佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

戦略眼――フロントヤード戦術

2008-08-15 07:21:53 | 戦略眼
昨日予告したとおり、本日は戦術に関する話題を取り上げます。これは「佐藤直曉の戦略学」に昨日掲載したものです。

■フロントヤード戦術とは
妙な言葉を使いますが、専門家は多分もっと気のきいた用語を使っていることでしょう。私はそういう専門用語にうといので、自分の言葉で説明します。

そもそも売り上げをあげるには二つの方法があります。

ひとつは、新規顧客の獲得です。

他は、既存顧客に対するもので、リピートセールスおよび新サービス提供によるセールス拡大があります。

前者の新規顧客を獲得するための手段を、ここでは「フロントヤード戦術」と定義しました。その代表的なものは新製品の広告宣伝でしょう。

次に既存顧客へのアプローチを「バックヤード戦術」と名付けましょう。これはどの企業でも行っております。新しい顧客が何か商品を購入すると、メールがきて「こんなものもどうですか」ときいてきますね。

いつぞやVista Print という、名刺やレターセットを販売する会社のお試しセットを購入したところ、「こんなのも安いですから買いませんかと」メールがひっきりなしに来ました。

いささか辟易しましたが、そういう類の会社が多いようです。この方式はよく見かけますので、あえてここで触れることもないでしょう。

ということで、今日のテーマはフロントヤード戦術の方です。

フロントヤード戦術でいちばんよくあるのは、「お試しセット」の提供でしょうか。

ソフト販売などでは、期間限定付きで無料使用を認めるものがよくあります。

お試し商品を使う人が本商品に移行していく確率は、かなり高いと思われます。それは、すでに購入の意志がある人がお試しセットを使うからでしょう。

お試し商品を期間限定ではなく、かなり安い値段で提供する会社もあります。さきほどのVista Print もそうでした。

しかし、発想を変えて、無料で有益なサービスをユーザーに提供し、それによって顧客を獲得する会社もあります。

Googleは間接的な形ですが、こちらの部類に入れてもいいかもしれません。

最近私が利用したPayPalという会社は、それがもっと明確になっています。

■PayPalとはどんな会社か
PayPalはクレジットカードなどの電子決済を代行する決済機関です。

簡単にその仕組みを紹介しておきます。例外もありますが、ここではメインの部分だけ説明します。

まず、販売者(たとえばお菓子屋さん)と購入者が、それぞれPayPalに自分のクレジットカードや銀行口座を登録しておきます。

さて、購入者がPayPal決済を利用しているお菓子屋からクレジットカードでお菓子を買うとします。

購入者は、お菓子屋のサイトに貼ってあるショッピングカートの「購入」ボタンをクリックします。

すると、PayPalの決済画面に移ります。そこで、PayPalの画面上で、購入者はクレジットカードの支払い手続きをすませます。

その注文情報はPayPalからお菓子屋に伝えられ、それを受けて、このお菓子屋は購入者にお菓子詰め合わせを送る手配をします。

購入者がクレジットカードで支払ったお金は、PayPalからお菓子屋のアカウントにすぐ送られます。(私が試したときは、本当に即座でした)。

このとき、購入者のクレジットカード情報は、お菓子屋さんには渡りません。そのあたりがひとつのポイントでもあるのでしょう。

販売業者にカード情報が渡ったら面倒なことになる危険もなきにしもあらずですからね。

日本でも同じような仕組みで行われていますから、これ以上の詳細は省きます。

PayPalは全世界に1億5千万のアカウントをもっていると言っています。たいへんな数ですが、ここはネットオークション大手のeBayの傘下に入っておりますから、当然といえば当然かもしれません。

以下は、eBayおよびPayPalの最近の業績です。

米eBayは2008年7月16日,2008年第2四半期の決算を発表した。
それによると,売上高は21億9600万ドルで前年同期比20%増。ネット・オークションのeBayや電子決済のPayPalなどの事業の伸びが貢献した。

「一般に認められた会計原則(GAAP)」に基づく純利益は同22%増の4億6000万ドル,希薄化後の1株当たり利益は同27%増の35セント。一方,非GAAPベースの純利益は前年同期比20%増の5億6800万ドル,希薄化後1株当たり利益は同25%増の43セントだった。

事業別に見ると,eBayなどを含むマーケットプレース事業の売上高が14億6000万ドルで,前年同期と比べ13%成長した。このうち国外の売上高が56%を占めた。分野別では,テキストおよび画像のオンライン広告関連の売上高が前年同期比183%増だったほか,クラシファイド・サイトの Kijijiやチケット転売サイトのStubHubが引き続き好調だった。

★★★
PayPalのペイメント事業は,売上高が6億200万ドル(前年同期比33%増)。決済総額は149億3000万ドル(同35%増)で,アクティブな口座数は世界で6260万件(同19%増)に達した。

IP電話サービスSkypeの通信事業は,売上高が1億3600万ドル(前年同期比51%増)。当期の新規加入ユーザーは2900万人で,総ユーザー数は3億3820万人に達した。

同社は今後の見通しも発表した。2008年第3四半期の売上高は21億~21億5000万ドルと見込む。希薄化後1株当たり利益はGAAPベースで30~32セント,非GAAPベースで39~41セントと予測している。

2008年通期については,売上高は88億~90億5000万ドルと見込む。希薄化後1株当たり利益はGAAPベースで1ドル37セント~1ドル42セント,非GAAPベースで1ドル72セント~1ドル77セントと予測している。

出所:ITpro

■私の利用感
そもそも私がPayPalを使おうかと思ったのは、PayPalで決済を行っている会社と取引をしたことがきっかけでした。

そして、自分でも自分の商品(本)をカード決済で売りたくなり、できないか調べたのです。

ところが、日本では費用が高くて、個人ベースで行うのはなかなか難しいようです。

ショッピングカートつきでクレジット決済機能を利用すると、安いところを使っても月額1万円くらいはかかるようです。

もっとも、もう少し安くあげることも可能は可能です。

レンタルサーバーのロリポップを使っていれば、フリーでネットショップ機能が使えます。「Color Me Shop! mini」というサービスです。

このショップと提携しているEpsilon という決済代行機関を組み合わせて用いれば、廉価でクレジットカード、コンビニ支払い、銀行振り込みなどが利用できます。

代行手数料は、カード決済の場合ですと販売価格の5.5%。かなり安いといえます。それからコンビニ決済ですと手数料が、1回130円から。ただし、手数料の最低額があってそれが月に315円。毎月の手数料がそれ以下ですと、315円払わないといけません。

審査には結構時間がかかります。書類には住民票や印鑑証明書が必要です。UCカードと包括代理契約確認も必要。ということで、なかなか面倒そうです。

利用者は3月末で、法人が2400社あまり、個人が1180くらい。あまり多くない。というかかなり少ない。

ロリポップの上位ネットショップサービス「Color Me Shop! Pro」ですと、月額875円で利用できます。ただし、初期費用が3150円かかります。

これですと利用者はもっと多く、12万人以上です。内容は相当本格的です。お店のデザインとか、顧客の分析機能もついています。

ただし、これはショップ機能だけですから、これ以外に先ほどのEpsilonのような決済代行機関と契約しないといけません。

ということで、テストだけをするには金がかかりすぎるとあきらめかけていたのですが、PayPalを調べたところ、これならできそうに思えました。

PayPalの手数料は販売額に応じて決まり、しかもいちばん高い手数料でも3.9%+40円です。ほかには登録費用など一切費用はかかりませんし、販売がなければ手数料は発生しません。しかも、審査をどういうふうに行っているのかわかりませんが、直ちに認められました。

このあたりは個人のオークション用に設計されたためなのでしょうか、小企業や個人には非常に使い勝手がよいサービスだと思います。

このPayPalで眼をひかれたのが、無料ショッピングカートの提供です。

高機能カートはアメリカでももちろんあります。日本よりかなり安いようです。また、個人事業主や小企業向きの簡易なショッピングカートのソフトですと、アメリカでは15ドルくらいから売っているようです。

しかし、それに輪をかけて安いのがPayPal。何といってもただなのです。それをサイトに貼り付ければいいだけ。実に簡単にできます

エントリー用、初心者用としてはこんなに有り難いものはないでしょう。(顧客分析までは対応していないかもしれませんが、当面はそれで十分)。

もちろん、このカートを使えば、自然にPayPalの決済を利用するわけですから、PayPalだって無駄にサービスを提供しているわけではありません。

PayPalの本分は、決済機能の提供。しかし、そのサービスをうまく使わせるためには、いろいろなサポートが必要です。また、ユーザーを詐欺から保護するということも重要なサービスです。

特に新しい産業や未熟なユーザーが多い業界では、こういうサービスは絶対必要であり、ユーザーにとっては非常に大きな恩恵になります。

ところで、私がPayPalがユニークだと思うのは、購入者と販売者の両者を抱えていることです。

日本の決済代行機関、たとえば上のEpsilonのようなところでは、ユーザーは販売者だけです。決済代行ですから当然といえば当然でしょう。

ところが、PayPalは違う。彼らは購入者と販売者を抱え、購入者の情報を管理して、販売者の情報も管理する。きっとすごくうまみがあると思います。

もうひとつおもしろいのが、PayPalはショッピング機能と決済機能の両方をもっているということ。

アメリカでもショッピング機能を専門に提供するところは当然ありますが、小口の客はほとんどPayPalに取られているのではないでしょうか。ネット・オークションのeBayの傘下なんですから、当然なのかもしれませんが。

ネット・オークションから発達してきたからこそ、PayPalのような形が発展してきたのでしょうか。このあたりは、日本の楽天やヤフーのオークション形態の進化と比較したら、またおもしろいかもしれません。

ただ、今日のテーマからははずれますので、これ以上その問題に触れるのはやめておきます。

■フロントヤード戦術
本題に戻りましょう。フロントヤード戦術が今日のテーマでした。

みなさんも自分のビジネス環境を眺め直して、フロントヤード戦術の可能性をお考えになったらいかがでしょうか。

未知のユーザーに、いったいどんなサービスをしたら、ユーザーになってくれるかを考えるのです。

そして、彼らを教育して、自分のサービスを使えるようにする。そのためにどんなプログラムを用意すべきかを考える。

こういうことは実は昔からやっています。よく考えれば自然な発想だと思います。

たとえば、ミシュランがそう。

ご承知のように、ミシュランは、モータリゼーションの時代が到来することを確信するミシュラン兄弟によって1889年に設立されたタイヤ会社です。

自動車タイヤ市場に乗り出したミシュランは、製品の宣伝をかねて、自動車旅行者にレストランや観光案内のガイドブックを配布しました。

これが1900年のことで、35,000部を無料で配布したそうです。2度の大戦中を除いて毎年更新し、1920年からは有料となりました。

自動車タイヤをどうやったら売れるかを考えた彼らは、自動車にもっと乗ってもらうことがよいと考えたのでしょう。

そのときの工夫が、現在の三つ星レストランにつながっていくわけです。これぞフロント戦術のかがみですね。

新産業、新事業には欠かせない戦術だと思います。

追伸:
PayPalの日本での活用について下記のブログに書かれています。
http://blog.sr-inada.jp/keiei/cost/paypal.html


最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (まーくん)
2009-04-27 12:02:16
こんにちは。

なるほど商品を販売する為にはいろんなことが必要なんですね。僕にはとてもまだまだですが。
そもそも売り上げをあげるには二つの方法があるんでですか。参考になりまス。

僕は今いろんなレンタルサーバーを調べていますが、そのレンタルサーバーが決まったら、商品の販売なんかにも挑戦してみたいですね。

でも今はレンタルサーバーを探してどんな使い方をしてみようかなと思っています。

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。