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やどかり和尚の考えたこと

サンデーサンライズ404 求めなければ出会えない

2023年02月12日 05時00分00秒 | サンデーサンライズ
三ちゃんのサンデーサンライズ。第403回。令和5年2月12日、日曜日。

涅槃図をお祀りしました。
お釈迦様が亡くなられた2月15日にお勤めする涅槃会のために、年に一度のことです。
当山の涅槃図は、縦297㎝幅197㎝と大きなもので、宝暦13年(1763)に完成したと裏書されています。
更に裏書には「絵願主五世明刕代、表具願主六世大成代」とあります。
つまり、5世が絵を発注し、6世が表具をしたということになります。
ところがこの間、5世が亡くなり寺は火災に遭い焼失しています。
なのにこの図が残ったということは、発注後まだ完成をみないままに住職の死亡と火災があったということで、逆に言うとそのために図は焼失をまぬかれたと考えられます。
後を継いだ6世は、本堂の再建と涅槃図の完成を担ったことになります。
5世が示寂したのは享保8年(1723)で、その前に発注したわけですから、そこから数えると完成までに実に40年以上の時間を要したことになります。
二代の住職の強い願いと意志を感じます。
その願いとは何だったのか。
当地は山間部寒冷地ということもあり、何度も凶作に見舞われています。
多くの人、特に子供等が、飢えのために命を落としてきました。
命の儚さ、世の無常を突き付けられた村人にとって、何より願うことは、亡き人の安らかな帰寂ではなかったでしょうか。
住職様が涅槃図の絵解きをしてくれたことでしょう。
その時、この立派な涅槃図を拝み、お釈迦様が横たわっているお姿を見て、「そうか、お釈迦様も死ぬんだ」と気づいたのではなかったか。
みんなに惜しまれながら、泣きながら見送られるお釈迦様。
ならば、我が子、愛する家族の死もこのように泣きながら見送られ、お釈迦様と同じ仏の世界に行くのだと思わせてくれたのではなかったかと想像します。
5世6世の願いは、無常に嘆く人々を救いたい、貧しさの中にも心の安らぎを得て欲しい、ということであったに違いないと思います。
そして、涅槃団子をいただいて帰り、今は亡き家族にお供えしたことでしょう。

 涅槃図の 皆泣いてゐて あたたかし  阿部月山子

各地各寺に祀られる涅槃図はほぼ同じ図柄、内容だと思われます。
お釈迦さまのお弟子たちや信者の人々、菩薩や鬼神のような姿、動物や昆虫などなど。
その中に、必ずと言っていいほど描かれている一人に、お釈迦様の足元にいて、足をさすっていると思われる老婆の姿があります。
白髪でやせ細り、身なりも粗末な老婆です。
絵解きによれば、この老婆は実はお釈迦様と同じ歳の80歳であるとされています。
今のインドの国のどこかで、悟った人、ブッダが現れたと耳にします。
その時はお釈迦様と同じ35歳だったのでしょう。
女性は、ブッダに会いたい、この目で一目みたいと強く思いました。
「そのお方はどこにおられるのか」と人に聞きながら訪ねて歩きました。
あそこにおられたと聞き、訪ねると、もう出発された後だとのこと。
お釈迦様は苦悩から解脱する教えを広めるために、一か所に留まらず旅を続けておられたのです。
訪ね訪ね歩いて、ようやく今クシナガラの沙羅の林の中におられると聞き、急いで林に入って行かれました。
しかし、そこにおられたのは、既に息を引き取り横たわったお姿だったのです。
泣きながら足に触れさせていただく老婆。
ブッダを一目見たい、ただ一つの願いで旅を続けた45年。
しかし、生きたお釈迦様にはついに会えませんでした。
この物語が教えているのは何か。
お釈迦様と同じ時代に生きたものでもお釈迦様に会えるとは限らない、求めても得られないものもある。
しかし、求めなければ、会うことはできない。
たとえ「見た」としても、求めるものがなければ会っても分からない。
老婆は生身のお釈迦様のお声を聞くことは叶いませんでした。でも、そのおみ足に触れることはできました。生涯をかけて求めたブッダに触れることができたのです。
老婆が泣いているのは、悔しさや悲しみだけではなく、命を懸けて求めたものに会えた、喜びの嗚咽ではなかったかと推察します。

今の時代に生きる我々も、生涯をかけて求めるものが欲しいと思います。

 求めていないと 見つからない
 求めていないと 出会えない
 求めていないと 出会ってもわからない
   義道

今週はここまで。また来週お立ち寄りください。

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2 コメント

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感銘しました (大閑道人)
2023-02-12 06:05:09
涅槃図の絵解き。
今日この解説を読むまで、サラリと流していました。猛省しております。
当方も、参究・咀嚼して法話にいたします。
ありがとうございました m(_ _)m
Unknown (三部義道)
2023-02-12 09:31:56
ありがとうございます。

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