Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

東京芸術劇場 プレイハウス『NODA・MAP第17回公演『エッグ』』 S席センター下手

2012年09月29日 | 演劇
東京芸術劇場 プレイハウス『NODA・MAP第17回公演『エッグ』』 S席センター下手

野田さんの時節とのリンクぶりには毎回驚く…。

面白かったです。相変わらずの野田さん節ではあるけど野田さんぽくない雰囲気もあった。なんというかいつもの複雑構成の物語なんだけどいつもよりストレート。大枠の二重構造のなかで外枠に寺山修司へのオマージュ、そして劇場への愛や演劇の力への信頼という切なる想いがあった。

野田さん独特の言葉遊びが少なくて言葉をそのまま伝えてくる。いつもより言葉からのイメージ喚起や言葉そのものを粒だててないというか。とてもわかりやすい。わかりやすく伝えてきたという感じだった。テーマを表現するというよりは「現実にあったこと(歴史)」を提示するほうを選んだ感じ。野田さんのいつもの言葉への酩酊感や特有の印象的な言葉はなくてそこは少し物足りなかったかな。役者たちは適材適所でバランスが良かったです。

粒来幸吉@仲村トオルさんが映像で見るよりカッコイイので驚いた。肉体が美しく、また背筋のラインも美しかった。野田演出コードにはまだ馴染んでいない感もあったけどそれが粒来幸吉というキャラには合っていたかも。

安倍比羅@夫妻夫木くんはすっかり野田コードに馴染んでいた。相変わらず爽やかで可愛い。安倍比羅の単純さ愚直さにハマっていました。

苺イチエ@深津絵里さんの透明感にも驚いた。あとやっぱり声が素敵。特に歌声がかなり魅力的。椎名林檎の曲にハマってる。野田さんヒロインて皆、声がいい人ばかりですね。

平川@大倉孝二さんがいるだけで可笑しく哀しい。

劇場案内係/芸術監督@野田秀樹さん、今のとこ声が潰れてなかったな。本人と愛人の二役なんだけど相変わらず美味しいとこを持っていく。今回は自然体、それがとても印象的。

安倍比羅夫@妻夫木くんと粒来幸吉@仲村トオルさん。名前を音だけ聞いてるとマラソンランナーのアベベと円谷。この二人の立場が大きなポイントになるんだけど安倍@妻夫木くんは福島の田舎の出身という設定。福島出身は円谷のほうだ。仕掛けのひとつなんだろうね。また東北というキーワードは震災後の今の東北の状況をも重ねているのだろうな。

NODA・MAP第17回公演『エッグ』

2012年9月5日(水)~10月28日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
http://www.nodamap.com/

作/演出:野田秀樹
音楽:椎名林檎
美術:堀尾幸男
照明:小川幾雄 
衣裳:ひびのこづえ
音響/効果:高都幸男
振付::黒田育世
映像:奥秀太郎
美粧:柘植伊佐夫

出演者:
安倍比羅夫:妻夫木聡
苺イチエ:深津絵里
粒来幸吉:仲村トオル
オーナー:秋山菜津子
平川:大倉孝二
お床山:藤井隆
劇場案内係/芸術監督:野田秀樹
消田監督:橋爪功
○田フミヨ:深井順子
女学生・×田:上地春奈
女学生・△田:大西智子
女学生・□田:秋草瑠衣子

新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』1等A席1階前方花道寄り

2012年09月22日 | 歌舞伎
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』1等A席1階前方花道寄り

『秀山祭九月大歌舞伎 昼の部』2回目の観劇です。

『菅原伝授手習鑑「寺子屋」』
昼の部はなんと言っても『寺子屋』の充実ぶりが見事でした。まさしく大歌舞伎でした。

松王丸@吉右衛門さんが圧巻でした。やはり昨年の松王丸より今月のほうが芯に気が入っていて松王丸としての実感があるように思う。昨年は物語に奉仕している感が強くどこか第三者的目線での語り部的な部分があったような印象だったんです。しかし今月の吉右衛門さんの松王丸は物語に奉仕しながらも「そこにいる存在」としての血肉が見事にあったと思います。行動原理、そのなかでの感情にとても説得力がありました。松王丸の小太郎への想い、父や桜丸への想い、そして自身の立場の辛さ、そんなものすべて内包しハラに収めそして表出させる。

源蔵@梅玉さん、菅丞相への恩義を第一にしその想いゆえ菅秀才に菅丞相をだぶらせ大事に守っている、そんな源蔵です。この源蔵は「せまじきものは宮使え」と言いつつもそこに苦しみは感じていない。もし菅秀才を守れなかったらという罪の深さのほうに向いている。時代もののその立場ゆえの行動が透けてみえる梅玉さんらしい造詣の源蔵でした。

戸浪@芝雀さん、梅玉さんの源蔵の行動原理にぴったりと寄り添った戸浪です。源蔵と一蓮托生、そこが強い。そしてそのなかに女としての情を抱えている。芯がとても強い戸浪。芝雀さんには珍しい線の太い女性像を描き出していたように思えました。

千代@福助さん、母としての情味が溢れんばかりの千代でした。小太郎を気遣う様子、どこか覚悟しきれてない悲しさ、そういうものが浮き出てとてもても良かった。ただ好みからすると後半の部分は泣きすぎかな。情味の深さを十分に表現しているので泣きはもう少し抑えたほうが嘆きの深さが出るような気がします。

玄蕃@又五郎さん、こういうお役に必要な押し出しの強さがあってとても良かったです。単に憎たらしいキャラではなく仕事の範疇のなかで動いている役人風情があるのが面白かったです。

涎くり@種之助くん、初日に拝見した時よりノビノビとしておりやんちゃさが増して可愛らしかったです。

『河内山』
『寺子屋』に集中しすぎて『河内山』はまったりと観てしまった。

河内山@吉右衛門さん、愛嬌があって上品。憎めない河内山を造詣。爽快感のほうを大事にしている感があって喰えない小悪党の部分は薄めかな。

北村大膳@吉之助さん、先月に続きのお役、2ケ月の間にしっかりと成長させて本当に大健闘。

高木@又五郎さん、質実剛健タイプの又五郎さんらしい高木でした。又五郎さん今月二役ともとってもいいなあと思う。

国立小劇場『九月文楽公演 第一部』 1等真ん中下手寄り

2012年09月15日 | 文楽
国立小劇場『九月文楽公演 第一部』 1等真ん中下手寄り

第一部公演は歌舞伎でもよく上演される演目で比べながら拝見。

『粂仙人吉野花王』
この演目は珍しく歌舞伎『鳴神』のほうが先にあって文楽に取り入れたんだそうな。女性の人形に珍しく足が付いていました。時代設定と名前が違うだけで内容はほとんど歌舞伎と同じ。芝居構成がまんま歌舞伎と同じ。ただ文楽のほうが粂仙人(歌舞伎:鳴神上人)と花ます(歌舞伎:雲の絶間姫)のかけひきがちょっと少なくて仙人がすぐ破戒してしまう(笑)。この演目に関しては役者の腕云々はその時々であるけれど全体の見せ方やかけひきの面白さで歌舞伎のほうに軍配があがるかな。とはいえ文楽には文楽のよさはありエロチックな場面でも品が保たれ華やかな舞台を気持ちよく楽しめる。

太夫では千歳大夫が花ますの仕方話をほんのり色気を含ませつつくっきりと聴かせてきて、言葉をハッキリ聴かせるだけじゃない情感が出てきたなあと思いました。

人形では、清十郎さんの花ますがかけひきの部分で自信をもってというより一生懸命にな雰囲気があって可愛らしかったです。玉也さんの粂仙人は生真面目でお硬い感じがありころっと破戒してしまう様子に可笑し味を与えていました。

『夏祭浪花鑑』
歌舞伎でもよく上演されますがこの演目に関しては歌舞伎独特の入れごとがほとんどないことを知りました。戯曲自体がかなりよく出来た構成なので演出変えたり入れごとが入る隙があまり無いのかもしれない。

歌舞伎では省略されてしまう「道具屋内の段」がつきます。この段を見ると磯之丞の女癖のひどさが…。ほんとにひどい男だ。こんな男のためになぜ身を張らなきゃいけないの?って感じでした…。磯之丞は若い女性のとこに預けちゃダメだ、っていうのはよーくわかりました。道具屋の段がなくてもダメ男だと思っていたけどほんとにひどいダメ男…。磯之丞を守る理由が知りたいです。「住吉鳥居前の段」より前の段を復活してもらいたいです。「道具屋内の段」は場面として外しやすい場面だなとは思いましたが義平次の性根の悪さとか磯之丞のだらしなさはよくわかりますので物語としての説得力は増しますね。

太夫では文字久大夫が住大夫休演で2場面を語ることになりましたがかなり頑張ってらして場の情景がしっかり伝わってくる語りで聴き応えがありました。「長町裏」での団七の源大夫さんは調子があまり良くないのか声量があまりなく祭の音に声が時々消されてしまい気の毒。他の段で語っていただくという選択はなかったのでしょうか。

人形では蓑助さんのお辰が格の違いを見せます。蓑助さんが女の人形を遣うのは久しぶりに拝見しましたがやはりこの方は女のほうが本領ですね。人形に血肉を与えるのが本当に上手い。お辰の凛とした色気とそのなかの鉄火な性根を細かい仕草で見事に伝えてきます。玉女さんの団七が大きくダイナミック。このところ人形の全体の形が良くなってきて勢いが出てきたかなと思います。勘十郎さんの義平次はこせこせした細かい仕草が上手く義平次の性根のいやらしさをあますことなく表現。

新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼/夜の部』3等A席センター/2等B席左袖席

2012年09月01日 | 歌舞伎
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 昼/夜の部』3等A席センター/2等B席左袖席

初日を拝見致しました。今年の秀山祭の舞台は昨年までとは少しばかり趣きが違う雰囲気。富十郎さん、芝翫さんというあの世代の上置きがいらっしゃらないというのも大きいのかな。芸の継承を目的とした秀山祭ですが今年ほどそれを感じたことはないです。今月は世代交代や芸の継承が前面に出ていたと思います。それだけに染五郎さんが怪我で休演になったのはとても残念。ご本人も周囲の方々も非常にお辛い気持ちでいるのではないかと思います。染五郎さんの一日も早い回復をお祈り致します。そして皆のためにしっかりと治して舞台に戻っていらしてください。

『菅原伝授手習鑑「寺子屋」』
主なお二人が急な代役の『寺子屋』でしたがとても安定した芝居になっておりました。代役の吉右衛門さんも梅玉さんもお二人が手の内に入ったお役であったことと急な代役ゆえの緊張感とそれゆえの熱が良い方向にほどよく出たせいだと思います。また今回、みどり上演の時にはカットする事が多い「寺入り」を付けたのも芝居の内容が際立ち非常に良かった。千代と小太郎の母子の愛情をみせるので後半の悲劇が際立ちより哀しく切ない。「寺入り」の場はあったほうが絶対いいと思いました。

松王丸@吉右衛門さん、義太夫の流れに乗りとても丁寧に丁寧に演じ松王丸の行動原理を骨格太く描き出していきます。芯の部分に熱さがあり、前半で大きくハラを割らないもののどこか秘めているものを感じさせ、後半の感情の爆発が際立っていました。昨年も同じ松王丸を演じていますが今回のほうが松王丸の胸迫る切ない想いが真っ直ぐにに伝わってきてとても良かったです。台詞のひとつひとつに実感があった。

源蔵@梅玉さん、丁寧にごくごくシンプルに演じながらも源蔵の持つ主君大事の一途さとそこにある熱さをさりげなく垣間見せる。雰囲気が柔らかく優しげな風情なので源蔵の非情な行動がどこからきているのかが垣間見える。梅玉さんは源蔵は得意役とのイメージを持っていますが『寺子屋』の源蔵を拝見したのは久しぶりのような気がします。

千代@福助さん、「母」の哀しさを押さえた芝居で演じててとても良かったです。終始、気持ちの優しい母の顔をしておりました。そのなかでの気丈さが哀れで切ない。胸打たれました。

戸浪@芝雀さん、昨年に演じたばかりの戸浪。役が身体にはいってきたなと感じました。なんというか人物を演じる時の在り様が自然になってきたというか。夫源蔵との一蓮托生な愛情と強さのバランスがよく戸浪という女性の造詣に説得力がありました。吉右衛門さんや梅玉さんの間に入っても存在感が出てきたと思う

玄蕃@又五郎さんの玄蕃、いつもより突っ込んだ芝居でしたでしょうか。存在感があってとてもよかったです。襲名効果でしょうか、芝居の輪郭に太さが出てきたように思います。

涎くり@種之助くん、「寺入」りをつけると涎くりの見せ場が多くなる。まだやんちゃさが足りないけど楽しげにしっかり演じていました。

三助@錦吾さん、ことさらに芝居をするわけではなく、かといって存在が薄くなるわけではなく、それこそ良い塩梅。ほどのよい抜け感が気持ちのよい空気を作っておりました。さすがベテランというところでしう。

園生の前@孝太郎さん、ちょっとした出ですが柔らかさのなかに格がしっかりあって良かったです。


『河内山』
観ているうちに配役をしっかり把握してなかったことに気がついたんですがここでも若手抜擢が多数。先月の大阪松竹座の超花形『河内山』での配役が数人そのままシフトしてたりする。今月はベテランに若手をしっかり絡ませることで育てるという座組みだったのだなあとしみじみ。

河内山@吉右衛門さん、台詞回しが自在。存在感の大きさと凄みのなかにほてっとした愛嬌のある河内山。後半、台詞をはしょっちゃったかも…ってところはあったけど周囲も対応してて芝居は停滞せず自然。

松江候@梅玉さんの松江候は鉄板ですね。しょうもない殿様だけど殿様だからねな存在としているところが梅玉さんの上手いところです。品のよさ格の高さ、その範疇のなかで我侭で癇癪な松江候を描き出す。

『時今也桔梗旗揚』
個人的に面白い演目と思ったことがない…けど、まあ我慢我慢で最後爆発するカタルシスでみせる演目なのでしょう。

光秀@吉右衛門さん、でっかい!こういう怒りを溜め込むお役は吉右衛門さんが一番底知れない怖さをみせる気がする。

春永@歌六さん、急な代役で初日、台詞が多いのでさすがに時々プロンプがつくものの芝居自体はかっちりと破綻がない。上手い役者さんです。とはいえ気が短くて癇癪で激情型の春永にはちょっと見えないかなあ。歌六さんだと雰囲気も台詞回しも今のとこマジメすぎる感じ。造詣はこれから、というところでしょうか。

桔梗@芝雀さん、前回2009年にこの役を演じた時より突っ込んだ芝居をしていたように思います。前回は光秀の妹としての存在だけだったようにみえましたが、今回は屋敷に使えている身としての桔梗の存在があって人物像に幅がでたような。

『京鹿子娘道成寺』
この踊りに関しては押し戻しがつくのはあまり好きではないのですが今回は前の演目が暗めなのもあって派手に打ち出しする押し戻しをつけて正解かも。トウづくしも楽しいし福助さんと松緑さんのバランスもよかったし。

白拍子花子@福助さん、初心に戻ってということでしたが言葉通りに丁寧に丁寧に。最近は歌右衛門さんに近づこうとするあまり作りすぎな踊りになっていた気がしてましたが今回はそれはなし。ゆったりを大きく踊ってひとつひとつの形が綺麗です。芝翫さんのイメージもmixさせて踊られていたように見受けられました。

大館左馬五郎@松緑さん、明るく勢いよく、芝居を盛り立てておりました。