つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

それでいいのか、綿貫!

2005-06-11 20:52:09 | 小説全般
さて、またもやなぜかこちらになってしまったの第193回は、

タイトル:家守綺譚
著者:梨木香歩
出版社:新潮社

であります。

ほんとうは「裏庭」にするつもりだったのに、古本屋で何気なく単行本の棚を見ていたら転がっていたので買ってしまった(笑)

さて、この話は主人公である物書き、綿貫征四郎が書いたもの、と言う体裁の一人称で語られている。
時代はようやく電気工場なるものが出来るようになったころ。
舞台は、死んだ学友の家を中心として語られる生活の話。

……なのだが、お守りを頼まれた家の庭のサルスベリに初っぱなから惚れられてしまう。
つか、それを綿貫に語るのが、死んだはずの学友である高堂。

少しくらい驚けよ! 綿貫!

だいたい掛け軸から現れた高堂に向かって「どうした、高堂」はないだろう。
しかも「サルスベリのやつが、おまえに懸想をしている」と言われて「……ふむ」だけかいっ!

とは言うものの、この綿貫、どこか感覚的にずれているような感じはするけれど、とても人間くさい。
高堂が出てきても、サルスベリに惚れられても、河童がいようととりあえず、受け入れてしまう割に、高堂を始めとして、隣のおばちゃんや和尚、後輩の山内と言った周りのひとたちの言葉や態度に、うろたえたり、不安になったり……。

超然と不可思議を受け入れるところと人間くさいところとのギャップがまたいい味を出している。

また、作品全体を通して、日常の中に不可思議が違和感なく自然に溶け込んでいて、それがとても心地よい。

で、話そのものに戻ると29もの植物の名前のタイトルがついた短編連作。
四季の移ろいの中で、タイトルとなっている植物と絡めて、様々な精霊や妖怪たちと綿貫の生活が描かれている。

構成は短編なんだけど、四季の移り変わりの中での話で一本の長編と言ってもいいと思う。
初っぱなからサルスベリに懸想された話で、どういう終わり方をするのかと思っていたら、きっちりとラストはうまい具合に作ってくれている。

「西の魔女が死んだ」「エンジェル エンジェル エンジェル」もそうだったけど、このひと、ラストの落とし方がうまいんだよなぁ。

キャラも綿貫以外の周りの人物も、人間くささがある綿貫と、逆に不可思議の一部分としての脇役と、うまく描かれている。
不可思議を当然の知識として綿貫に解説し、それに対してそうなのかと気付く綿貫の掛け合いは、くすっとさせてくれて楽しいし(^^

と言うか、そこかしこに「くすくすっ」と笑えるところもあるし。

前に読んだ2冊ともまた違った味わいのある作品で、これは「西の魔女が死んだ」と同じくらいオススメ。
作品世界に、するするっと入っていけて、その雰囲気に十二分に浸れる、そんな話。
どちらかと言うと、こっちのほうが好きかもしれないなぁ。