迷宮映画館

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無言歌

2012年01月28日 | ま行 外国映画
毛沢東という人物ほど、劇的で、すさまじく、命を重んじ、軽んじた人物はいないのではないかと思う。彼を探求していると、あまりに凄過ぎて、いくらでもとんでもない逸話が出てくる。その中でも特筆されるのが、百花斉放・百花争鳴のあとの反右派闘争があげられる。

どう考えても冷静な判断力を携えた人間がしたこととは思えないが、毛が行った・・と言えば、納得入ってしまうのが怖ろしい。不屈の精神で共産党の国家を作り上げ、膨大な中国を一つにまとめ上げ、国家の行く末を決定したあと、まるで子供の駄々っ子がするかのようなとんでもないことの連続。それもなんとなくアリかもと思わせる人間性だ。

共産主義の国家を作り上げ、中国を邁進させようと思ったところに、スターリンの死。その後を受けたフルシチョフが、スターリン批判を行ったことが原因ではないかと思われている百花斉放・百花争鳴という共産主義運動に対する自由な発言だ。

ここぞとばかりに様々な人が自分の意見を述べたわけだが、まさかそのあと、地獄がまっているなどと、誰が思っただろうか。自由な意見どころか、揚げ足取りもはなはだしいのだが、ちょっとでも自分の意見を述べた人間は、容赦なく強制労働に借り出され、その命を大地にどんどんと捨てていった。

映画では、ゴビ砂漠で進められたほとんど用を成さない開拓運動に従事させられた人々が映し出される。空は澄み切っている。果てしなく大地は広がっている。しかし、極寒。氷点下20度の中、水みたいなカユをすすり、ただの穴倉に住いし、次から次への死んでいく仲間を葬り、次は自分の番かと戦々恐々としている。

演技がどうのとか、設定がどうのとか、そんなことはどうでもよく、本当にこんなことが行われていたんだという事実に愕然とする。衝撃的な事実を突きつけてくる監督のエネルギーに圧倒される。

中国は学ばない国といわれる。数々繰り返されてきた王朝の変遷のたび、前の政府がやってきたことは全否定され、0から始まる。そしてまた何度も同じことが繰り返され、リセットされる。言い表しがたい恐ろしいことも行われてもきたが、国家を信じ、国に忠義を尽くし、その身を捧げようとした人もどれだけいたか。彼らの叫びが蘇武の歌に聞こえた。


こちらも紹介文を書いたので、恥ずかしながら掲載。


「山形国際ドキュメンタリー映画祭、二度のグランプリ受賞!といえば、映画通の山形の方ならぴんとくるはず。「鉄西区」と「鳳鳴」の王兵監督だ。独特のカメラワーク、人間の内面まで描き出す力を発揮する監督が、初めて長編劇映画に挑んだのが、「無言歌」だ。中国の抱える闇、今の時代のあふれるエネルギー、常にそこに生きる力強い人間の姿を描いてきた監督が選んだ題材は、近代中国の最大の傷跡である「反右派闘争」。1949年、長い闘争の果て、毛沢東は共産主義の中華人民共和国を建国した。しかし56年のスターリン批判のうねりを受けて、共産党への批判を受け入れるという柔軟な姿勢を示した。ソ連とは違う、中国の先見性を示したが、すぐさま一気に方針を転換する。意志を示した右派を、容赦なく粛清したのだ。その悲劇を描いたのが本作。徹底的なリサーチと、念入りに書き込まれた脚本はさすが王兵監督!題材の衝撃性もさることながら、全編に流れる圧倒的な映像美に息をのむ。美しさと背中合わせの残酷さを描き切った作品だ。いまだ中国本土では上映が禁止されている問題作。人間の本質を見つめる力作をぜひ見て下さい。」


この作品のパンフレットの中に、王兵監督の作品が山形ドキュメンタリー映画祭でグランプリをとってはいるものの、とてもじゃいないが、山形行くのは大変。映画マニアの中でも特にコアな人間たちが集う映画祭で、一日中映画のことばっかり考えてるような人が集まる映画祭だ・・などの記述が!そうなんすか?そうだったのか。。。

王兵監督の前述の作品は、9時間の「鉄西区」はさすがに全部は見れず、半分だけ鑑賞。見たとき、正直言うとこれがグランプリを取るとは思わなかった。あまりに長すぎて、テーマが絞りきれてなかったように感じた。
次の「鳳鳴」は凄かった。凄まじかった。3時間強、カメラに向かって、老婆がひたすら自分の人生を語るだけなのだが、そのとにかく壮絶な人生に絶句。満員の会場の中、皆が圧倒されながら見ほれたとの印象があった。

◎◎◎◎

「無言歌」

監督 ワン・ビン
出演 ルウ・イェ リャン・レンジュン シュー・ツェンツー


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2 コメント

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9時間の作品! (クマネズミ)
2012-02-01 22:44:59
「Sakurai」さん、わざわざTB&コメントをありがとうございます。
いただいたコメントからすると、「Sakurai」さんは山形にいらっしゃるのですね。
9時間の「鉄西区」の半分と3時間の「鳳鳴」をご覧になったとのことですが、やはり「映画マニアの中でも特にコアな人」でないと、いくら「地の利」があろうとも、とてもではありませんがお付き合いはできないと思われます!
それでも、芋煮会とか上山の茂吉記念館、山寺などなど知らないところではありませんから、来年の映画祭あたりは狙いどころかもしれませんね。

>クマネズミさま (sakurai)
2012-02-04 17:15:43
山形在住です。
小さい映画だと、当地に来るまで、少々時間はかかりますが、それでも多くの作品を見ることが出来るので、ありがたいです。
と、なんといっても国際ドキュメンタリー映画祭ですね。
めったに見ることのできない映画を見ることが出来たり、貴重な作品に出会えたりするんで、目が離せません。
10月の連休のあたりにいつも上映されますんで、どうぞ気に留めておいてください。

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