宝くじ1等2億円、当たっちゃいました

2013年05月24日 | ショートショート



あ、当たってる?
当たってるよね?コレって。
何度も何度も番号を確かめる。
「どうしたの?ノゾミ」
うろたえているアタシに同僚が声をかける。
「ウッソ~!!当たってるじゃないの、1等!」
その声に、SSの看護師たちがわらわらとアタシを取り囲む。
ドリームジャンボ宝くじ、1等2億円。それが今、アタシの指先でプルプル震えている。
「どうしたの?」
「エッ、2億~!?」
ドクターやら入院患者さんたちまでナースステーションへ駆けつける。
「だって、ノゾミちゃん、アレでしょ?その宝くじ」
そう、アレなのだ。
アタシたち新人の歓迎会が先月開かれた。各々の座席に封筒が置かれ、封筒には宝くじが1枚という趣向だった、アレ。
余興で手に入れたにすぎない、人生初の、たった1枚の宝くじ。
それが、なんと2億円。
師長さんがアタシの肩に手を置いた。
「ノゾミちゃんの日頃の行いがいいからよお。おめでとう」
何もかも受け入れられたような、温かい気持ち。
「ありがとうございます!」
立ち上がって師長さんと握手。
誰からとなく拍手が起こる。同僚も、ドクターも、患者さんも。
よかった。本当によかった。
祝福のシャワーに包まれる。
ああ、もう夢みたい・・・

「ノゾミちゃん、ノゾミちゃん」
呼びかけられて目を開くと、魔人がいた。
「どうでした?宝くじ1等の夢。いや~実に幸せそうな寝顔でしたよ」
ここってアタシのアパートじゃないの。正座した魔人がアタシを見てるけど。
「今のって、夢?」
「そうですよ」
「アナタ、魔人でしょ?夢をかなえてくれる」
「そうですよ」
「でなんで、ただの夢なのよ!しかも当選シーンのみ!」
魔人が頭を掻いた。
「いや~、『宝くじ1等2億円の夢をかなえたい』ってゆーから・・・」
「違うでしょ、ソレ。そーゆー意味じゃないからっ」
「まあ、当選の瞬間がいちばん幸せで、そのあとのイメージなんてご主人様にない訳ですし・・・」
「なによ、ソレ。イメージくらいあるわよっ」
とは言ったものの、内心、さっきの当選の瞬間ほど幸せなイメージは思いつかない。
所詮、夢は夢。かなってしまえば、ただの現実。
夢は夢のままがいちばん美しいのかもしれない。
だとすれば、今見た夢こそがアタシのホントのノゾミだったのかも。
なんだか可笑しくなってきて笑ってしまった。
つられて魔人も笑う。
「な~んだ、ただの夢だったのかあ(笑)」
「魔人が出てきた時点で気がつかないと(笑)」
・・・ん!? 



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タイムマシンの行方

2013年05月19日 | ショートショート



「ついに、ついに完成したぞ」
野々村は、今しがた完成したばかりのタイムマシンを見上げて、瞳を潤ませた。
研究室中央に鎮座している、ゾウほどの大きさの巨大マシン。
それはどこからどう見ても蚊遣豚に似ていた。
西暦2222年。今、人類初のタイムマシンが野々村の手によって作り出されたのだ。
長く長く、苦しい道のりであった。
彼が『時間移動理論』を世に問うたのは、かれこれ五十年前。
自信に満ち溢れ、容姿端麗な若き科学者は世間の注目を浴び、数社の大手スポンサーが名乗りをあげた。
かくして巨費を投じて研究所が建設され、世界から共同研究者が集まった。
だが。
時間移動のために空間を分断する方法が見つからない。
時空を捩じ曲げるための膨大なエネルギーを生み出せない。
巨大エネルギーを扱う危険な実験を繰り返し、研究所はたびたび爆発事故に見舞われた。
研究者や助手の尊い生命が失われ、野々村自身も度々重傷を負った。
十年経ち、二十年経ち・・・。
しかし開発は一向に進まない。
一社、また一社とスポンサーは離れていった。
共同研究者や助手も一人二人と研究所を去り、ついに野々村ひとりとなった。
野々村の妻もまた、子どもたちを連れ、野々村のもとを去った。
そして五十年。
今、タイムマシンを完成させた野々村に、喜びを分かち合う相手すらいない。
しかも、彼に残された時間は幾ばくもない。半年前、医者から余命半年と宣言されたのだ。
野々村は鏡に映る顔を珍しげに見つめ、卑屈に笑った。深い皺が刻まれた禿頭の小男に、若き日の面影などない。
畜生、なにもかも清算してやる。
野々村は、義手の手に拳銃を握り締めた。
そして、タイムマシンに乗り込むと過去に向かって始動した。

・・・と、ここまでお話を書いてきた矢菱虎犇は、キーボードから手を放すと、コーヒーをひとくち啜った。
いや~久しぶりに書くと、肩凝っちゃうなあ。
それにしてもこのタイムマシンの話、どんなオチにする?
腕組みしてモニターを見つめていると、玄関からチャイムの音。
いったい誰だあ?こんな時間に。



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ウイルスの日

2013年05月15日 | ショートショート

ゴトゴト・・・カタンッ。
自販機みたいな音を立てて、円筒形の容器が排出口から吐き出された。
缶ジュースほどの大きさだが透明な樹脂でできており、無色透明な液体で満たされている。
貼り付けられたラベルには、『検査薬』の文字。
個室シェルターの壁面スピーカーから無機質な合成音声が漏れ出す。
『検査薬は届きましたか?』
「ええ」
声の主は政府保健機関。容器を送った張本人だ。こちらに届く正確な日時を把握しているくせに。
『それでは容器を開封し、服用してください』
「その前に教えてくれ。感染しているのかいないのか、どうやってわかる?」
『後日、血液サンプルを採取してご返送いただき、感染者か否か判定するシステムです』
容器を見つめる。
本当に、本当にこれは検査薬なのだろうか?
判断材料はあまりにも乏しい。
数ヶ月前のパンデミック以来、ボクは卵形の個人向け地下シェルターで生活しているのだから。
外部と繋がる手段は、ネットと隣接するシェルターを連結したパイプだけ。
ネット世界では、さまざまな噂が飛び交っている。
ウイルスは感染者を意のままに操るスナッチャータイプだとか、
感染者は自分が感染者であることすら気がつかないとか。
じゃあ、ボクは本当に非感染者なのか?ウイルスが非感染者だと思い込ませているだけの感染者なのか?
この『検査薬』を飲めば、それがわかる・・・
いや、別の噂もある。
政府機関が『検査薬』と称して配布している、この薬を飲むと、感染者はその場で喉を掻きむしり悶死するのだとか。
飲むべきか、飲まざるべきか?
透明な容器を手にしたまま悩み続ける。無機質な狭い室内には空調の音だけ。
ボクがウイルスなら、いずれ処理されるはずだ。ならば、イチかバチか、飲んで身の潔白を晴らそうじゃないか。
『飲み干しましたか?最後の一滴まで』
例の音声が聴こえて飛びあがるほど驚いた。
「あ、ああ、飲んだ」
『・・・・・・』
沈黙が続く。
今の答えはまずかったのか?薬を飲んだ途端、悶え苦しんでいるはずなのか?それとも?
『・・・・・・』
もしかして、通信機の向こうで政府機関を名乗る相手がウイルス感染者なのか?
そして、この容器の中身、実はウイルスそのものなのでは?
『・・・・・・』
今、こうして疑心暗鬼になっているボクは、人間?それともウイルス?
『・・・・・・』
未開封の容器を手にしたまま、卵の中で悩み続ける。
悩み続ける。
悩み続ける。 



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学校にまにあわない

2013年05月11日 | ショートショート



未来。
太陽エネルギーが宇宙から運ばれることで、エネルギー問題が解決した。
電気自動車の運転操縦が全自動化され、交通事故も限りなくゼロに近づいた。
クローン技術の進歩によって人口減少に歯止めがかかり、経済ももちなおした。
21世紀のさまざまな宿題がきれいに片づいた、そんな明るい未来。
そんな未来に何の意味があるんだろう?
高校の始業時間に遅刻しそうな、今の井上たかしにとっては。
井上たかしは絶望的な表情を浮かべ、眼前を行き交う全自動エコカーの群れをながめていた。
駅から高校まで道のりは徒歩15分ばかり。いつもこの交差点で足止めを食らってしまう。
このタイミングで始業チャイムに間に合う可能性は極めて低い。
遅刻をすれば、担任教師から大目玉を食らうだけじゃなく、進学にも響く。
あ~あ、もうこれで何回目だっけ?
空を仰ぐと、抜けるような初夏の空。
昨日、十年前、五十年前、百年前。
どれだけたくさんの高校生がここに立って、絶望的な思いで空を見上げたことだろう。
どうせ未来に生まれるなら、タイムマシンが普及した未来に生まれたかった。
せめて、自分そっくりの身代わりコピーロボに登校してもらいたい。
いやせめて、タケコプターで高校まで飛んでいけたなら・・・。
そんな未来道具なんて現実の未来じゃなくて、所詮、逃避的な夢想にすぎなかった。
ああ、学校に間に合わない!早く・・・早く!
やっと歩行者信号が青に変わった。井上たかしは猛然とダッシュした。

数分後。高校の下駄箱。
息を荒らげた井上たかしが靴箱の上履きに手をかけた瞬間、無情にも始業のチャイムが鳴り響いた。
全身から力が抜けていく。
「未来なんてクソ食らえだ」
悪態をつき、井上たかしは靴を履き替えると3階の教室に向かって階段を上りはじめる。

そのころ、教室では・・・。
「安藤さとし・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
担任教師の出席確認の点呼の声が続く。
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」
「石川こうじ・・・」「ハイ」・・・
担任教師は、出席簿にずらり五十七人続く転入生「石川こうじ」を見つめ、ため息をついた。



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パパはウルトラマン

2013年05月06日 | ショートショート



「ねえパパ~、ウルトラマンショー連れてってよう」と、朝ごはんのときにタカシ。
「ゴメンゴメン。パパ、今日もお仕事なんだ」と、私。
「タカシ、無理言っちゃダメでしょ」と、台所からママ。
今日は、こどもの日。こんな日にも働かなくちゃならないなんて。
「ウルトラマン、お休みの間だけでしょ。連れてってよう」
「お休みがとれたら、遊園地に行っていっぱい遊ぼうな」
「やだやだあ!ウルトラマンがいい」
タカシがダダをこねます。
そんなの、無理なんだよ、タカシ。

ネクタイを締めていると、ママが後ろから声を掛けました。
「あたしが連れてってくるわ。こどもの日ですもの」
「スマン。必ず埋め合わせはするから」
「・・・・・・こどもの日まで出勤なんて、どこに勤めているの?妻にまで内緒だなんて」
「ゴメン。それは絶対に言えないんだ・・・じゃ、行ってくるから」
ママがため息をつきました。

言えるわけありません。ウルトラマンだなんて。
ディズニーランドのミッキーマウスたちと同じです。
「実は、パパがウルトラマンなんだ」
そんなことを言って、こどもたちの夢をぶちこわしにするなんて、絶対できません。
つらいけれど、ウルトラマンとして生きていく宿命なのです。
ゆるしてくれ、タカシ。ママ。

夕方、うちに帰ると、タカシはヒロシくんちに遊びに行っていました。
ママがニッコリ、タカシが書いた作文を何も言わずに渡しました。
『きょう、ママとウルトラマンショーをみにいきました。
レッドキングやゴモラをたいじしてくれました。
ウルトラマン、かっこいい。
パパもいっしょだと、もっとたのしかったです。
ぼくは、おとなになったらウルトラマンみたいになりたいです。
へんしんしてないときは、パパみたいなやさしいおとなになりたいです』
ふだんはパパで、変身するとウルトラマン・・・
私です、私そのもの。
ありがとう、タカシ。
鼻の奥がツーンとしょっぱくなっちゃいました。

おふろタイム。
「ねえパパ、ヒロシくんがさ、ウルトラマンの中には、ヒトが入ってるって言うんだ。背中にチャックがあるって」
タカシの背中をゴシゴシしていた手を、思わず止めてしまいました。
「ウルトラマンはウルトラマンさ。そういうデザインなんだ」と、苦しまぎれに私。
「そっか、そうだよね!パパの背中を洗ってあげる」
「ああ、頼むよ」
ゴシゴシしていたタカシが突然、叫びました。
「パパの背中にチャックが!」
「ハハハ。パパはこういうデザインなんだ」 



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悪魔の契約

2013年05月01日 | ショートショート



「つまり、つまり貴方は、悪魔の存在自体信じていない、そうおっしゃるのですね?」
「ああ。悪魔どころか、神の存在すら信じちゃいない」
悪魔は絶句した。
悪魔、と言ったものの、それは本人がそう名乗っているだけ。
どう見ても外回りの営業マンにしか見えない。
紺の背広、七三分けに銀縁眼鏡。全然悪魔っぽくない。
場所はと言えば、フランチャイズの喫茶店。これまた悪魔との密会場所に相応しくない。
「時間のムダだよ。そもそも、君の欲しがっている魂すら存在しないんだから」
「魂が存在しない?」
コーヒーをちびりと啜る。
「存在しない。魂なんてのは脳が作り出した幻想さ。たくさんのエピソードを記憶して困難に対処する、それが人類の選んだ生き残り戦略なんだ。膨大なエピソードを効率的に記憶するために脳が仮定した『主人公』、それが魂の正体さ」
悪魔は、すっかり困惑している様子。
そりゃそうだ。悪魔も神も、魂すら否定する相手じゃ契約も取れまい。
「他をあたりたまえ。じゃ」
ボクが退席しようと腰を浮かすと、男が制した。
「悪魔と契約すればどんな望みでもかなうのですよ」
「信じるものか」
「貴方がおっしゃるように魂が存在しないなら、魂を奪われる心配もないでしょう?望みをかなえて魂そのまま、こんなオイシイ話はありませんよ。どうです?契約書にサインを」
ボクは悪魔をしげしげと見つめた。憑依障害の精神疾患者にしては、理屈の通ったことを言うものだ。
確かにサインをしようとすまいと、ボクに実害などないか。
「絶世の美女をお望みですか?それとも巨万の富ですか?地位でも名声でも思うがまま。さあどうぞ、ご契約を」
そうか。いいだろう。ボクは契約書にサインした。
「本当にいいんだな?ボクの望むままにして」
ボクがニヤリと笑うと、悪魔がひるんだ。
「な、なんなんですか?貴方、私よりよっぽど悪魔みたいだ」

その日を境に、悪魔という存在がこの地球上から消えた。



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