クルマのサスペンションと長いお付き合い

サスペンションの話、試乗記、旅の話、諸々・・・。

新車試乗

2022-09-06 15:43:11 | 試乗レポート
モーターファンイラストレーテッド(MFI)誌のサスペンションウオッチングの取材で久々の郊外試乗に行ってきました。

すでに動画配信されているので、目にされた方もいると思います。

まさに試乗イベントの最中。

マツダCX-60。

今日は誰か晴れ男がいるんでしょうね、富士山がくっきり見えます、と現場のスタッフ。

試乗会をスタートさせてからずっと曇り空か雨だったらしく、朝日で芝生の上に展示してある新車がキラッとしています。

朝7.30に集合、そこから説明会と試乗、途中食事もいただいて午後にもう一度仕切り直しの試乗。

その間にエンジニアとのやりとりなど中身ぎっしり、あっという間の1日でした。

もちろん新車試乗と掛け合わせのサスペンションウオッチングの取材を挟んで⋯

心よく相手していただいたエンジニアの方に感謝。

10月売り号のMFI誌に掲載予定。


R8の場合

2022-08-26 13:06:53 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
R8の純正ダンパーはマグネライド。

(マグネティックライドコントロール、磁性流体ダンパー)

金属粉の混ざったオイル(ダンパーオイル)を電磁石でコントロールするセミアクティブサスペンション。

冷たいミルクシェークを太めのストローで吸い込むシーンを思い浮かべてください。

ストローの周りに電磁石のコイルを巻きます。

クラッシュアイスを金属粉に置き換えると、電流を流すと磁力でストローの内壁に金属粉が張り付きます。

壁際は動きにくく、磁力の弱い中央付近は抵抗を生みつつ押されると動きます。

これがダンピングフォースを生む原理で、オイルポート径(ストローサイズ)を
磁力によって太くしたり細くしたりさせているイメージです。

*もう一つの考え方は磁力を受けて、金属粉が半固体状態となるので、
 オイル粘度が変化するイメージで捉えてもいいかもしれません。

実際ダンパーの構造は穴の空いたピストンと電磁コイルだけで、可動部品はありません。

どういったシーンでどれほどの減衰値が必要なのかが分かれば
自在にかつ"瞬時"にコントロールできるというわけです。

その優れたダンパーが標準装着されているのになぜ入庫してきたのか。

理由は簡単で油漏れ。

新品部品も入手可能なのですが、オーナーさんの希望は別のダンパーにしてみたい。

オーバーホールできない純正ダンパーから、オーバーホールも仕様変更もできるダンパーへとも言えます。

ここで問題になるのは減衰値をどうするか。

磁性流体式のダンパーは"入力シーン対応型"の流動的減衰値。

従来式のダンパーは"速度感応型"の固定減衰値と呼ばれるもの。

走行中刻々と減衰値が変化するセミアクティブダンパーから、定点の値を抽出しても参考になりません。

といったこともあって一から減衰特性、減衰ボリューム、減衰バランスなど
走行テストを繰り返して決めていきます。

ハンドリングと乗り心地と安定性⋯

近所のコンビニで減衰データーを買うことができれば10分で解決!

そんなわけないですよ。

サスペンションチューニングの極意

2022-08-20 10:35:22 | セッティングレポート(SUSPENSIONDRIVE)
依頼は「乗り心地を良くしてほしい」

持ち込まれたクルマは国産のスポーツモデル、足回りは純正。

依頼主は、うちと古い付き合いの同業者(エンジン系)の中学生時代の同級生。

普段このクルマを使っているのはその同級生の奥さん。

乗り心地に不満を持っているのは奥さんのようです。

FIAT X1/9 →ロードスター→ボクスター→今回のクルマ

筋金入りのオープンカー道を歩んでいる女性です。

なんとかせねばと旦那さんが同級生に相談⋯そしてクルマとともに来社。

乗り心地の印象を聞いていくうちに、現状だと犬も不安げで落ち着きがないとのこと。

つまり同乗の"愛犬"が落ち着いていられる乗り心地にしないといけないわけです。

何日かかけてサスペンションチューニングを行なったあと、まずは知り合いに試乗してもらったのですが、
あまり変わっていない?が一言目。

日が変わって次に旦那さん試乗⋯良くなった?と思います。

で引き取っていかれました。

二人のコメントよりも、気になるのは奥さんのコメント。

⋯何日かのち連絡をいただきました。納得してもらえたようです。

肝心の愛犬も落ち着いていられる乗り心地になったと。

ということでOKがもらえました。

犬をも黙らせるチューニング。

喋らず態度で示されるだけに真剣勝負です。

安全運転技術向上分科会

2022-07-21 17:28:01 | NEWTON BRAKE
安全運転の講習会に行ってきました。

主催は某市の商工会。

その街に住みどこかですれ違うかもしれないごくフツーの人達の集まりです。

*運転という意味で。

安全運転について何ができるか自分達で考えてみてはどうだろうかと、
会員の中に声を発した人がいるんです。

その方との打ち合わせの折、実技走行までを視野に入れて進められるといいと思います・・・

ということで皆さんと初顔合わせの座学が今回。

一体どんな話が聞けるんだ?・・・そんな雰囲気で会がスタート。

まずは公道を走るとしたらこんなことが考えられます。

心構え、考え方の整理を主に話しました。

会の終盤、ブレーキがとにかく大切です。是非実技走行の会をやりましょうで締めくくり。

最後に明日からできる「一言アドバイス」をと言われたので。

普段自分がどんなブレーキの掛け方をしているのか意識してみて下さい・・・

これで実技走行の折に、ニュートンブレーキの話に繋げることができます。

親子連れで見えた方が会が終わったあと挨拶に見えて、
17歳の息子さんが今回の話をレポートにまとめて(夏休みの?)提出したいと言われてました。

そのあと何人かと立ち話。こんな考えもあんな考えもあって皆さん個性豊か。

これまで何十年と運転歴を重ねてきた人たちが一度も体験したことのない楽しい「練習会」が待っています。

ゼロタッチバネ その16 997の場合

2022-07-08 13:03:19 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
特注のゼロタッチバネを997ポルシェに組み込んで最終確認です。

でも、以前乗った仕様との違いが分からない、とは、ひとっ走りしたあとの森慶太氏のコメント。

そのはずです、テスト時の組み合わせ仕様とゼロタッチバネのレートは数%違い。

違うのは1G車高が変わったことと、バネの巻き方変わった⋯
これはざっくり言えば雑味が減るので違いが分かりづらい。

ステアリング操作に対して車両の反応が分かりやすく穏やかな方向に調ったことで、
これまでこのクルマを走らせた時に感じていた緊張感が和らぎました。

例えればステアリングのオーバーオールレシオが一割ほど緩くなった印象、
又は夏タイヤから冬タイヤに履き変えた時に感じる、ステアリングをほんの少し
先行して操作できるまろやかな反応に似ています。

特に旋回姿勢から直進に戻る時のステアリング操作の気難しさが減って、
俺って運転上手くなった?と思える扱いやすさになりました。

それと、道の凸凹が無くなったように感じる、とは別のドライバーさんの同乗コメント。

FF→FR→FMR→RMR→RRと荷重(重心)が後ろよりになっていった時に、
ピッチング対策とハンドリングの組み立て方は、
果たしてこれまでのサスペンションチューニングの線上にあるのか。

つまりRR車の潜在的なピッチング挙動を手なずけることが、快適さを演出する為の前提条件で、
今回一番の課題だった訳です。

フロント三種類、リヤ二種類のバネの組み合わせを試して「前後バランス」と「バネレート」を探り、
もう少しこうしようを加味した数値をゼロタッチバネに反映させました。

出来上がったものは、ポルシェが純正で設定しているバネレートのすぐ近く、組み合わせの妙プラスαの範囲。

ロワーアーム角と、バンプステアー、キャンバー変化、トレッド変化、トー変化は全て連動して動きます。

「設計車高」のあたりにそれぞれの数値の中央値があり、
トーインからトーアウトに変化する(リヤサスペンションは逆)ロールステアー又は
バンプステアーと呼ばれるトーの切り替え点もここに設定されています。

これはサスペンション設計の基本、世界中で走り回っているクルマの90%以上はこの約束で作られています。

とここまで書いて思い出しました、一部に肝心要の車高がアレレのクルマがあったりするので例外もあります。
持ち込まれた時点の997も・・・

現代の高性能タイヤを履いていれば、当然ながらそのジオメトリーを反映した動きが色濃く出ます。

「ホイールアライメント」「車高」の扱いはレーシングカーのそれと同じに"慎重"に管理すべきで、
甘い考えは走りを台無しにしてしまいます。


あと30cm

2022-07-01 11:11:46 | 試乗レポート
駐車場であと30cm前に出して止めたい、そう思ってブレーキペダルから足を離すと、
クリープ現象で半端じゃない勢いよく飛び出す。

そろりと動き出して欲しいのにまずそれができない。

掛けているブレーキペダルの踏み込みストロークが長くブニョブニョで剛性感がない。

足の力を緩めただけではリリースされず足の位置を戻していくと、
ドライバーの管理できないところで勝手にブレーキ液圧がスコンと抜け落ちる。

なのでブレーキを軽く残してクリープで前に進めたいは成立しない。

再度ブレーキペダルを踏み直すとソフトに効く領域を通り越してガツンと効く。

30cmを動かすのに、鬼ポンピングブレーキ使いになって不快なガツンガツンを繰り返さないといけない。

運転の上手い下手が及ばないこの仕上げは、これならコンビニダイブができそう、
と妙な勇気が湧いてくるクルマでした。

歩くスピード以下でドライバーのコントロール下に置けないようなクルは選んじゃいけません。

購入を決める前に30cm動かせばこの課題は採点できます。


いい脚あり〼 ゼロタッチバネ その15 997の場合

2022-06-22 10:41:29 | ガレージレポート(オリジナルボックス)

*フロント 初期仕様


*フロント 最終仕様


*リヤ 初期仕様


*リヤ 最終仕様

ゼロタッチバネに合わせてダンパーチューニングを行いました。

997のフロントストラットはツインチューブタイプの非分解のダンパー。

これは自動車メーカーがテストで使用する分解型のものにしました。

リヤはモノチューブダンパー。

このまま分解してチューニングを施す方法もあるのですが、
重い重いリヤの車重をしっかり受け止めるのに、
別タンク式のダンパーを新規製作。

レーシングカーなどで採用される形式と同じで、
ストロークと減衰値がより確実に作動させられる構造です。

線図は初期仕様と最終仕様です。

フロントは圧側の減衰ボリュームを低く設定しました。

リヤは減衰を大盛りにしていけば、車体の上下動を止められるようになるものの、
引き換えに乗り心地の悪化が考えられます。

「止める」のではなくゆっくりスピードで揺らして振幅を減らしていくことで、
乗り心地との折り合いがうまくいくことがあります。

つまり動きの「速さ」に減衰を効かせたいので、ピストンスピードの高速域寄りに
減衰ボリュームのある速度依存型のリニアピストンに変えました。

純正はデグレッシブピストンで、ピストンスピードの低速域寄りに
減衰ボリュームが集中しているタイプです。

ストロークの出始めから動き終わりまで終始強くブレーキがかかるので、
身動きしないようなバネ下との一体感のある動きとも言えるのですが、
この状態から減衰を大盛りにすると、仔細な路面の凸凹も吸収できなくなり
ブル感だったりボコ付きが気になりはじめます。

その手前に答えがありそうですが、速度依存の傾きが寝ている分、
高速域の減衰不足が顔を出すことがあり、
ゴツゴツするのに大きくストロークする瞬間が入り混じります。

と言ってもリニア、デグレッシブ。それぞれに一長一短があって使い方次第。

リヤに関してはデグレッシブからリニアに変えました。

フロントはデグレッシブのままです。

初期仕様と最終仕様との間に、かなりの時間とたっぷりの手間、
それにあちこちの協力会社などの人手があって、開発ストーリがぎっしり詰まっているのですが⋯

ブログで見るとああそうなんだ!

いい脚あり〼 ゼロタッチバネ その14

2022-06-09 15:09:46 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
ゼロタッチの証、スプリングコンプレッサーで押さえつけなくても取り付けナットがかけられます。


ポルシェ997

997用のゼロタッチバネができあがってきました。

純正形状のバネを一台分だけ、しかも車高を指定して製作してもらうのは⋯ある意味かなり贅沢な話です。

優れたバネ素材⋯最新の設計技術(巻き方)⋯雪道対応の贅沢塗装&特注色。

ストラットと組み合わされるバネなので、荷重中心線の管理も然り。

バネメーカーさんに試作として作っていただいているので、当たり前のことですが、
クルマに組み込んだ後の寸法を見れば指定した車高がいくつだったかが正確にわかるほどです。

さすがと言っていいのか、当たり前でしょうなのか、恐れ入りましたとしか言いようがありません。

毎回思うことですが餅は餅屋。

サスペンションセッティングをまとめるにあたって、決めてになる車高を
きちっと作り込んでもらえることがどれだけありがたいことか⋯

このバネに合わせて減衰力チューニングを行います。

乗り心地を良くする⋯と聞けば、柔らかくて刺激の少ないイメージが浮かんでくるのですが、
柔らかく感じるけど快適さがないとか、硬くしっかりしているのに不快じゃないと言ったことが
しばしばあるので、はじめに乗り心地のふるい分けから。

さてどんな仕上がりになるのでしょうか。

いい脚あり〼 ゼロタッチバネ その13

2022-05-19 09:44:38 | ガレージレポート(オリジナルボックス)
スズキスイフトの場合。

純正のバネレートに対して、フロント60%、リヤ25%アップがゼロタッチバネのレート。

これまで純正車高に対してフロント10mmアップがハンドリングのバランスがよく、
ビルシュタイン特注ダンパーとの組み合わせも良かったのですが。

フロントバネレートが1.6倍になるのに合わせて設定車高を変更、純正車高に戻しました。

同じ横Gの時のロール角を比べると、沈み込み量が純正バネの時よりも1.6分の1少なくなって、
伸びストロークもほぼ同等寸法しか伸び上がらないので、低G旋回ではほぼフラットに走っているイメージになります。

旋回Gを高めていっても外荷重から起き上がる 時のよっこらしょ感が消えてシャキッとロールが戻ることから、
車体の動きを待つ、合わせると言ったステアリング操作の煩わしさが半減。

これもゼロタッチバネのお約束で、支えている車体重量に見合ったバネレートを選択することで、
元の姿勢に戻るのに必要な「筋力」が備わったからとも言えます。

NCロードスターのゼロタッチバネに続いて、スイフトも好感触。

この後ポルシェ997用がもうすぐできあがってくるのと、次がNBロードスターと続きます。

NEWTON BRAKE METHOD その8

2022-05-06 13:35:26 | NEWTON BRAKE
足で止める。

子供用三輪車にはブレーキがありません。
地面に足を下ろして靴の摩擦で止めるかペダルを逆に漕ぐようにして止めます。

どちらも足加減。おそらく人生で初めてのブレーキコントロール。

地面との「摩擦」と「減速強さ」を足で感じ取り、
さらに体重を乗せて強く止めたり、力を抜くかのコントロールは三歳児でもできるのです。

それがどうでしょう、大人になったらクルマをうまく止められない・・・

ひとつ考えられるのは、現代のクルマのブレーキは「わずかな足ごたえ」しかないことです。

三輪車に比べると、スピードも重量も桁違いに速く大きいのに、筋力で止める感じがしないのです。

これだと人の感覚を生かせず、車を止めること自体を一層難しくしているとも言えます。

レーシングマシンをトップスピードから見事に減速してコーナーに入っていくドライバーは、
運転技量が優れていることはもちろんですが、アシストなしのブレーキシステムなので
筋力100%でコントロールでき、三輪車を足で止めている感覚で減速できるのです。

少し前のこと、目標に向かって止めるニュートンブレーキを何人かでトライしました。

行きすぎたり手前だったりを繰り返してやっと狙いの位置に止められる人がほとんどだったのですが、
ブレーキアシストのないクルマ(マスターバック無し)でトライすると、
なんとなんとほぼ全員が二〜三回目のトライで、ニュートンブレーキをマスターしたかのように、
目標位置にピタリと止められたのです。

速度、減速G、尺、それと「筋力」の関係がわかれば、1回目のトライから学習して、
次はこうしよう、が足(筋力)でできるので少ない回数で達成できたのです。

力加減ができれば道具を扱う本能が覚醒し三歳児でもできる・・・

クルマは筋力で止めるのもの⋯