浅草文庫亭

"大哉心乎"
-大いなる哉、心や

ローマ人列伝:アグリッパ伝 1

2008-01-01 12:50:43 | ローマ人列伝
ドッピオ三国志をまねてローマ人物語もはじめていきます。

個人的なものなので歴史的間違いなどはご容赦ください。(ご指摘はありがたくいただきます)

基本的には歴史を追うよりも人物伝として書いていきます。

第一回の今回は忠臣アグリッパ。


まずいつの時代のどういう人だったか、ということをwikipediaから要約でざっと書いてみましょう。

紀元前63年生まれ。その時代というとどういう時代だったかと言うとちょうどカエサルが軍勢を率いてガリアに向かっていたころ、ということになります。ローマ帝国は共和制がほころび始めた時代。
アグリッパの出生地は良くわかっていませんが騎士階級の生まれ、ということは分かっています。当時の騎士階級といえば一応、平民よりは上ではあるもののトップクラスと言うことでありません。当時の支配者層はなんと言っても元老院であり、元老院を排出するクラスは「パトリキ」、つまり「貴族」でした。騎士階級というのは正に貴族を守る「騎士」と言うことになります。
またさらに彼がそんなに身分が高くないことは名前からも分かります。当時のローマ人の名前というのは何かを成した人は「なんとかス」と名乗ることが多く、それを世襲することが多かったのです。たとえばアフリカ遠征を成功させた人はアフリカヌス、「偉大なる」という意味のマグヌスというように。ユリウス、タキトゥス、やだス。
対してアグリッパはアグリッパ。ゲロッパ。つまりそんなにいい身分の人ではなかった、と言うことです。

身分は低いとは言えアグリッパの武勇は若い頃から有名でした。特に当時のヒーロー、ユリウス・カエサルの部隊で一兵卒として戦ううちにその武勇で次第に名を知られるようになってきました。

そしてその軍務において彼は彼が一生涯をささげる人物と出会うことになります。そう、後のローマ帝国初代皇帝アウグストゥスです。
 
奇しくも同じ紀元前63年生まれのこの若者は、頑強なアグリッパとはまったく違い力も弱くすぐおなかを壊していました。一応、軍の最高司令官カエサルの血縁(カエサルの姪の子)でありながら父が騎士階級のことから決して身分は高くありません。(アウグストゥスはこの頃まだオクタヴィアヌスと名乗っていました)

もしカエサルが身分にこだわる人間であればまがりなりにも自分の血をひいているオクタヴィアヌスを特別視したかもしれません。しかし司令官であるカエサル(最高司令官といっても軍はたくさんあるのでこのときのカエサルは「カエサル組の親分」くらいだと思ってください)は自らの家系も高くないため身分にあんまりこだわらない人でした。何せ「自分は好きなようにやる。だからお前らも好きなようにやれよ」が口癖の人でした。(結果的にその考えにより暗殺されることになるのですが)

カエサル軍の雰囲気は自由闊達言いたい放題。名誉有るローマでの凱旋式でも正装したカエサルの前を歩く兵士が「ハゲの女たらしが通るぞ!嫁隠せ!!」と笑いながら連呼したくらい。
(凱旋式の時には自軍の司令官に好きなことを言ってもいい、という伝統がありました。とはいえこの文句はさすがにひどいものでカエサルも「ハゲはやめてよ~」と言ったとか。)

そんな雰囲気の中でアグリッパとオクタヴィアヌスは友情を育んで行きます。たたき上げの若き軍人と軟弱な男。「行くぞ、おっくん!」「パッちゃん、ホントマジ待って、昨日寝てないから」「しょうがないな~~」

現場では一切使い物にならないおっくんですが話は面白いし頭がいいことは軍でも知られていました。何せ「たぶんこの戦いではこっから敵が出てくるよ~」というアウグストゥスの予想がぱしぱしあたるのです。(言いたいこと言った後には「俺、8時間寝ないとダメなんで~」とすぐ寝ちゃうわけですが) あとなんか母性本能くすぐるところもあります。

子供心(16歳くらい)にアグリッパは「やっぱおっくんスゲーなー」と思うようになりました。

そしてその頃、ローマ帝国にとっても二人にとっても大きな戦がありました。それはアグリッパにとっては尊敬する司令官であり、おっくんにとっては大叔父であるカエサルの「ルビコン渡河」です。今回はカエサルの回ではないので細かい話は省きますがカエサルとローマ帝国元老院の戦いです。カエサルは古くからの友人、ポンペイウスと戦うことになります。

そこでもやはりおっくんのおかげでアグリッパにとってのボケ&突っ込み的な出来事が起こりました。同じ舞台にいた二人は、カエサルに一応船を一隻任されます。が、オクタヴィアヌスがポカって船が漂流してしまいます。(当然おっくんは「いや、僕はちゃんと見てたんだけどね~」とか言ったんでしょう、ほんとは寝てたくせに) 夜があけて着いた場所はなんとポンペイウス軍のど真ん中。ここでアグリッパは獅子奮迅の活躍をします。結果、失敗からとは言えカエサルはミスを怒らない人だったので2人の活躍に「お前ら今日から1.5年生!」と大喜び。おっくんは当然「あざーっす、つーか計算どおりです」と言い張ります。ここからカエサルは「お前らコンビね、コンビ名ライト兄弟とてるおはるおどっちがいい??」と言い出し始めます。さらに「お前ら二人さー、ギリシャ行って勉強してこいよ」と2人にギリシャ留学を命じます。当時最高の学問の都市であったギリシャへの留学は騎士階級の青年にとっては最高の名誉(おっくんは「うわーマジいきたくねー」とぶつぶつ言っていましたが)。
アグリッパはそんなに頭は良くありません。頭で考えるよりも「オラオラオラー!」と体が動いてしまうタイプです。ただし騎士階級として生まれ育った彼にとって一番大切なことは頭に叩き込まれていました。それは「忠誠」という精神。騎士、とは何かを守る、ということです。このときアグリッパはローマと言う国とそしてカエサル、という人物に忠誠を誓ったに違いありません。

そしてその2年後、カエサルが暗殺されます。


カエサルの死を二人はギリシャで聞きます。さらに、何日か遅れで届けられたカエサルの遺言に二人は驚きます。

そこには、「カエサルの持つ権力をすべてオクタヴィアヌスに譲る」と書いてあったのです。

これには驚きました。この辺もカエサルの回ではないので省きますが、次の権力者は執政官のアントニウスかあるいは愛人の子とは言えカエサルとクレオパトラの子が後を継ぐものと思われていたので。

アグリッパは幼馴染と言ってもいい友人の出世を喜びました。昔はいろいろ困らせられたものですがいいコンビでした。彼があのカエサルの跡取りとして出世してしまうのは少し淋しいですがそれでもめでたいことです。

アグリッパが「おめでとう」と言い出す前に、しかし、オクタヴィアヌスはカエサルの手紙の続きをアグリッパに見せます。

「オクタヴィアヌスの後見人にアグリッパを指名する」

カエサルはすべてお見通しでした。

冷酷な意味で言えばオクタヴィアヌスの戦の下手っぷりを。自身の跡取りは頭のよさだけでは不足なのです。自身が最高の政治家であり、最高の軍人であったが故にオクタヴィアヌスの体の弱さ、軍才の無さは明確に分かっていました。だからこそ彼の補佐が必要だったのです。

感情的な意味で言えば最高権力者には右腕が必要だと言うことに。カエサルの不幸はカエサルが天才でありすぎるが故に彼の本当の理解者がいないことでした。カエサルはたびたび敵の武将を愛してきました。ガリアの若将ヴェルチンジェトリックスしかり最大のライバル、ポンペイウスしかり。それは彼らだけがカエサルを理解してくれたからでしょう。本気でカエサルと戦わなければカエサルを理解できないのです。さらにカエサルはたくさんの愛人を作りました。エジプトの女王、クレオパトラはじめローマの政治家の奥さんとか(俗説では元老院議員600人の三分の一がカエサルに奥さんを寝取られていた、という話もあります)。それも彼が孤独だったからでしょう。自分の後を継ぐ人間にはそんな孤独を味あわせたくない、と思ったのかも知れません。幸いなことにオクタヴィアヌスにとっては兄弟同然に育ってきたアグリッパがいます。名実ともに彼らをコンビにしよう、と考えたのです。

どの科目も80点取る人間一人よりも、英語100点数学0点の人と数学100点英語0点の人が力を合わせたほうがいいです。2人がお互いを理解しあっているのであれば。

このときのアグリッパの気持ちは想像できます。まず、身分が低い自分をここまで育ててくれたカエサルへの感謝の気持ち。さらにそのカエサルが後を託したオクタヴィアヌスへの忠誠。16歳の頃から彼の行動を決めていたのはカエサルへの忠誠でした。そのカエサルが後を託したのであれば、オクタヴィアヌスに一生忠誠を誓おう、とここで決めたのでしょう。幸運なことにオクタヴィアヌスにはその忠誠に答えられるだけの才能がありました。そしてもうひとつ、アグリッパの心にある感情が生まれます。それはカエサルを暗殺した元老院たちへの憎悪です。

天才カエサルから後を頼まれたアウグストゥスとアグリッパは古代からの都市、当時の最先端都市ギリシャの町並みを背にぐっと手を握ります。留学中の身でしたが二人にもう学んでいる暇はありません。時代の表舞台が必要としているからです。そして一刻も早く、まずは我らがカエサルの背中を指したやつらをぶっ殺し、さらにそいつらの後ろで笑っている元老院をぶっつぶさなくてはいけません。

18歳の彼らは船に乗りました。ローマに向けて。

…to be continued.

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4 コメント

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Unknown (マドモアゼル唯先生)
2008-01-01 13:26:36
開けまして餅ありがとうございます。

ローマ史はほとんど覚えてないので
続き期待してます。
大スキピオ・中スキピオ・小スキピオくらいしか知らない。
1.5年生懐かし。

カエサルは元老院に暗殺されたのは何故?
元老院出身じゃないの?
アグリッパ編だから書かない?
知らないの俺だけ?
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Unknown (show)
2008-01-01 13:44:14
開けまして餅どういたしまして。

大西中西小西みたいなもんだな。

カエサル編はこのシリーズの最終回に書くので詳しくは書きませんがカエサルへの権力集中を見て昔の王政の復活を恐れ、自分たちの権力が脅かされるのを元老院が心配したためです。カエサルは一応元老院のメンバーでしたが元老院の中では新参者でした。
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Unknown (よね3)
2008-01-01 18:37:06
早く書いてよヤンマー
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Unknown (show)
2008-01-02 01:15:07
はい、2話目アップしました~。アグリッパ伝は3話で終了予定です。
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