Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第三部』 3等A席中央センター

2009年08月22日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第三部』 3等A席中央センター

『お国と五平』
とってもイヤ~ンなお話。こういうお話は結構好きなので楽しめました。原作が谷崎潤一郎、いかにもでした(笑)。誰にも感情移入できないし、同情も出来ないけど、在りうる話よねとか、「今」のほうが通じる話ですねえとか思いながら観ておりました。一幕もので簡素な舞台装置、奥行きのある音の使い方など新劇ぽい演出がこの芝居には似合っていたように思います。

友之丞@三津五郎さん、今月の三津五郎さんのなかでは一番のお気に入りです。気の弱い優男風情に甘えたストーカー論理を滔々と語って、一瞬「まあ、わからなくもないけど」と騙されそうな気にさせる。自分の気の弱さを認めてしまう部分での爽やかな物言いと、未練がましい情けなお態度のギャップも面白かったです。個人的にはもう少しあっけらかんとした部分に、どこかもう少しの線の細い、底がみえない、どこか病的な部分を出してもらえるとお話のイヤ~ン度が高くなって好きなんですけどね(笑)。

お国@扇雀さんは、ちょっと細かく体を動かしすぎかな。最初からどこかベタッとした甘えた感じがあっていかにも男に頼りそうな雰囲気が見える。。前半、もう少し弱っていながらもいかにも武家の貞淑な女という雰囲気があったほうが後半ギャップがでて面白いと思うんだけどな。女のずぶとい感じはいかにも、という感じでそこは良かったです。

五平@勘太郎くん、今月のなかでは一番、彼らしい芝居で個性が出てたような気がします。いかにも忠義ものといった風情のなかに、肩肘はった若さがあって、そこの危うさがなかなかいい感じでした。


『怪談乳房榎』
この演目は初観劇です。期待していた方向と違っていたという部分でこれが個人的に残念でした。

早替わりを主に見せるだけの芝居になっていて、物語の面白さがなかなか伝わってこない。メリハリがないというか、一場一場ぶつぶつと途切れてどういう話なのか見えてこない。早替わりの技術は見事だったけど、その部分だけで引っ張った感が…。これはその趣向を楽しむ芝居なのかな?お話としては人のずるさや弱さがもたらす怪談話だと思うんだけど、それを体現する個々のキャラが弱まってしまっていて残念だった。

趣向を楽しむ芝居なんだと最初から判っていたら楽しみ方も違ったんでしょうが、私的には円朝さんの人間ドロドロな怪談噺の物語を楽しみにしてしまっていたのです。

勘三郎さん、小悪党の三次が一番、すっかりハマっていて、まあこれくらいなら勘三郎さんはお手の物でしょう。でも本来なら正助が一番良くないといけないはずなんだけど…。こういう、朴訥だけど小心者のゆえに流されて生きてしまうという役は得意だと思うのですが今回、上滑りしてました。菱川重信は少々存在感が薄かったですね。三役の演じ分けはかなり出来ていたとは思うのですが、個々のキャラクターの心持の部分まで突っ込んでの芝居ではなかったですね。でも早替わりをかなり多用しているので、深めて演じるだけの場面もないのだからしょうがないですよね。ラストのお楽しみ円朝役の口上は楽しくてよかったです。早替わりの部分でいえば、、本当に見事でした。ここで替わる、とわかっていても面白い、その早替わりの妙の部分しっかり見せてきていました。

ここからは戯言。個人的な印象だけで書きますが、このところ勘三郎さん本来の良さがうまく前で出てきてないなとい感じることが多い。トンネルに入ってしまっているであろう感じはここ数年感じているのだけど、それにしても、まだ光の方向がみえてない感じ。地力があるという部分はきちんと伝わってくるのだし、今の幹部連中もある時期何年かはジタバタしてた人が多いので長い目で見るべきなのでしょうね。

お関@福助さんの抑えた芝居がよかった。上品で綺麗な奥方でした。ただ、芝居上の関係なのか、磯貝浪江と無理矢理関係させられた後の描写がなく、子供を手放す行動が唐突すぎて、何を考えているのか今ひとつ見えないキャラクターになってしまっていたのが可哀相ではあった。しかし、こういう抑えた芝居も出来る人なのに、なぜ肝心な役で崩しちゃうんだろう~。

磯貝浪江@橋之助さんは今月は全体的に頑張っているという印象。 浪江では色悪のキャラクターを過不足なく演じていましたし、色気もありました。

小山三さんが茶店の女でご出演。90歳のお誕生日を迎えられたそうです。90歳とは思えないほど動きが若いです。ますますお元気で頑張っていただきたいです。

日本橋公会堂『第二回 趣向の華』 1階センター

2009年08月17日 | 歌舞伎
日本橋公会堂『第二回 趣向の華』 1階センター

なかなか拝見できない10才台、20才前半の歌舞伎役者御曹司たちが揃うということで興味を惹かれ観に行きました。

4時30開演で終演がなんと9時。休憩時間が計35分しかないという盛り沢山な超ハードな公演でした(笑) でも、とても楽しかったので疲れませんでした。所詮、お子ちゃまたちの発表会、と思っていたのですが、それなりにやっぱりプロ&プロの卵たち。拙くても表現しよう、伝えよう、見せようという気概が感じられて観ていて非常に気持ち良かったです。そして、そういう彼らをサポートする、若手・中堅役者や名題下の方々が、「さすが!」な締めっぷり。こういうの観るとまだまだ歌舞伎は大丈夫って思ったり。そして、古典の強み、歌舞伎演出手法の強みをつくづく思い知った感があります。 そういう意味で本当に新しいことに挑戦することの意義や大変さ、リスクなどにも想いが行きました。

長唄『藤娘』
立方は坂東亀三郎さん。普段はキリリとした立役をなさっている亀三郎さんの藤娘。この会ならではでしょう。ご本人、飛び道具とおっしゃっていますが拵えをした亀三郎さん、なかなか美人さんです。踊りのほうは丁寧に一生懸命に、という感じでしょうか。体全体に柔らか味があまり無く、手捌きや足捌きが荒いため、ごつごつした藤娘といういかにも立役さんの踊りだなあ感は否めません。藤娘は振袖姿のはずですが、袖が短めの着物を着ていました。袖の扱いが難しい女形舞踊に慣れていなから動きやすい長さにしたのかな?小道具の扱いがさすがにきちんとしていたのには感心。藤の枝や傘の扱いは難しいんですよね。三方へのご挨拶のところはとても可愛かったです。

演奏のほうは立三味線が勘十郎さんで並びに梅枝くん、萬太郎くん、種太郎くん、種之助くん、廣太郎くん。太鼓が亀寿くん、大鼓が壱太郎くん、小鼓は梅若玄祥さんと尾上青楓さん、それと梅丸くん。立唄が廣松くんで、あとは色んな社中の長唄連中。

唄は廣松くんが出だしこそ声がひっくり返りましたが、それ以降はまずます調子よく。三味線は勘十郎さんが終始引っ張っていきます。御曹司連中は譜面をみながら必死。そのなかで萬太郎くんが暗譜していたようなのには感心しました。御曹司連中には後ろに後見がいて、転調の時などに手がでて調整していました(笑)。鳴り物は梅若玄祥さんと尾上青楓さんがきちんと引っ張っていたのは勿論ですが、全員がなかなか安定した出来。

常磐津『仮名手本忠臣蔵 ―大序― 』
主催者、勘十郎さん、青楓さん二人だけでの素浄瑠璃。なんと、大序すべてを語りきりましたよ。途中、少しだけだれた所はあったものの、レベルはかなり高い。最初、プログラムをきちんと読んでなかったので、義太夫なのかと思い込み、勘十郎さんが太棹じゃなく中棹であれ?状態のなか、やはり中棹だと軽くなるんだなあとか青楓さん、美声だし非常に上手いけど語るというよりは唄い過ぎかなあ?とか見当違いの感想を持ち…途中、常磐津と知り、うわあ、ごめんなさい、すいませんという気持ちに。それにしても青楓さんの語り分けは素晴らしかった。音の高低の取り方が上手いんですよねえ。うむむ、ヘタな役者じゃ敵わないでしょうというレベルの高さで、ここまで出来るなら役者になったら?とかつい思ってしまいましたよ。

しかし、勘十郎さん、青楓さんって舞踊家なのに、こんなに何でも出来ていいのだろうかってくらい多彩な才能を持っていて、ビックリしてしまいます。


歌舞伎舞踊抄『花形一寸顔見世』
有名どころの舞踊のダイジェストをメドレーで。お客さんがかなり湧きました。勘十郎さんが「いつか彼らにこの作品を上演して欲しい…という願いで」という、御曹司たちの舞踊お披露目です。素踊りなので実力がすぐにわかってしまう、という…。

「いつか」と言うだけあって、まだまだこれから、拙いながらも一生懸命に、というレベルの舞踊です。それでも彼らは曲がりなりにも歌舞伎座本興行で何かしらの役で一月舞台立った経験のあるプロの卵たち。拙くても表現しよう、伝えよう、見せようという気概が感じられて観ていて非常に気持ち良かったです。

『供奴』
米吉くん、きっちり、きっちりと音に乗って踊っていました。それほどお顔は似てないと思っていたのですが時々ふっとお父様の歌六さんに似てるなと思う瞬間も。表情でかな?

『鷺娘』
男寅くん、可愛いですね~。鷺娘というより可愛い雛が親のマネしています、って感じの踊りでした。

『三社祭』
廣太郎くん、廣松くん、兄弟だけあって息がピッタリ。動きのある舞踊を若いだけあって弾むように踊ります。内容をきちんと把握して踊っていました。廣松くんのほうが体の置き方などがきちっと決まっていてセンスがいいなと感じました。

『吉野山』
種之助くん、丁寧に形作って決まり決まりを綺麗に見せてこようという踊りでした。

『二人椀久』
かなりテンポの速い『二人椀久』です。若い二人に踊らせるために工夫したのでしょう。梅枝くん、壱太郎くん、この二人の舞踊は年長さんだけあってレベルが高かったです。丁寧に踊るという部分以外にきちんと情感をみせてこようとする踊りになっていました。二人ともかなり上手いですねえ。手捌き、足捌きが柔らかで、体の置き方が断トツに綺麗。見応えがありました。若手花形興行(浅草あたり)で踊ってもいいんじゃないかな。

『勢獅子』
種太郎くん、萬太郎くんの二人、獅子の舞で最後しか顔を見せません。道具を使っての舞踊は難しいと思いますが、しっかり獅子を操っていました。足捌きも丁寧に。カラミがついたのですが、本興行で活躍中の名題下の役者さん4人がカラミ手なので本格的。

黒御簾音楽は立三味線は終始勘十郎さんが。この演目全部で立三味線できるって…長唄と清元と常磐津とですよ。青楓さんは鼓、太鼓、唄にとマルチの大活躍。しかも一定レベル以上なんだから凄い。なんですかね、この二人の多才振りは…。

特別出演?な市川染五郎さんは小鼓と鉦の演奏。『吉野山』と『二人椀久』では立鼓になり良いお声での掛け声を聴かせてきたり、かなり早い演奏をきちっと聴かせてきたりで予想以上の活躍ぶり。『二人椀久』の梅枝くん、壱太郎くんの踊りがとても良かったのにも関わらず、染五郎さんのほうもつい観てしまったりしました。染五郎さんは後輩たちの踊りを結構鋭い目で見ていましたねえ。かなり先輩モードなお顔をしておりました。

 
袴歌舞伎『血染錦有馬怪異 ―化猫騒動― 三幕六場』  
有馬の化け猫騒動の物語を新作歌舞伎として 苫舟(勘十郎)さんが脚本を新たに書き直し演出も手掛けた作品。なんと2時間という長時間の狂言でした。袴歌舞伎とは全員が拵えをしないで芝居をする、いわば素歌舞伎。演出はオーソドックスに、古典歌舞伎の演出をもちいており、安心感のある作り。しかし古典的なオーソドックスな歌舞伎演出は見慣れているせいもあるけど見やすくてすんなり気持ちが入っていけます。練りあげられたものの安心感というのは大きい。

本当に新しいものを取り入れていくのはやはり大変だしリスクが大きいものなんだな、ということも改めて思いました。でも新しいもの、が入っていかないと停滞する。だからあえてリスクを負うものをやろうとする方々の意欲は大したものだとも改めて思った。スーパー歌舞伎を手掛けた猿之助さん、そして現代の演出家を歌舞伎に呼び込んでいる勘三郎さん、新しい題材、新しい手法を取り込もうと挑戦する染五郎さんの試みは思っている以上に大変で凄いことなんだなと思いました。

さて、話が逸れましたが『血染錦有馬怪異』ですが、かなり面白かったです。練り上げれば本興行でも掛けられるくらいのクオリティはあったと思う。

友右衛門さん、芝雀さん、京蔵さん、亀三郎さん、亀寿くん、そして名題下の蝶之介さん、京三郎さん、京珠さん、京由さん、京純さん、蝶三郎さん、梅之さんがまずは見事というか超若手役者をフォローして芝居を締めていきます。この方々が出演したからこそ、きちんと作品として観られるものになったと思う。歌舞伎役者さんたちの地力はどこから来るのだろう。日々の稽古もさることながら、やはり毎日のように舞台立つことでの研鑽も大きいのでしょうねえ。亀三郎さん、亀寿くん兄弟はもっと役がつけば伸びる役者だよなあと改めて思ったり。曽我綉侠御所染の百合の方のような局岩波を演じた芝雀さんは意地悪なお局というニンにはない役だったけど、台詞の上手さが際立っていた。また名題下の方々がそれぞれ味わい深くて、舞台での位置取りの確かさというか人物像の捉え方の確かさというか、脇の方々がよくて芯が引き立つというのもつくづく感じたりしました。

超若手役者のほうは梅枝くん、米吉くん、種之助くん、萬太郎くん、廣太郎くん、梅丸くん、廣松くん、壱太郎くん、種太郎くんが出演です。

若手ではやはり年長の梅枝くん、特に上手さを見せてきます。このところ本興行でも大事な役をこなしていますから頭ひとつ抜けています。台詞廻し、所作ともにすっかり女形として作り上げられてきていると思いました。

また壱太郎くんの所作の美しさが目を引きました。台詞廻しはまだ声がコントロールできずに聞き辛いところがありましたし、見せ場を引っ張っていく場の空気を作りきれなかったりでしたが、身のこなしには説得力がありました。

種太郎くんはちょっと不器用さはあるけど存在感があります。独特の雰囲気をもっているのが強みだと思う。

それと廣松くんが芝居っ気という部分のセンスがかなりありそうでした。

他の皆も本当によく頑張っていて、年齢より上の役をきちんとこなしていました。暖かい目で見たということもあるけど、現在、学業優先で、また役が付かない年代の子たちがあれだけの気構えで演じていることに感動してしまいました。

それとオマケな感じですが最終幕での勘十郎さん、青楓さんのまたまた大活躍な大薩摩の時に三味線の足台を持ってきたのがなんと染五郎さん。スタスタとやけに姿勢のいい格好で出てきたと思ったら客席へ正面向いて台を置く(笑)。染五郎さんと判ったお客さんたちが大喜び。そして演奏後、やらかしてくれました。大薩摩演奏後、足台を引っ込めにきた染五郎さん、いきなり舞台中央に進み、両手をあげてたっぷりご挨拶。大受け、大笑いですよ。しかも、そのまま袖に引っ込む振りをして途中であれ?足台を忘れてたという小芝居をして引っ込んでいきました(笑)。ほんの一瞬でしたが、お茶目な染五郎さん、美味しいところを持っていってしまいました。

国立大劇場『第9回 松鸚會』 S席1階後方上手寄り

2009年08月15日 | 歌舞伎
国立大劇場『第9回 松鸚會』 S席1階後方上手寄り

松本幸四郎さんが宗家、市川染五郎さんが家元の松本流主催の松本流舞踊会『第9回 松鸚會』を観に行きました。今回、松本幸四郎さん(松本流宗家)、松本紀保さん、松たか子ちゃん、松本金太郎くん、薫子ちゃんが総出演するということ、そして単なるお浚い会ではなく興行の舞踊会を目指した会ということもあり興味を惹かれていきました。

私はこういう日本舞踊流派単体の会に行くのは初めてです。(歌舞伎座興行の『第11回、12回 梅津貴昶の会』と『第50回記念 日本舞踊協会公演』は伺っています)

さて、今回の舞踊会ですが染五郎さんが単なる「お浚い会」ではなく「興行としての舞踊会」を目指した会ということですので、プロの興行としての観点から観させていただきました。その前提での感想なのでかなり辛口です。私は染五郎さんファンですが、どうもいわゆる熱狂的ファン体質にはなれない人間でこういう部分、冷静に観てしまいます。性分なのでご容赦を。ファンの方、申し訳ありません。と最初に牽制しておきます。もっと単純に楽しめればよかったですが身構えて観てしまいました。

今回、残念ながら単なる発表会(お浚い会)の域からは抜けていなかったと思います。プロとして観せて(魅せて)これたのは、高麗屋一家のみ。お弟子さんたちは所詮アマチュア、素人芸。ベテランの方々はさすがに技術が確かで非常にレベルの高い方々もいました。でもそれだけじゃダメなんですね。人に見せる、という部分でのプロの技術を持った方は残念ながらいなかった。素人芸、旦那衆芸はどうあがいてもプロにはかなわないと言いますが、プロとアマの間には深い深い溝がありました。

プロ・アマのことを言わなくても個々実力に見合った古典舞踊ほうがお弟子さんには良かったんじゃないかと思います。個々のレベルが違いすぎて、群舞になった時の差が激しかったです。

歌舞伎舞踊ということで比べたら技術は拙くても、歌舞伎の名題下の方々ほうが見せるということに関しては断然上だというのを痛感しました。つい、まだまだと思うことが多かったりしますが、お金を取ってお客さんに芸を見せるという部分でいえばしっかりプロなんだなと。

一、河東節『邯鄲』
染五郎さん一人の素踊りです。「蜀の廬生が邯鄲の里で宿を取り、栄耀栄華の夢をみて悟りを開くという物語」だそうです。錦升(染五郎)さんが振付けをした第一作目とのこと。これはさすがにとても良かったです。

としても静かでシンプルな舞踊です。染五郎さんの芯の通った背筋がピンと通った姿が美しい。足捌きの確かさに加え手捌きが本当にしなやかで綺麗でうっとりしてしまいました。極めてシンプルで無駄のない、動きに派手さや大きさが無い振り付けの舞踊なのですが、それでも染五郎さんの踊りには空間に広がりがあります。それに情景描写がとても確かで男女の演じ分けも鮮やか。ただ題材から考えるとこの舞踊にはもう少しいわゆる「味わい」も必要かなと、そこはさすがにまだかなと。どことなく、スッキリしすぎな気もしました。ご自分で振り付けたものではありますが、この舞踊を踊るにはまだ若すぎる感じ。何かの折に踊っていく舞踊でしょうから、また何年か後に観てみたいですね。

河東節の演奏がまたとても良かったです。人間国宝の山彦節子さんの語りが90歳とは思えない声の太さ。女性の声とは思えない渋くていいお声でした。


二、舞踏劇『静謐』
染五郎さんが考えたストーリーを浄瑠璃に仕立て、それに乗って踊っていくという形。これは2007年『第12回 梅津貴昶の会』で勘三郎さんと一緒に踊った『芸阿呆』と同じ形ですね。単なる踊りというよりはもう少し芝居に近い踊り。たぶん『芸阿呆』に触発されて、こういう形のものを作りたかったんだろうと思う。そして今回、舞踏劇の形としてはとても良い作りだった。でも、この形での舞踊はよほど舞踊の実力&芝居の技術がないと見せられないとも思う。
(『芸阿呆』の感想:http://blog.goo.ne.jp/snowtree-yuki/e/dce433f2ae99d9b0b3ef66b8d34b7e37

内容は簡単にまとめると「日常の平穏な日々の生活こそが大切、そしてそのなかにこそ芸術の原点がある、それを見出していく水墨家を目指している糠床屋の息子の話」が基本筋。だと思ったんだけど、私の理解が正しいかは不明です(笑)

演出はなかなか頑張っていたと思う。舞台の奥行き生かしたシンプルな舞台。高低を作りながらの回り舞台での空間の作り方は面白かった。単調にならないように人の配置を工夫したのも良かった。客席を通路として使うやり方も1階にいた私には出演者の息遣いを感じられて良いと思った。衣装も華やかで、いわゆる舞踊会ぽくないメイクも悪くない。ただ髪型は何人かが似合わないというか…ちょっとうっとおしいという人も…潔くよくアップにしてほしかったかな。染五郎さんのドレッド長髪は似合いすぎでしたけどね(笑)

さて肝心の舞踊劇のほうですが、お弟子さんたちの踊りは振りが単なる振りでしかなくて、しかもこなすので精一杯な人も結構多かった。それゆえ人物像を描くまでまったくいってない。なので染五郎さんが一人頑張っても、周囲がそこに追いついていないので場面場面の情景がしっかり伝わってこない。場が締まらない。浄瑠璃や、物語、曲はなかなか面白いものだったのに表現しきれてなかったです。

そのなかでほんの少ししか出なかった、幸四郎さん、松たか子ちゃんの存在感が素晴らしかった。そこに出るだけで空気が変わる、場が締まる。たか子ちゃんの華、そして幸四郎さんの存在感と説得力。青年が何かを得るために必要だった幻、そのほんの一瞬の出来事がとてつもなく大きな一瞬だったと、それを納得させてしまう。幸四郎さんの引っ込みを近くで見ることができましたが幽玄で人に在らずなオーラを纏っていました。

お弟子さんたちの踊りのとこは、申し訳ないけどたるい部分が多かったです。お家元としてはお弟子さんそれぞれに見せ場を作りたかったのはわかるけど…。「お目まだるい」ってこういうことだな、と…。勿論、きちんと踊っていらっしゃる、でも表現できていない。歌舞伎役者さん達だけでやってみたら、どうだったろう?見ごたえあるものに出来たんじゃないか?とつい思ってしまいながら拝見しておりました。

また、高麗屋勢ぞろいという注目度は高かったけどその肝心の高麗屋の方々の出番は染五郎さん以外はほんの少し。特に幸四郎さん、たか子ちゃんはあまりに出番が少なく踊りらしい踊りもせずもったいない感じでした。紀保さんもナレーターだけだし、金太郎くん、薫子ちゃんは出てくるだけ。薫子ちゃんの語り(録音でしたが)は可愛らしかったですが。私個人で言えば、せめて紀保さん、たか子ちゃんの踊りをしっかり観たかったです。それでもラスト、高麗屋勢ぞろいで並んだ時は貴重なものを観たという気にはなりましたが。これぞプロ、という押し出し。プロよと素人では何が違うのだろう?と本当に考え込んでしまいました。

今回の公演はいわゆる華やかなワクワクするような、そういう意味で派手さのある舞踊の部分がほとんどなかったので、華やかな舞踊を一つ間に挟むなど舞踊会の構成ももう少し考えたほうがよかったんではないかと思いました。

国立小劇場『あぜくら会特別企画『沙翁文楽×乱歩歌舞伎 新作の競演』』

2009年08月10日 | 講演会レポ
国立小劇場『あぜくら会特別企画『沙翁文楽×乱歩歌舞伎 新作の競演』』

国立小劇場で行われたあぜくら会特別企画『沙翁文楽×乱歩歌舞伎 新作の競演』に行ってきました。
http://www.ntj.jac.go.jp/member/event/eve090626.html

2008年11月の歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪』(国立劇場)と先月の文楽『天変斯止嵐后晴』(国立文楽劇場)のダイジェスト版記録映像の上映と、鶴澤清治さんと市川染五郎さんのトークショーの二部構成。沙翁文楽と乱歩歌舞伎の宣伝兼ねた企画という感じでしたが司会の水谷アナが古典芸能にとても詳しい方だったので、わりと有意義なトークになっていたと思います。文楽と歌舞伎なので鶴澤清治さんと染五郎さんが絡むことがあまりなく交互に話を聞くという感じにはなってしまいましたが、そこは仕方ないですね。

【第一部】
歌舞伎『江戸宵闇妖鉤爪―明智小五郎と人間豹―」』(国立劇場20年11月公演)と文楽『天変斯止嵐后晴』(国立文楽劇場平成21年夏休み特別公演)のダイジェスト映像を上演。

乱歩歌舞伎のほうは人間豹と明智の対決中心のダイジェスト。物語の流れはわかるようにはなっていましたが観たことある人間にとっては非常に不満のあるダイジェストでした…。個人的に好きなとこがいっぱいカットされてて悲しかった。

文楽『天変斯止嵐后晴』は序幕の嵐の部分の三味線と琴の演奏をたっぷりとって、あとは春太郎と美登里の出会いあたりを。こちらは、東京公演がこれからなのでいかにもプロローグ的なダイジェストになっていました。

【第二部】
鶴澤清治さんと市川染五郎さんのトークショー。鶴澤清治さんも染五郎さんもスーツ姿で水谷アナに突っ込まれていました。「鶴澤清治さんは財界人みたい、染五郎さんは青年実業家、って感じにみえます。」だそうです(笑)

清治さんと染五郎さんは今回初めて一緒に仕事をしたそうです。。染五郎さんは清治さんとのことは何度か拝見させていただいている、とのこと(勉強のために文楽を観ているのでしょう)。

清治さん:

○実は最初『天変斯止嵐后晴』は1991年の英国ジャパンフェスティバルで上演するために2週間で作ったのだけど、色んな理由で持っていけなかった。英国ジャパンフェスティバルには染五郎さんがハムレットを歌舞伎化した『葉武列人倭錦絵』を持っていってたので実現していれば、染五郎さんとは向こうで一緒になっていたはずなんですよね、と。

○『天変斯止嵐后晴』の大阪公演の最初は入りが悪かったけど後半良くなっていった。出番が終わると急いで客席にまわって客の反応を見ながら少しづつ手直しをしていった。新作なので拍手のしどころがわからないせいか静かに観ていたけど幕が下がって沢山の拍手が湧いて良かったと思った。東京公演は大阪の反省を活かして手直して上演する。人形や衣装もいくつか新しくします。

○嵐の演奏はオドロオドロした雰囲気を出すために低音が出る十七弦の琴を使用した。他に高音のでる半弦の琴を使いファンタジックな雰囲気を出した場面もある。

○シェイクスピアは台詞劇。文楽は情景描写が地の文にあり、そこで人形を動かすので台詞だけにしてしまうと人形は動けない。動けるように脚本を考え、また台詞の部分も動けるようにゆったりとした曲を考える。

○西洋の演劇は理を求めるが文楽は情で物語が動く。その情の部分で突拍子もない部分を納得するのが日本人。向こうの人はなぜ?と突っ込んできますから…。(最近の日本人もそうですね(笑))

○昔も西洋の芝居を文楽にしたことはある。小さい頃、いくつか見て子供心に違和感があった。文楽人形に西洋の衣装を着せてやっていたので形が格好悪いんです。そのなかでは蝶々夫人が一番まあまあ見られた、日本人が出てて来るからね(笑)。

○歌舞伎に携わったことはないがスーパー歌舞伎の作曲はしたことがある。

○『フォルスタッフ』は文楽にしてみたい。文楽には喜劇がほとんどないから。私が観た『フォルスタッフ』を演じたイギリスの役者さんが先代の松緑さんそっくりでね、羽目物にすればいいのではないかと思い付いたんです。近松ももっと面白いのがあるので、そこら辺もやっていきたいんです。

染五郎さん:

○乱歩歌舞伎の発案者は私です。20年近くずっと乱歩を歌舞伎にしたいと思っていたので今回、実現できたのは嬉しかったし感慨深かった。

○歌舞伎の新作は普通は沢山ある歌舞伎の引き出しをどう使おうかという部分で作っていく。しかし乱歩歌舞伎は歌舞伎の引き出しをなるべく使わないように作った。その部分で新しい感覚の歌舞伎が出たのだと思う。またそれをやってみたところ歌舞伎の演出の懐の深さを改めて知った部分がありました。

○和太鼓の演奏は新しく作っていただいたものと既存のものと両方を使いました。これはテンポを出したいという父のアイディア。他に新内節(これは染五郎さんのアイディアですね)など、歌舞伎にあまり使わない音を使いましたね。ただ、それだけだと観客が気を抜けないので従来の下座音楽を挟み込みこむようにしました。

○脚本ができても、言葉で表現するのと実際に人が動いてみるのとでは、その通りになるとは限らない。着替えたり、セットを動かす時間もあるので、その時間を取るための場面を設けることもあります。それが不自然にならないように、また必然性があるように工夫もしなければいけない。

○歌舞伎の台本では「ここはよろしく立ち回って」と一行にも満たない言葉で書かれているんですが、ここが大変で…。どうやってそれを視覚化するか考えないといけないんです。

○原作でも歌舞伎もそうでしたが人間豹がどうなったかわかない終わり方。人間豹の最後は、言い出しっぺで演じている自分が見届けなければならないと思いましたので、乱歩歌舞伎第二弾というお話があった時に続編をと提案しました。

○恩田と神谷の二役を演じるというのは自分のアイデアではないです。芝居を作っていくうちに自分でも「なるほど」と思いましたね。

○色々やりたいことはあります。チャップリンの映画『街の灯』を昔『蝙蝠安』というタイトルで歌舞伎化したのですが、上手い具合に翻案しているんですよ。当時、こういう映画が日本に来るらしいという噂だけで歌舞伎化しちゃったらしいんです。今なら著作権問題で犯罪ですよね。当時はそこら辺ゆるい時代でしたから、やれたんだと思います。また色んなことをやろうという風潮があった時代なんですね。それを手直ししてやりたいです。歌舞伎は極彩美が特徴でもあると思うんですが、白黒映画のようなセピア色の歌舞伎というのもあっても良いと思って、どうにかできないか考えています。
 
○今年の乱歩歌舞伎は京が舞台で恩田が最後死にます。教えられるのはそれだけ。あとはお楽しみ(笑)。実は先ほども楽屋で脚本の打ち合わせをしていました。


今、きちんと思いだせるのはこのくらい。もっと色々お話はありました。企画は6時~8時の2時間でした。

歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第一部』 3B席上手寄り

2009年08月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第一部』 3B席上手寄り

納涼初日を一部、二部を通して拝見。初日からまとまった良い芝居を観せていただきました。

『天保遊侠録』
全然期待してなかった、というのもあるけど楽しく拝見できました。真山青果の理を滔々とな台詞は堅苦しい部分もあれど天保時代の世知辛い仕官方法や親子の情愛を描いてなかなか面白い芝居でした。だいぶ前に放映された幸四郎・染五郎親子でのTVドラマ『親子鷹』(原作:子母澤寛『勝海舟』)を最近観る機会があり勝小吉、麟太郎の親子のあり方が好きになっていたので、その思い入れ込みもあるかもしれないけど。真山青果もなかなかいい部分を芝居にしてきたと思う。

小吉@橋之助さんが、二枚目すぎる部分はあれどなかなか上手く小吉の不器用さや子供想いの部分をみせて良かったです。やんちゃな部分も納得できるし、台詞もいつもなら一本調子になりそうなところを、そのときの感情での緩急をきちんとつけてたし、上手くなってきたなと思う。でも、芝居は違えども幸四郎さん小吉がちょっと絶品だったのでそれに比べてしまってもっと無頼な感じと色気が欲しいなあと思ったりはしましたが。まあ、『親子鷹』の幸四郎さんは小吉は良すぎだったんですが…。

あと凄く良かったのが阿茶の局@萬次郎さん。芝居を締めました。局としての格や、真山青果の道理の台詞のひとつひとつに説得力をもたせた。なんか、ほんと良かったです。こういう役も合うんだ~と個人的に萬次郎さん大ヒットかも。

松坂庄之助@勘太郎くん、役には合ってて無骨で世間知らずな若者を一本線に骨太にガ~ッとした芝居で見せていく。個人的にはもう少し緩急がほしいかな。緩の部分がまだあまり出ないんですよね。時々うるさすぎるところが…。

八重次@扇雀さん、最初若干やりすぎな部分はあれど、だんだん落ち着いてきて良い感じに。ラストの場の佇まいがとてもよかったです。

勝麟太郎@宗生くんは頑張ってました。まだそこまで、ですが。お母さん似かな?可愛いですね。


『六歌仙容彩』
この舞踊を通しで掛けることってほとんど無いですよね。かなり長い舞踊です。

三津五郎さんの踊り分けを楽しむ、というところでしょうか。しかし初日で観る限りは上手いんだけど、この舞踊だと少々地味な感じが…。体の使い方はほんと見事だなあと思う。腰の据わり方、手捌きの確かさ、手、足の先まで神経が行き届いてる、とか非常によくわかるんだけど、そこにもう一つ何か欲しいような。

五役のなかでは「喜撰」が一番良かったかな。品がありつつに柔らか味、洒脱な感じがしっかりあって踊り上手な部分がよく映えた。あと「遍照」が老僧が色に迷うという風情が上手かった。似合うと思っていて意外とあれ?だったのが「文屋」。色好みが女官たちに翻弄されるという滑稽味が足りない。「業平」は個人的に梅玉さんがデフォなので…。何か二枚目がという部分で梅玉さんのほうが説得力があるというか…すいません、三津五郎さんファンの方。

この舞踊で光ったのがお梶@勘三郎さん。良い、凄く良い。出た瞬間から顔を出してないのに空気が明るくなりました。ふんわり艶やかなお梶さん。丁寧に綺麗に踊っていくんだけど、とても柔らかでくだけた部分も品が落ちずに可愛らしくまとまっていく。勘三郎さんの舞踊の腕の確かさがよく見えた一幕。

歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第二部』 3B席中央

2009年08月08日 | 歌舞伎
歌舞伎座『さよなら公演 納涼大歌舞伎 第二部』 3B席中央

『真景累ヶ淵』「豊志賀の死」
豊志賀が病に倒れ、新吉が看病しているところから始まり、豊志賀の死当日のまでのお芝居。ここだけだと、これで終わり?という感じになってしまいますねえ。しかし、哀れな話なのに、笑い多発。そこで笑う?な場面で大笑いしてる観客が多数。なぜにして?クスクスなら判るけど大笑いは違うような…。

豊志賀@福助さん、ちょっとベタつきすぎというか、やりすぎ感が…。イヤな女になりすぎでは?もっと年上の女としての焦りとか哀れさの部分が欲しいなあ。ついつい嫉妬心が出てしまう、ではなく、最初から嫌味な女になってるよ~。そこら辺押さえて欲しい。富本節の師匠としての気風のよさとかどこかに滲ませてほしいなあ。福助さんのベタつきがちな台詞がどうも笑いを誘っている部分がなきにしもあらず…。

新吉@勘太郎くんが勘三郎さんにソックリでした。それは似すぎだろう、ってくらい似てました。完全に勘三郎さん写しな感じの新吉でした。よほどきっちりと稽古をつけてもらったんじゃないかと。看病に疲れ、豊志賀の嫉妬に愛想がつきはじめた男をよく見せていました。初日にしては随分いい出来かと思います。でもやっぱり芝居の線が一本線すぎる気も。真っ直ぐな青年が追い詰められて気持ちが揺らいでるという部分で、新吉の弱さにもっと同情させる哀れさとかそういう細かい襞をみせてくるともっと説得力がでるかと思います。

お久@梅枝くん、きっちりと演じてきた。可愛らしいなかに少し陰を背負った雰囲気をきちんと出していました。台詞もいいし、この年代では頭一つ抜けてきた感じ。上手いですねえ。

噺家のさん蝶@勘三郎さん、いかにも噺家らしいしゃべくりが本当に上手い。観客の視線を一気に持っていく。さすがです。

勘蔵@彌十郎さん、いい味。


『船弁慶』
辛口です、勘三郎さんファンの方、すいません。でもこの踊り、個人的に色々思い入れがある演目なので正直に。

お梶、噺家のさん蝶とかなり良い感じの勘三郎さんなので期待大。ワクワクしながら観たのだけど期待が大きすぎたかも…。勘三郎さん、肩に力入りすぎかなあ。それとも疲れが急に出ちゃった?静御前は丁寧にふんわりと踊って初日にしてはこれはなかなか良いわ、という感じだったのだけど知盛で一気に失速。知盛はさぞかし良いだろうと思っていたのであれれ?でした。

まずは静御前、能がかりの拵えが似合っててふっくらと可愛らしい静御前です。ここは誰が踊っても難しい場でさすがの勘三郎さんも最初のうちは硬さが見える。しかし足捌きは綺麗で柔らか。踊っていくうちに硬さが取れ、丸みを帯びた華やかさを帯びていきます。勘三郎さんの静御前はとても娘ぽいですね。あくまでも可愛らしい若い娘として情景を活写していく感じ。あえて注文をつけるなら白拍子としての艶と義経と別れるという愁いがもっと欲しいけど、17年ぶりに踊ったということでこなれてくるとその辺も表現してくるかなと思う。

初日の衣装は六代目菊五郎のものか玉三郎さんからのプレゼントのものかどちらだろう?と思ってじっくり双眼鏡で観てみましたが、衣装の雰囲気からなんとなく六代目菊五郎のものだろうと推測。知り合いも同意見だったので当たっているかと。

後半の知盛、私は花道の出は残念ながら拝見できません。しかしちょうど視界が良い席だったので七三あたりからきちんと観られました。知盛の拵えも似合っていて、こちらは凄みのあるお顔。勘三郎さんは化粧が上手だと思う。で、期待したんですが踊りが小さい…。なんというか「知盛の気」を自分に引き寄せてこれてないというか…。体全体から恨みとか凄みとか哀しみとか、そういうものが表現されてないんです。キレがあまりないし、突っ込みも足りないし、ここ、という部分で決めてこれず踊りが流れていってしまう感じ。なので知盛が非常に小さくみえてしまう。

富十郎さんの『船弁慶』がどんだけ凄かったのか、と思い知りました。特に知盛の異様さとか威圧感とか、そして踊りの一手一手のキレの良さとか美しさとか、そういうもので凄まじいパワーを形作っていた。あの小柄な富十郎さんですがぐわ~っと迫ってくるような大きい知盛でした。その大きさが勘三郎さんには無かった。富十郎さんが別格に凄いということであっても、そろそろ勘三郎さん的には富十郎さんの域のほうに近づいていかなければならないと思うし、出来ると思うんですが。う~ん、ちょっと残念。

引っ込みはどうだったのかな?と思いましたが知り合い曰く、どうやらここももう一つだったようです。勘三郎さん自身思い入れのある大好きな舞踊のはずなのでこのままで終らせないとは思いますが…。

義経@福助さんが非常に良かったです。一部、二部通したなかでは一番の出来。公達風情が似合いますよねえ。品格もあり、愁いを帯びた表情のなかに芯の強さも感じられる。今まで思ったことなかったけど芝翫さんに似てる~って思いました。芝翫さんの公達での品格のありようは素晴らしいものがあるのだけど、そこに近づいたかも?と思いました。

弁慶@橋之助さん、最初は線が細い?と思いましたが台詞廻しもよく押し出しもあって良かったです。きちんと勤めている部分でなかなか良い弁慶でした。

舟長三保太夫@三津五郎さんがさすがに上手く、また舟子も高麗蔵さん、亀蔵さんと揃っていてバランスのいい船唄となりました。

四天王が若手四人。松也くん、巳之助くん、新悟くん、隼人くん、皆一生懸命にきちんと勤めていて、いい勉強させてもらえているなと。立ち振る舞い、台詞回しなどの上手さでは見事にこの順番通り(笑)。年齢とか経験値とか色々あるのでしょう。巳之助くんの姿勢が以前に比べだいぶ良くなっていました。隼人くんはこの拵えだとお父さんソックリですね。若い時の信二郎さんにしか見せません…(笑)