Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 第一部『碇知盛』』1等1階前方センター

2016年06月26日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 第一部『碇知盛』』1等1階前方センター
『渡海屋・大物浦』

2週間ぶりに拝見して今月の渡海屋、大物浦の場は「物語る」部分が前に出てるなあと感じた。語り口が真面目。観ていてストレートに物語が伝わってきたなと思いました。

今回、染五郎さん知盛と猿之助さん典侍の局はあくまでも平家の再興を願う一心での同志的結びつきだと感じました。互いへの甘えが一切ない、そういう間柄にみえた。敗北を噛みしめ、噛みしめ、一矢を報いんために生きてきた感。

銀平/知盛@染五郎さん、銀平はやはり貫目は足りないけど、どこか鷹揚さが出て’らしさ’が出てきたと思った。もっとたっぷりやれるといんだけどちょっと肩に力がまだ入ってかな。でも自然な格が出るのは強みだと思う。また台詞のよさで誰に何を聞かせようとしているのかをさりげなく提示する。露骨じゃない分、颯爽としたかっこよさが前に出る、その塩梅がいい。白装束の知盛になってからは完全に武士。死に装束ではなく勝つためのいでたち。決意の強さのなかに若干’能天気’に勝つ気満々さが垣間見える。若いからそうみえるのかな?

手負いになってからの染五郎さんの知盛。ここで輪郭がぐっと太くなる。悔しさと底に溜めこんだ恨み、このままでは逝けぬという意地。手負いの獣のように噛みつき噛みつき進む。諦めはそこにない。やはり染五郎さんの知盛は天命であるとも生身の身体朽ちるとも魂死なず。悲壮だけど悲哀ではない。心情や情景を語るのはやっぱり巧い。伝えるということは十分に出来ていた。口惜しさ、無念さのみならず平家の滅亡に至る道筋を語る時の自責の念、ただ真っ直ぐに語るだけではなく、描写に緩急がある。その語り口が私は好きだ。

染五郎さん知盛は前回ビリビリするような咆哮のような叫びがあったのだけど今日は喉が少しやられていた感じで前へ押し出せず、そこが残念だった。造形はいいと思うんだけど、そこをまだ体現しきれてないのが課題。今月の染五郎さんは珍しく細かい部分で、後半でもアラが目立つ場面がいくつか。今月の阿弖流為宣伝含む仕事のしっぷりは正直、賛成できない。役に集中する環境をつくるのも必要だ。

お柳/典侍の局@猿之助さん、お柳は女主人としての目配りのできる凛とした佇まいやそのなかにある柔らか味、情味、色気がいい。ここはほんと京屋を彷彿させる。亭主自慢はもっと柔らかい口調のほうが好みなのともう少しメリハリが欲しかった。でも初役でここまで演じられるのは大したもの。典侍の局は所作がとても丁寧で長袴の捌き方の美しいこと。安徳帝への思い入れの深さもいい。ただここは京屋の雰囲気があまりないなあと。猿之助さんらしい造形ではあるのだけど。できれば京屋のあくまでも位取りを大切にした凛質のなかにある芯のある優しさ情味がある台詞廻しをもう少しなぞってほしかった。もうこれは好みの問題ですが先代雀右衛門丈が好きな私としてはつい求めてしまいます。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 第三部『狐忠信』』1等1階前方センター

2016年06月25日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 第三部『狐忠信』』1等1階前方センター

『道行初音旅』
吉野山、とにかく華やかで派手、という印象。踊りとしてはとても丁寧に踊りこんでいる。絵面が華やかなんだな。染五郎さん静御前と猿之助さん忠信のキマリキマリの形がほんとうに綺麗で絵のようだった。猿弥さん含めて踊り上手が揃った舞台で楽しかったです。

静御前@染五郎さん、噂通りの品のある美女ぶり。凛としているので静御前というより巴御前な雰囲気だったかな。加役だからこその独特の華やかさ。背を盗むためにかなり膝を折っていましたね。女形の舞踊を丁寧に舞う。ふわっと宙に目線を投げる時が艶かしい。花道の引っ込みのゆるゆると歩む姿が少し福助さんを思い出させたりした。

狐忠信@猿之助さん、最初から狐オーラを強くだす。戦語りの場の踊りが以前よりキッパリして男前な忠信になってました。やはり丁寧な踊りぶりで情景がくっきり。また最後の引っ込みは勢いが。あんなに派手な引っ込みだったっけ?と思ったくらい。当代での『道行初音旅』は今までも観てるんですけど、今回きわめて印象に残りました。段之さんの後見が素晴らしくて、ついつい注目。

藤太@猿弥さん、役にあった愛嬌とキビキビとした動きのなかの丸さ、これは大当たり。

『四の切』
当代の猿之助さんでもすでに何度も拝見している場です。少しづつ進歩していっているなと思って拝見してきましたが、今月は、当代猿之助の忠信にきちんと消化されたなと思いました。四代目の狐忠信として完成されつつある。メリハリがあって身体も本当に良く動くしとても良かったです。本物忠信に線の太さが出たのが効いたなと感じます。サービス精神も旺盛で観客が大喜び。

松也くん駿河が台詞も身体の使い方もよく今月三部とも頑張ったなと思います。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 第二部『いがみの権太』』1等1階前方センター

2016年06月18日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 第二部『いがみの権太』』1等1階前方センター

配役のバランスがほんとに良いですね。ベテランが締めて中堅花形は華やかで若手花形は一生懸命。初日から出来上がっていたけど、やはり中日過ぎて個々の芝居がより丁寧になり心情もクッキリと。役者の皆が適材適所でアンサンブルもよく、芝居としてその気持ちのよさもあった。

権太@幸四郎さんは江戸前の悪を効かせた骨太で、でも洗練された権太。いわゆる人好きのする愛嬌がない分、家族の関係性がハッキリして登場人物の個々の物語や哀しみが立ち上がってきた感じがした。幸四郎さんの演出にはこういう物語バランスのよさがあると思う。

お里@猿之助さんは思い込んだら命がけ的なキュートなお里ちゃん。もう手に入ったお役でしょうが、細かい芝居に緩急がついて、真っ当な娘としての情味と芯の強さがよりはっきりと。初日気になった幸四郎さん権太との兄妹としての芝居のトーンも合ってきていました。

弥助/維盛@染五郎さん演じ分けがより鮮明に。弥助のつっころばし風情が花道から出たところから観客のくすくす笑いを引き出す巧さ。維盛として見現す場はまずは目から変りゆったりと佇まいと変えていく。そして維盛の殿上人なりの義や悩みが身に沿う芝居ぶり。染五郎さんの維盛は最初に手掛けた時に似合いそうで苦戦してたこと思うとかなりの成長ぶり。今回ここまで演じてくるとなるとやはり役の回数を重ねることで得るものは大きいと感じる。

梶原平三@彦三郎さんの梶原平三がこれぞという佇まいと声で、とってもよかった。こういうがっつり久しぶりですよね?彦三郎さんが活き活きされていると嬉しい。

弥左衛門@錦吾さんとおくら@右之助さんの夫婦、やっぱりとっても好き。錦吾さんの気骨あるお役って無条件に好き。そこに右之助さんの真面目に生きてきたからこその情味があるおくら。右之助さんの女形、好き。今回拝見してもっとこのポジションをやっていただきたいと思った。さりげなく巧い。元々は女形中心だった方というのもあるでしょうけど身体の使い方には感心。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 第一部『碇知盛』』1等1階前方センター

2016年06月11日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 第一部『碇知盛』』1等1階前方センター
『渡海屋・大物浦』

アンサンブルが良くなってかなり良くなっていました。初日から10日でここまでしっかり芝居が纏まってくるとは思ってなかったので嬉しい。初日のときは皆それぞれ自分の役をこなすのにいっぱいいっぱいで周囲への目配りが足りないというかアンサンブルがまだまだだったと思う。今日は細かいところまで目配りが効いた芝居で空気が濃くなってきていた。やはり芝居のアンサンブルって大事。そうなると個々の芝居も充実する。

銀平/知盛@染五郎さん、銀平はまだ貫目は足りないけどメリハリが出てきてて、台詞の裏側(何をしようとしているのか)がしっかり見えたのが良かった。あと銀平も’やつし’なんだよなという格があるのがいい。

知盛は悲壮感だけじゃなく武将としての大きさも出てきていました。何より台詞に気持ちがしっかり入ってた!手負いになりながら安徳帝を気遣うさま、義経にしてやられた悔しさ、そして源氏への恨み、そして悲哀。モノノフの男としての矜持を最後までもつ凛質さ。死してどこかへ向かおうとしているかのようでした。

台詞廻しはやはりどこか吉右衛門さんを感じさせる。声の使い方というか台詞の調子の使い方が似てるのかも。でもちょっとした姿が幸四郎さんだったり。でも染五郎という役者が目指す知盛というのがはっきりしてきたようにも。で、やっぱり白鸚さんか松緑さんあたりの何かを感じるのです。まだ何かが見えないんだけど。

そういえば、染五郎さんは銀平のときの拵えがわりとあっさり目なのよね。それでも初日に比べたら強めに描いてるかな。ごつく見せる為には強めの拵えのほうがいいと思うんだけど。若い時は控え目な化粧のほうがいいとは言われているけど控え目すぎてもね。最近はくっきりな拵えのほうが好まれるんだし。

知盛はだんだん目が充血してきているよう見える化粧でぞっとするくらい。最初、本当に目を痛めてしまったのか思いビックリしたのだけど、見た方皆さんがそう見えるというので、そう見えるような目の化粧なんだと思う。

お柳/典侍の局@猿之助さん女房お柳が一段と良くなっていました。可愛いらしさも出てて、より先代雀右衛門丈を彷彿。台詞にも緩急が出て情景が伝わってくる出来。典侍の局は先代雀右衛門丈というよりはより、猿之助さんの個性が出た感じもしました。気骨ある強さと情の深さのある局。

安徳帝第一と平家の誇りと共に来世を見据えているような、染五郎の知盛と猿之助さんの典侍の局。敗残者の美学というより生き変わり死に変わり追いやられてなおな妄執を持つ二人という感じを受けました。

安徳天皇@タケルくんは可愛いだけじゃなくきちんと安徳天皇。台詞が上手いし、細かい表情もついてきてました。

相模五郎@右近さん、好演。特に前半では肩の力が抜けてきていい感じに。ご注進の場はとても丁寧に。

入江丹蔵@亀鶴さんも相変わらず巧い。特にご注進のところがキッパリして良かった。

義経@松也くん、まだ御大将の品格は薄いけど「大物浦」での情味ある台詞がよかったです。

四天王の花形くんたちもしっかりしている。個性が出てきたな~。

弁慶@猿弥さん、ちょっと砕けすぎで弁慶はぽくない気もしましたがけど人情味がありのが良いのと状況が分かりやすい。最後の法螺貝は吹けてなかったような。たぶん自分の声で「ぼおぉ~」と出してました。それなりに聴こえてしまうのが凄いけど(笑)

この日はハプニングがありました。「渡海屋」で相模五郎と運平が銀平に放り出され、曲げられた刀を元の鞘に戻すところ。刀をうまく直せずでこぼこにしてしまい、刀を鞘に戻せず(笑) もう一度やり直し。上手にチャリ的な台詞を足してなんとか無理矢理鞘に戻す二人。銀平も笑っておりました(笑)

所作事『時鳥花有里』
義経@梅玉さんがせり上がって出てくると、これだ~って思います。佇まいだけで義経。

鷲の尾三郎@東蔵さんが少しお疲れぎみだったかな?

魁春さん、笑三郎さん、春猿さんの女形三人はほんとうに華やか。

傀儡師染吉@染五郎さんは軽妙に、また面での踊りわけはしっかりと。でも、面の切り替えのとこは染五郎さんならもっとメリハリつけられるよねとも。

傀儡師染吉が知盛の面をつけて踊るところ。終盤、面に付いている髪に手が引っ掛かったようで面が外れる。焦った様子だったけどそのまま次の動作へ。正体を現す直前だったので、踊りには支障なしでした。


『時鳥花有里』は華やかで楽しいですし、一応三部に繋げる役割は果たしてるけど、個人的には『渡海屋・大物浦』の前に若手花形で『鳥居前』でよかったような。んで、梅玉さんには『渡海屋・大物浦』で付き合っていただくとかで。出番がなくなる役者さんも出てきちゃうからダメかな…。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 第二部『いがみの権太』』3等B席前方センター

2016年06月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 第二部『いがみの権太』』3等B席前方センター
『木の実・すし屋』

こちらはさすがの大歌舞伎。混成チームなんだけどベテラン、中堅、若手と配役のバランスがいい。こういう配役は幸四郎さんは本当に上手。あと補綴は全体をいじってるわけではなく「小金吾討死」~「すし屋」への流れを良くしただけ。私はとてもいいと思いました。

権太@幸四郎さん、真っ当な江戸の型を丁寧に演じています。貫録はありすぎるけど悪漢ぶりのなかに飄々とした愛嬌が滲む。でもワルのほうがかなり強い権太でちょっと新鮮でした。芝居に吸引力がありますねえ。

小せん@秀太郎さんが、もうほんと自然に小せん。情味の濃さとそこはかとない色気とがふわ~っと。やっぱり凄いなとしか。このクラスの役者さんだと役を演じてるのにそこにその人が生きてるという感じがある。

小金吾@松也くん、台詞廻しに哀愁があって良かった。立ち廻りもかなり頑張ってました!もっとメリハリがでるといいな。

お里は@猿之助さん、おきゃんで可愛い。るんるんしちゃって恋に一途。私的にこういう役の猿之助さんが一番好きで大満足。後半はもう少し哀れさがあってもいいかな~とも。初役だっけ?お里をやるのが嬉しいんだろうなというのもとてもよく伝わってきました。個人的には後半の妹としている場はもう少し意識的に作りこんだ方がいいかなと。ちょっと気になるとこがあったんです。

弥助/維盛@染五郎さんは見事な優男ぶり(笑)何度か手掛けているので安心してみていられます。維盛との切り替えが前回よりくっきりしてきた。染ちゃん維盛は奥方と子供が一番なのがハッキリしてるのでお里ちゃんがほんと可哀想なのよね。

弥左衛門@錦吾さんとおくら@右之助さんの夫婦が思った以上に良かったな。二人とも生真面目で優しそうなの。似たもの夫婦。

歌舞伎座『六月大歌舞伎 第一部『碇知盛』』3等A席前方上手寄り

2016年06月02日 | 歌舞伎
歌舞伎座『六月大歌舞伎 第一部『碇知盛』』3等A席前方上手寄り
『渡海屋・大物浦』

初役揃いの舞台です。それぞれが丁寧に演じていて物語をしっかり伝えるという部分で初日からいい出来でしたがアンサンブルのまとまりという点でまだこれからという感じでした。

銀平/知盛@染五郎さん、銀平は鯔背でかっこいいけどまだやりきれてない部分多々。まだ頭で考え中な雰囲気でした。輪郭をもっとクッキリと演じて欲しい。顔の拵えとともに色々と控えめすぎる。しっかりとこの役を物にしてほしいです。反対に知盛はストレートに気持ちが伝わってくる出来。精悍で美しくて、そのなかに滅びゆくものの妄執の哀れさがあって切ない雰囲気。悲壮感が凄くそして自分の運命に対し非常に悔しげでした。あれは祟る気満々。その部分に悲壮感を持たせた知盛に今日は見えました。

演じ方は幸四郎さんに習うと聞きましたが父と叔父のmixな感じを受けた。台詞廻しは叔父に近いかも。あと不思議と白鸚さんなのか2松緑さんかの存在をふと感じる瞬間が。こなれてきたらどうなるか楽しみです。

お柳/典侍の局@猿之助さん、お柳はいかにも宿屋の女主人といった風情でしゃべりも達者で巧い。天気予報の旦那ののろけ部分はまだメリハリがついてない。ここは難しいんですね。典侍の局は位取りはこれからかなと思うものの安徳帝への情が濃く激しさがあり見応えがある。京屋さんぽい雰囲気と思ったらやはり京屋なぞりだそう。たぶん京蔵さんに見てもらったのでは?

安徳帝@タケルくん、かなり台詞がしっかりとして良い出来でした。初舞台おめでとうございます♪

相模五郎@右近さん、息子の初お目見えということもあるのでしょうか、気合が入ってます。前半は真面目すぎるのかまだ滑稽味は出ていませんけど台詞が明瞭。ご注進ではきっぱりと。

入江丹蔵@亀鶴さん、柔軟に受けて返す。ご注進も明快で巧い。

義経@松也さん、丁寧に品よく。御大将の格はこれからかな~。


『時鳥花有里』
藤間勘十郎さんらしい華やかで趣向的な舞踊でした。きちんと第三部の導入部になっています。

なぜ染五郎さんがここにも出るの? と思ったのですが見れば納得の配役で軽妙さと妖しさと。梅玉さんの義経です感が素敵。魁春さんが雅び、笑三郎さんと春猿さんが美しい。東蔵さんの安定感。