Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立小劇場『文楽九月公演 第一部』 1等前方下手寄り

2011年09月17日 | 文楽
国立小劇場『文楽九月公演 第一部』1等前方下手寄り

『寿式三番叟』
国立45周年のお祝いと3月11日の東日本大震災を受けて、天下泰平・国土安穏の祈りを込めた上演。能楽『翁』を人形浄瑠璃に仕立てた演目とのこと。

竹本6名、三味線6名、そして黒御簾のなかでもお囃子が演奏されかなり華やかな演奏。声が少々衰えたかなと思うものの住太夫さんが中心になってリードし統一感のあるいい演奏でした。

翁が簑助さん、千歳が勘十郎さんの師弟コンビが静々と粛々と舞います。

そして二人三番叟の華やかで楽しい踊りが場内を盛り上げます。途中、疲れてサボったりするのが人形浄瑠璃らしい演出。とっても楽しくてワクワクしました。

三番叟を操るのが若手の幸助さんと一輔さん。幸助さんは若干ゆるいとこもあるものの動きが大胆。一輔さんは芯がぶれず非常に端正。二人とも人形に華がありコントロールが上手い&音の捉まえ方が良いと思います。今後伸びるといいな。注目していきたいと思います。

『伽羅先代萩』「御殿の段」
歌舞伎では何度も拝見していますが文楽で『伽羅先代萩』を観るのは初めてです。演出がほぼ歌舞伎と同じでした。本行に近づけて上演した歌舞伎も観ておりますが、普段上演される定番の歌舞伎演出のほうでも歌舞伎独特の入れごとはあまりないのだなと確認。

お茶道具を使ってのまま炊きがそのままにも驚きました。あのゆったりとした時間は文楽も同じなんですね。政岡の心情や子供たちの待ちわびる健気な様子をじっくりと見せる。退屈を評されることも多い場ですが、やはりこの場での政岡と鶴千代、千松の心情や健気な情景をみせてこと次の悲惨な場がインパクトを持つのでしょうね。

今回、やはりどうしても歌舞伎と比べながら観ておりましたが、歌舞伎の行動様式が「情」の部分を押し出すのに比べ、「物語」をみせるという部分でその「情」もさることながら「義」が根底にあるのだなという印象。歌舞伎も演者が違うと印象がかなり変わるのと同様に語る太夫さんや人形を操る人によっても印象は変わるとは思いますが。

今回は八汐@簑助さんには空恐ろしいほどの非情さをがあり、政岡@紋寿@政岡さんはまずは鶴千代君を守る「忠義」のほうが際立っておりました。紋寿さんの政岡は乳母としての心持ちが強く、またとても控えめ。

今回観た限りでは人形であるゆえに物語に沿った感情のありかたがシンプルすぎるかなと。政岡の苦しみはまずは忠義の行動に隠され、八汐の短絡的な詰めの甘さは子供を弄り殺しにするという行動だけに集約されてしまいひたすら非情さが際立つ。封建制度に殉じた母子の悲劇は際立ちましたが心情に沿いにくい。

個人的には役者が演じていることで演じる以上にどうしても纏ってしまう「情」がどこかしら滲み出てしまう歌舞伎のほうが好みかもしれません。今のところ、「御殿の段」の栄御前登場後の場は2004年の玉三郎さん政岡と2006年の藤十郎さん政岡が好きですね。まま炊きの場に関しては藤十郎さんのが一番好き。

栄御前@文雀さんがさすがの品格と佇まいでした。文雀さん、お元気そうでなにより。栄御前の頭が若いので驚きました。歌舞伎だとかなりお年な雰囲気で演じられるので…。

『伽羅先代萩』は文楽でも一度通しで観たいですね。

『近頃河原の達引』「堀川猿回しの段」
こちらも歌舞伎で拝見したことのある演目。朴訥と情味溢れる我當さんの与次郎が印象に残っています。

親子兄妹の情愛のしみじみとした演目。文楽のほうがおしゅんと伝兵衛の経緯がよくわかったかも。与次郎@勘十郎さん、すっきりとした爽やかな与次郎。もう少し泥臭くていいかなあ。ちょっと知的すぎるかも。私の与次郎のイメージとしては頭がよくなくて不器用だけど愛情豊かな人物なんですよね。我當さんの与次郎がピッタリすぎたのかな。

お猿さんが可愛かったです。一人で二匹のお猿を操るのは大変でしょうねえ。活き活きとしていました。ちょっと見せ場が長かったけど(笑)

母@勘壽さんの三味線の手が床とピッタリだった。すごい!

切の語りの源大夫さんがお声が出ず辛そうでした。相三味線の息子さんの藤蔵さんが一生懸命フォローしようとされていた感じ。