岩波コラム

精神科医によるコラムです

あなた自身のためのレッスン

2021-07-24 16:33:05 | 日記
 日本を代表する劇作家の清水邦夫さんは、烏山病院ともご縁のある方である。清水さんの代表作と言えば、古くは現代人劇場のころの「ぼくらが非常の大河をくだる時」をあげる人もいれば、木冬社時代の代表作である「楽屋」という人もいることであろう。

 清水さんの作品は、「精神の異常」あるいは「異常な精神」を扱ったものが多い。歴史劇、「幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門」は、主人公である武将、平将門が、幻視や被害妄想によって錯乱していく様子を、当時の新左翼の内ゲバと重ね合わせて描いた作品であった。「狂人なおもて往生をとぐ」にも、統合失調症と思われる登場人物が出演している。

 そうした中で、もっとも印象的な作品は、「あなた自身のためのレッスン」である。1970年、俳優座で上演された作品。講演会の終わった後の市民ホールが舞台である。住み込みの管理人夫婦は、むきだしになった部隊で、様々な台詞をやりとりをしている。ベケットの「ゴドーを待ちながら」を思わせる設定である。そこに事故で記憶を失った3人の「あなた」(父、娘、息子)が乱入し、失われた記憶を取り戻そうする試みが始まるという物語である。

 かなり長い作品であるが、ぜひもう一度精読してみたい。