零式艦上戦闘機、零戦、ゼロ戦。
日本が誇る名戦闘機で、これに関する書物は星の数ほどあり、多少なりとも興味がある人なら、知り尽くしているくらい知っている戦闘機である。
知識としては、新しく仕入れられることは期待できず、わざわざ300ページもある本書を読む意味はなさそうだと思って、1ページ目を読んだら、引き込まれてしまった。いきなり、工場から牛車が出発。荷物はもちろん零戦。
なんと、太平洋戦争時の日本は、工場から牛車によって、未舗装の軒の連なる狭い道を、何十時間もかけて遠く離れた飛行場まで、軍用機を輸送していた事実が書かれている。
世界トップクラスの航空技術を持っていても、インフラは3流国だったのだ。
そんな足枷の中で、零戦は、奇跡的な高性能を発揮して終戦まで戦い抜いた。
太平洋戦争の歴史は、零戦によって語ってもかなりの範囲をカバーできることに今さら驚いた。
先ずテーマがいい。題材に対する洞察がいい。派手な描写は無いが、ぐんぐん物語りに引き込む史実に忠実な構成。時代を生きた当時の人間への畏敬の念を感じられ、飽きることがありません。「羆嵐」なんて、何度も読みました。
ゼロ戦も多くの作家にモチーフにされてきましたが、吉村作品なら読みたいです。
牛馬により飛行場へ輸送される軍用機。生産が加速されるにつれ、牛馬は疲労し、飼料が不足していく現場。次々と倒れていく牛馬。
戦争が終わり、生き残りやせ細った馬が、輸送をしてくれた組の人たちに引き取られている場面で終わるところなど、国家総力戦である戦争を見事に描写していると思います。