシロン星人なんですけど」
イプシロン?それって巷で話題の、国産の固体燃料式ロケットの名前じゃないか。
はは~ん、コイツ、宇宙人を騙った新手の詐欺だな。
「で、そのイプシロン星人が何の用でフリーターのアパートに来たの?金、ないかんね」
「お金なんて、滅相もありません。ここと通貨も違いますし」
安心させて騙す気だな。
「じゃ、何しに来たの?まさか・・・腎臓一個くれ、みたいな?」
男が年季の入った黒革カバンに手を突っ込んで、バッヂをひとつ、取り出した。
「いえ、ただ、これを着けてほしいんです。目に見えるところにいつも。それだけで十分です」
手渡されたバッヂは、星型の七宝焼、なんかダサイ。
「これ着けるのに同意したとして、ボクになんのメリットがあんの?」
男が、待ってましたと目を輝かせた。
「驚かないでくださいヨ~。今、ご契約になると、イプシロン連邦管轄下のご希望の惑星または衛星のひとつにあなたの名前が付けられるんです!惑星、タナカタカシ!!」
驚かなかった。ボクはバッヂを突き返した。
「宇宙の果ての知らない星にボクの名前付いたからって何になんの?もっと実感の湧くもんじゃなきゃ。さ帰って、帰って」

また断られてしまったか・・・。男は、駅前の小さな食堂で素うどんを啜った。
いかに連邦政府の意向にしても、今回の侵略方法は地味すぎないか?
超巨大円盤で都市を覆い尽くし、圧倒的な軍事力を誇示する強引さもどうかと思うけれども。
人類が皆、イプシロン連邦所属の証を身に付けてくれるのは何年先やら。
壁に掛かった液晶テレビでは、今大人気の女性アイドルグループが笑顔をふりまいている。
能天気な星だよなあ。
一番人気のセンターの娘が視聴者に向かって語りかける。
「私たちのデザインしたバッヂプレゼント企画に、たくさんのご応募ありがとうございましたあ。というわけで、追加プレゼントしちゃいま~す」
なんだ、ご同輩、がんばってんじゃないか!



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粘土でピカッチ殺人事件

2013年09月13日 | ショートショート

会社の一室で五人の男性が殺害されるという、凄惨な殺人事件が起きた。
害者はいずれもその会社の重役、エアダクトから室内に送られた青酸ガスによる中毒死である。
そして何よりこの現場が異様なのは、彼らが共同で粘土作品創作中に絶命していたことだった。
通報後ただちに現場に駆けつけた警部、そして探偵桶津香具郎は今、息絶えて間もない五人の遺体を目にしている。
「警部、第一発見者の名前は?」
「えっと・・・ここの女性社員で・・・北内愛子とかいったな」
桶津の目がキランと光った。
「彼女をここへ」
数分後、北内愛子が現れた。
「北内さん、庶務担当のあなたが社の倉庫からシアン化水素を持ち出すのは朝飯前のはずだね」
北内愛子が青ざめる。
「私以外にも倉庫に出入りできた者はいるわ。私を疑ってらっしゃるの?な、何を根拠に・・・」
桶津が粘土作品を指し示す。
「これはただの粘土細工じゃない。絶命するまでおよそ240秒。彼らはその残された時間でダイイング・メッセージを残したんだ!」
全員の目が粘土に注がれる。この稚拙な作品にどんな秘密が?
「警部、あなたには何に見えます?」
「ウ~ム、真ん中の三つは、ヒトのようだな。周りのは・・・土俵?つまり、相撲?」
「惜しい。大きく強調された手に注目してください」
「手を開いてるのや、握ってるのや・・・オオ!グー、チョキ、パー!ジャンケンだ!」
「正解。ジャンケンで三つ巴の状況、つまり、アイコですよ、愛子さん!」
北内愛子の肩がピクリと震えた。
「バカバカしい!万にひとつアイコだったとしても、アイコは私だけじゃないっ」
桶津が笑う。
「そこで、周囲の途切れ途切れの輪です。土俵じゃありませんよ」
警部が首をかしげる。
「長くこねた粘土がぶつ切りになって・・・何だ?さっぱりわからん」
「残念。この形状、これはウ●ン●コです」
「ウ、ウ●ン●コ!?」
現場の全員がどよめく。
「そのとおり。ウ●ン●コに囲まれてジャンケンしているんです」
「き、きたない・・・」
北内愛子のつぶやきを桶津は聞き逃さなかった。
「きたないアイコ・・・つまりアンタだ!!」
観念した北内愛子が泣き崩れた。警官に両脇を抱えあげられ連行されていく。
「桶津さん、お見事でしたな」
桶津がかぶりを振る。
「お手柄なのは五人の害者ですよ。彼らの粘土作品がスピード解決へと導いたのです」
息絶え横たわる男性軍五名の健闘を称え、惜しみない拍手が誰彼となく生まれ、そして広がっていった。



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マンボウ№5

2013年09月11日 | ショートショート

 

未来。
永久機関同様、絶対不可能と言われていたタイムマシンが完成した。
時間旅行理論を生み出し、自らマシンの開発をも成し遂げたのは、日本人、万城目博士である。
「博士、コングラチュレーション!」
「イヤ~ありがと、ありがと」
万城目博士が白いヒゲを指先でしごいた。
記者会見場は、世界各国の記者で溢れんばかりだった。
その会場ステージ中央にはマシンが鎮座している。
生け簀のような・・・TV番組の熱湯風呂のような・・・。
「これこそ人類初のタイムマシン、なづけてマンボウ№5!」
どよめく記者団。そして会場に鳴り響く、マンボのリズム。
「早速、時間旅行をご覧いただこう」
舞台袖から現れる、水着美女。いそいそと入湯・・・う~ん、これはその手のショーなのか?
博士が装置下部のボタンを押す。
するとどうだ、水着美女は水槽の中で見る見るマンボウへと変身してしまったではないか。
博士が次のボタンを押すと、水槽の中のマンボウの姿が忽然と消えた。
「博士、これは一体・・・?」
「美女はマンボウとなって時間旅行の旅へ出掛けたんじゃよ。時間旅行できるのは、なぜかマンボウだけ。人間はおろか他の動物実験もすべて失敗。そこで人間をマンボウに変身させることで時間旅行を可能にしたんじゃ!」
会場割れんばかりの拍手。一人の記者が質問する。
「確か、博士の理論では、タイムマシンが作られた時点が起点となるため、それより過去へ戻ることは不可能でしたよね?」
「そこなんじゃ。じゃが実際にやってみるとなぜか過去にも送れるんじゃ。そこがまったくもって謎・・・」
博士は、海水だけが満たされたマンボウ№5をじっと見つめるのだった。

・・・と、ここまで書いたところで、矢菱虎犇はキーボードを叩く手を止めた。
画面を見つめつつ、ボソリ。
「さ~て、どんなオチにするかなあ」
そう、『マンボウ№5』なんて駄洒落タイトルだけで書きはじめたものの、オチまで考えていなかったのだ。
マンボウのように虚ろな目でモニター画面をジ~ッ・・・・・・・・・ガクッ。
おっと、ついつい意識が遠のいて。
よ~し、もうやめやめっ。明日になったらなんか思いつくかもよってなわけで、とっとと寝てしまった。

そして翌朝。
朝刊をとろうと表の戸を開けた途端、プ~ンと強烈な魚の腐臭。
見れば、うちの前の路地に大きなマンボウの死体がゴロリ、ゴロリ。
な、なんなんだあ?
慌ててテレビをつけて、さらに驚いた。
昨夜から日本中、いや世界中でマンボウが大発生、海を山を街を道路を埋めつくしているらしい。
「え~!いったいぜんたい誰のしわざだあ?」



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エウロパ

2013年09月08日 | ショートショート



木星第2衛星エウロパ。
厚さ数キロに及ぶ氷に覆われた球体、その表面には引っ掻き傷状の水路が無数に走っている。
実際に探査艇を降り立つと、そこは流氷の海を再氷結させた、氷のグランド・キャニオンであった。
漆黒の空には木星が悠然と浮かび、縞帯の対流まで鮮明に見てとれる。
「気をつけろ。ペースト状の氷海部は底無し沼かもしれんぞ」
緊張した船長の声がヘルメット内で響いた。
後方の探査艇を振り返り、見守る船長に向かって大丈夫だとサインを送った。
氷の岩場を跳ねて進むと、子供の頃に渓流の岩場で遊んだ気分になった。
はたして科学者が予測したように、エウロパに生命体は存在するのか?
マイナス170度、酸素ほぼ100%の環境は、あまりにも過酷だ。
科学者たちは言う。
地球深海の熱水噴出孔周辺部には、化学反応だけに依存した独自の生態系が存在する。ならばエウロパの氷の下の海に、バクテリアや藻類が存在しても不思議ではない、と。
エウロパの生命体に思いを馳せつつ、歩を進めていたその時・・・
進行方向の氷塊の陰から、そいつが現れた。
ビクッ・・・
驚愕のあまり立ち止まるのと、相手が驚きにすくみあがるのと同時だった。
その距離、わずか十数メートル。
ニンゲンの胴体ほどもある巨大なガスマスク状の黒い頭。それを支える八本の触手。
地球のタコそっくりだ!
心の準備もなにもできていなかった遭遇。
しかし、あろうことか、ボクも相手もパニックをおこして諸手をあげて逃げ出したのだ。

あまりにも無様な、ファーストコンタクト
・・・だが、ボクは目撃したのだ、エウロパ星人を!
氷塊の回廊を探査艇に向かって急ぎながら、艇に通信を入れた。
「おいおい、そんなに慌てるなって。落ち着けよ」
これが落ち着いていられるか。
「だから、たった今、遭遇したんですって!知的生命体に!エウロパ星人に!」
今度は船長の慌てる番だ。
「まさか・・・この衛星に知的生命体だって?そんなバカな・・・」
「いたんですよ!間違いなく。ボクと出くわして、そりゃもうぶっ魂消てましたヨ」
「で?どんな形態だったんだ?その、エウロパ星人は」
ボクは慎重に先ほど目撃したばかりのエウロパ星人を思い出して説明した。
「それが・・・ずいぶん変わった形態で・・・触手四本の胴体に小さな頭が載ってて・・・そうそう、まるでわが星のサルそっくり」



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ペルセウス座流星群の夜

2013年09月05日 | ショートショート



「ア、流れ星!!ネ、今見えたよね!」と由里子ちゃん。
「う、うん・・・」とボク。
ううっ、また見逃してしまいました。
由里子ちゃんの指さす彼方には、とっくにカケラもありません。
ペルセウス座流星群がたくさん見られるはずの、8月某日真夜中。
それなのに、それなのに~っ。
畜生、絶対見てやっからな。北東の空をぐいぐい睨めつけます。
「はい、タカシ君、コーヒー」
由里子ちゃんがポットからカップに注いで差し出します。
「あ、サンキュ」
カップに目をやった瞬間、
「アッ、また!!」と由里子ちゃん。
反射的に見上げたものの、時すでに遅し。ああ、またしても。
そうなんです、いつだってそうなんです。
ピカッ・・・
「あ、光った!すっげ~イナビカリ!」とクラスメートたちの嬌声。
「え?どこ、どこ、どこ?」とボク。
パシャッ・・・
「あ、魚跳ねた!お腹、銀色!」
な~んてみんなの声。ボクには川面に広がる波紋しか見えません。
どんだけ不幸な星のもとに生まれたんでしょう。
今宵、全天が見わたせる、高原まで出掛けてきたというのに。
友だち以上恋人未満の、大好きな由里子ちゃんとの初デートだっていうのに。
それなのに、それなのにっ。
ボクは心の中で叫びました。全身全霊をこめて。
『流れ星が見たいっっ!!』
と、その瞬間。
み、見えた!
大きな大きな星が尾を引きながら、長く長く天空を翔け渡っていったのです。
す、すごい・・・ボクはそのスケールのでっかさにジ~ンと感動しちゃいました。
「うわ~キレ~!!」
由里子ちゃんがボクの手をギュッと握ります。
自然にボクも由里子ちゃんの手をギュッ。
「ね、タカシ君、何をお願いしたの?」と囁く由里子ちゃん。
いや~それがその・・・
まさか流れ星に流れ星をお願いしたなんてなあ(照笑)
で、「ハハハ、由里子ちゃんと一緒だよ~」と、ボク。
すると由里子ちゃん、無言でボクの肩にそっと頭を。
やったあ。
そうなんです。ボクの願いごとはささやかだったけど、どっさりオマケがついてきたんです。
やるじゃないか、ペルセウス座流星群!
ボクたち寄り添って星空を見上げていると、
「あ、また!」
ウィンクするみたいにキランと流れ星がまたひとつ。



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