Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

ワンタンの愛、どら焼きの幸せ、コンビーフの官能

2013年09月01日 | 読んでいろいろ思うところが
東海林さだお「どら焼きの丸かじり」(文春文庫)を読む。
丸かじりシリーズも30作目らしいが、
相変わらずの素晴らしさで、読ませる。そして笑わせる。



たとえば、ワンタン。

??ワンタンのいいところはここのところにあって、
  ここのところとは、わずかな肉の味であって
  けっしてたくさんの肉の味ではなく、
  また誰もたくさんの肉を望まない。

たとえば、どら焼き

??しっとりと甘いカステラ状の皮を噛んでいく幸せ、
  砂糖や蜂蜜の甘い香りが口の中に広がっていく幸せ、
  更にその下に甘い餡のかたまりがみっしりとあって、
  歯は小豆と砂糖と蜂蜜の饗宴の中に突入し、
  舌もその余興にあずかり、あー、もー、
  この餡の幸せだけで充分、と思っているのに、
  更にですよ、更にその下にまたしてもというか再びというか、
  最初味わった幸せ、すなわちしっとりと甘いカステラの幸せがやってきて、
  もう嫌っ、知らないっ、意地悪っ、
  とすねたくなるほどの幸せにつぐ幸せ。

名文だと思いませんか。
これだけ賞賛されたら、
どら焼きだってどら焼き冥利に尽きるというか。

お手本にしたい文章書きの人はたくさんいるけれど、
故・ナンシー関さんと、この東海林さだお先生は個人的には最高峰。
37年生まれというから、今年76歳になるとは思えないほどの
キレキレの文章と、食べ物への飽くなき好奇心。
あとやっぱり歯と胃腸が丈夫なのだろう。

コンビーフ缶を糸巻きのように開けていく描写があるのだけれど、
なんともまあ官能的で、これまた素晴らしい。

??三回ぐらい回したところで、缶と缶の間のスキマから
  コンビーフの中身というか、肉というか、肌というか、
  そういうものがチラッと見えてくる。
  なにしろ肉肌が見えるわけだから、ちょっとだけよ、
  という雰囲気もちょっとだけあり、まことに魅力的なひとときといえる。


コメント
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