粘土でピカッチ殺人事件

2013年09月13日 | ショートショート

会社の一室で五人の男性が殺害されるという、凄惨な殺人事件が起きた。
害者はいずれもその会社の重役、エアダクトから室内に送られた青酸ガスによる中毒死である。
そして何よりこの現場が異様なのは、彼らが共同で粘土作品創作中に絶命していたことだった。
通報後ただちに現場に駆けつけた警部、そして探偵桶津香具郎は今、息絶えて間もない五人の遺体を目にしている。
「警部、第一発見者の名前は?」
「えっと・・・ここの女性社員で・・・北内愛子とかいったな」
桶津の目がキランと光った。
「彼女をここへ」
数分後、北内愛子が現れた。
「北内さん、庶務担当のあなたが社の倉庫からシアン化水素を持ち出すのは朝飯前のはずだね」
北内愛子が青ざめる。
「私以外にも倉庫に出入りできた者はいるわ。私を疑ってらっしゃるの?な、何を根拠に・・・」
桶津が粘土作品を指し示す。
「これはただの粘土細工じゃない。絶命するまでおよそ240秒。彼らはその残された時間でダイイング・メッセージを残したんだ!」
全員の目が粘土に注がれる。この稚拙な作品にどんな秘密が?
「警部、あなたには何に見えます?」
「ウ~ム、真ん中の三つは、ヒトのようだな。周りのは・・・土俵?つまり、相撲?」
「惜しい。大きく強調された手に注目してください」
「手を開いてるのや、握ってるのや・・・オオ!グー、チョキ、パー!ジャンケンだ!」
「正解。ジャンケンで三つ巴の状況、つまり、アイコですよ、愛子さん!」
北内愛子の肩がピクリと震えた。
「バカバカしい!万にひとつアイコだったとしても、アイコは私だけじゃないっ」
桶津が笑う。
「そこで、周囲の途切れ途切れの輪です。土俵じゃありませんよ」
警部が首をかしげる。
「長くこねた粘土がぶつ切りになって・・・何だ?さっぱりわからん」
「残念。この形状、これはウ●ン●コです」
「ウ、ウ●ン●コ!?」
現場の全員がどよめく。
「そのとおり。ウ●ン●コに囲まれてジャンケンしているんです」
「き、きたない・・・」
北内愛子のつぶやきを桶津は聞き逃さなかった。
「きたないアイコ・・・つまりアンタだ!!」
観念した北内愛子が泣き崩れた。警官に両脇を抱えあげられ連行されていく。
「桶津さん、お見事でしたな」
桶津がかぶりを振る。
「お手柄なのは五人の害者ですよ。彼らの粘土作品がスピード解決へと導いたのです」
息絶え横たわる男性軍五名の健闘を称え、惜しみない拍手が誰彼となく生まれ、そして広がっていった。



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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ひさびさ (雫石鉄也)
2013-09-13 13:21:22
うわー。ひさびさに矢犇ショートショートの醍醐味を満喫しました。やっぱり矢犇ショートショートは、こうでなくっちゃ。
満足しました。面白かった。
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またまた事後報告 (もぐら)
2013-09-15 11:47:39
いつもありがとうございます。

矢菱さんに甘えまくりですが、「月男」お借りしました。
いつも事後報告ですみません。
ありがとうございます。

そしてこちらの作品も・・・実は・・・あはは~。
だって面白くて、つい。
またお知らせに参ります。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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雫石鉄也さんへ (矢菱虎犇)
2013-09-16 03:36:37
雫石さんに楽しんでいただければ本望ですっ。
ありがとうございます。
やっぱガキんちょに粘土与えたら、ウ●ン●コ、作っちゃいますよね。それがガキんちょのサガってもんです。
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もぐらさんへ (矢菱虎犇)
2013-09-16 03:41:51
旅の恥はかきすて!ってな感じでその場限りのお楽しみな秘宝館。
何を書いたものやら覚えていないお話も多いんですけど、『月男』は、忘れられない、愛着のあるお話です。
やっぱりブルームーンのメロディと重なってるのが原因かもしれません。
それにしても粘土でピカッチを朗読しようだなんて・・・
視覚にたよった内容なので朗読不能だと思っていましたあ。楽しみ、楽しみ。
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あはは^^ (りんさん)
2013-09-16 14:17:48
おもしろい。
思わず笑ってしまいました。
最初のイラストがダイイングメッセージだったなんて。
きたないアイコね^^
それにしても、ふつう、ウ●コって書きません(笑)
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よく考えるモノだと思う。 (四草めぐる)
2013-09-17 15:55:58
(。・ω・)ノ゛ コンチャ♪

矢菱虎犇さん、面白っw
思わず感心して、うなった四草めぐるですw

最近、ショート・ショートを書いていないので、勉強になりましたw

というか桶津香具郎ってw
多分、オケツカグロウって読むんだろうけどw
いやはや、そこにも、なにか隠されているような気がしてw

深読みですか?w

では、では。
草々。
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りんさんへ (矢菱虎犇)
2013-09-18 23:55:25
この手の推理ものを書くとき、ボクはもう完全にりんさんの推理ものショートショートをお手本にしてしまうんです。
でも、僕の場合はおもいきりお下劣に料理してしまうんですけど・・・。
●の伏せ字風だけど、ぜんぜん隠れていないってオトボケはヴァッキーノさんがやっていたののマネっす。
まあつまりそれ、皆さんあってのアタシっちゅうか(笑)
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四草めぐるさんへ (矢菱虎犇)
2013-09-19 00:00:21
職場に、常に親爺ギャグを発することを狙っているヤツっているじゃないですか。ボクは親爺ギャグは言えない恥ずかしがり屋さんなんですけど、面白いなと思った思いつきを、こういう形で発散しているんです。
まあそんなわけで親爺ギャグ的なお話が多いわけです。

ちなみに桶津香具郎は明智小五郎のギャグに過ぎないんですけど、すでに三回登場しているみたいです。桶津だけに、胡散臭さプンプンです。
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