Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

記事の新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』1等1階前方花道寄り

2011年09月23日 | 歌舞伎
新橋演舞場『秀山祭九月大歌舞伎 夜の部』1等1階前方花道寄り

『沓手鳥孤城落月』
淀君@福助さんが芝翫さんに激似で驚きました。最初、淀君が振り向いて顔を見せる所で芝翫さんが復帰したの?って一瞬思ったほど。福助さんが拵えを工夫したのだとは思うんだけど、それにしても似てた。ただし芝居はやはり違う。福助さんはお父様の芝翫さんと歌右衛門さん、お二人の芝居を参考にしたんだろうな、という感じですが、まだまだスケール感が小さくてなぜ物狂いになったのかが不鮮明な感じ。芝翫さん演じるとある格の高さとか女帝の押し出しとか、狂いとか、そこら辺まだまだ。初日の芝翫さんはかなり痛々しかったけど、それでもやっぱ凄かったんだと思った。

秀頼@又五郎さん、動きが少ないとはいえ足の怪我を感じさせない芝居。朗々とした台詞のなかに苦悩を滲ませてとても良かった。

大野修理之亮@梅玉さん、初日にはさすが新歌舞伎は梅玉さんだわと思ったんですけど今回はどうも疲れ気味なのか精彩に欠いてて残念。

氏家内膳@吉右衛門さんは存在感は抜群なんだけど…時々台詞に詰まってた。芝居が的確だけにちょっと残念。

お局役の芝喜松さんと吉弥さんが女主人に対しての情味やそのなかでの気概があって初日から変わらずとても良かった。

石川銀八@児太郎くん、頑張ってた。ようやく殺陣の手が合ってきてて、拍手がもらえるようになってました。踊りをとにかく精進して地道に頑張って欲しい。声はきちんと出てる。初日、ハプニングをちゃんと自分で考えて乗り越えてたんだっていうのもわかったし。舞台のうえで役としてきちんと見せようって根性はあると思う。不器用でも地道に精進すればいつかモノになるんだから頑張って欲しいな。

『口上』
口上って他愛もない場だとは思うんだけど独特の華やかさがあって好き。特に襲名披露の口上は襲名した役者の決意もさることながら周囲の盛り立てていこうという暖かさを感じられていつもじーんとなってしまう。

初日より個々の役者さんたちは口上を短めに終わらせてたかも。又五郎さんの足が心配でなんじゃないかなって思った。

『車引』
梅王丸@又五郎さんの足の怪我の具合がかなり心配になったけど、それでも見応えはありました。又五郎さんの必死の気迫が場を締めたんだじゃないかなって思ったくらい。席が梅王丸の目の前だったので半端ない汗や、かなりしんどそうにしているお顔を観ることになったのでハラハラしっぱなしではありましたけど、あの怪我でギリギリのとこまでよく動いていましたし、声のハリも素晴らしかった。なにより梅王丸そのもののような空気を纏っていたのが素晴らしかった。私は新又五郎さんは荒事が似合うって常々思っていたのだけど、改めてその思いを強くしました。あの声と体のバネの強さが良いんですよ。地味って言われてるけど、こういう役をもっとやらせるべきなんじゃないかと思う。

桜丸@藤十郎さん、まだ台詞のきっかけとか若干プロンプついているのが見えてしまいました。席が近くじゃなかったら気が付かなかったであろうくらいではありましたが。またやはり声が弱い。初日ほどではなかったけどお年を感じてしまった。それでも柔らか味のある儚げな少年風情が伝わってくるのが見事だった。あと、はんなりした立ち姿や肩の線そしてS字に綺麗に動く背中の見事さといったらない。身に付け身に沁みたものって揺るがないんだなあって思いました。

松王丸@吉右衛門さん、存在感が大きい。たぶん又五郎さんのために動きを少しばかり押さえてるなっていう感じではありましたが、ただその押さえてる分、敵役としての松王丸のなかに真意を晒せない鬱積したものが肚のなかにある感じがして、そこが面白かったし吉右衛門さんらしいなと。あと台詞術の細かさも印象的。緩急、高低の使い方がほんと上手いんですよね。今回、心情を押し出すような芝居してないだけにそこが際立ってみえた感じ。やっぱり今回の吉右衛門さんは物語に奉仕している文楽を感じさせる。

杉王丸@歌昇くん、安定感が出た。初日どこかまだ芯が弱いなって感じだったけど、体が締まって形がよくなっていました。声もよく出てる。ただ頑張るってだけだけじゃなく歌昇としての覚悟の部分が前に出てきたな~って思いました。

時平@歌六さん、存在感が出てきたなと。まだ格の高さが足りなくて多少小粒感はあるのですがそのなかでも大きさ、古怪な雰囲気をだいぶ纏えてきたなと。それと真っ直ぐに伸びる声が良いなあ。

『増補双級巴 石川五右衛門』 
思っていた以上に楽しかったです!全体的に芝居が締まっていたのと舞台転換もかなり早くなっててテンポがよく飽きさせない舞台になっていたと思う。染五郎さん、松緑さんコンビの息の合い方がますますピッタリ。持ち味の違いが良い相乗効果。

五右衛門@染五郎さん、初日に比べて伸び伸びと楽しそうに演じていた感じ。観ているこちらもウキウキと楽しくなりました。勅旨に化けたときはやっぱり線の細さのほうが目立つかな。化けてても五右衛門だ~って思わせないと。品の良い知性的なお公家にみえてしまう。七三での企みのある悪~い笑顔はカッコイイです。前半のこの場面は初日のときよりはだいぶ存在感は出てたけどもっと線を太く演じられるようになると今後もっとよくなると思う。

そしてやはり正体がばれてからが活き活きする。久吉@松緑さんとのやりとりが楽しい。気安く接していながらも さてどうでるか?とお互い探りをいれてる、そんな雰囲気。そして葛抜けの宙乗り。一回り大きな存在になったかのような独特の空気を纏わせて、まさしく宙を駆け上がっていくかのように飛んでいきます。今回は下から見上げるように宙乗りを拝見しましたがやはり姿が本当に綺麗。そして葛を揺らすその様はそこだけ空気が圧縮され力量を持ってしまったかのよう。五右衛門@染五郎さんはその宙を見事に蹴って走っていった。ほんと、見事だった。そして山門の場、初日では衣装に着られてる感ありましたがさすがにだいぶ馴染んで押し出しが良くなり大きさも出ていました。「絶景かな絶景かな」からの五右衛門の名乗りで拍手が湧いたり、観客のノリが尻上がりに沸いてきているのが感じられた。

久吉@松緑さんも初日よりピリッと締まって、所作も綺麗に決まって受けの芝居のひとつひとつがしっかり意味が際立ち本当に良い久吉でした。何より台詞がかなり明快になってきたのが良い。そして今まで芝居の緩急がなかなかできなかった松緑くんだけど今回はだいぶメリハリをつけてくるようになって役者として成長しているなあと目を見張る思い。特に世話に砕けつつも武将としてかなり目端の利く人物像としてキャラを立ててきたのがとても良かったです。

二人とも吉右衛門さんにしっかり稽古をつけていただいたんでしょうね。初日はいかにも花形二人といった空気の芝居でしたけど、だいぶ芝居に濃さが出てきた感じ。本当に楽しかった!!