のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

対岸の彼女 / 角田光代

2005-01-31 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2004.11.10

田村小夜子は3歳の娘を持つ専業主婦。公園に遊びに行っても誰とも馴染むことができないのは小夜子も娘も同じだった。今の自分を変えるためにと、小夜子は子供を保育園に預けて働こうと決心するが、夫も姑も不満気だった。そして採用になったのは、小夜子と同年齢の楢橋葵が経営するベンチャー企業の新規部門である掃除の仕事だった。
葵は中学時代いじめが原因で一家で都会から田舎へ引っ越した経験をもち、そこで出会ったナナコという少女と友達になった。同じクラスにいながらも学校では知らぬふりをし、校外ではさまざまな話をしていた。お互いにたったひとりの友達。そのナナコとの関係がある事件をきっかけに一変してしまう。
小夜子の現在の苦悩と葵の過去が交互に綴られていく。第132回直木賞受賞作品。

角田さんとは相性が良くないと思っていたのだが、この作品には惹きつけられた。30代の立場のまったく違う女性たちが主人公だが、既婚も未婚も、経営者も社員も関係なく、ひとりの女性、ひとりの人間としてのつながりが気持ちよく描かれていた。高校時代の葵の「なんのために私たちは大人になるの? 大人になれば自分で何かを選べるようになるの?」という叫び、現在の小夜子の「なぜ私たちは年齢を重ねるのか」という苦しい思い。そのほかのどの言葉も、私もかつて感じてきたこと・・・。読みながら、涙を堪えていた。小夜子が出した結論が、これからの私に力を与えてくれたと思う。(05/01/31)


ぼくは悪党になりたい / 笹生陽子

2005-01-29 | 読書(~2005.09)
角川書店・2004.6.30

兎丸エイジは高校三年生。家族は父親の違う弟ヒロトと奔放に自分の道を行く母ユリコ。母が仕事に奔走するのでエイジは家事一切もヒロトの面倒もみている。そして母が長期出張で渡欧中、ヒロトの病気をきっかけに、エイジは自分の置かれた立場を振り返り、今までの生活を止める決心をした。
自分はどんなふうに生まれてきたのか、これから先もこのままでいいのか、エイジは日常に流されながらも自分の思うままに行動することにしたが・・・

初めて読む作家の本だったが、素直で暖かくてさわやかな作品だった。雰囲気は瀬尾まいこさん系かも知れない。
母親のキャラクターがどっしりとしていて気持ちがよく、この母にしてこの子あり、と納得。今時の少年にしてはエイジもヒロトも素直過ぎるのだろうけれど、本来はこうなのだと思いたい。友人・羊谷やヒロトの面倒を見てくれた杉尾の助言が効いている。(05/01/29)


ゆらゆら橋から / 池永 陽

2005-01-27 | 読書(~2005.09)
集英社・2004.12.20

健司は飛騨の山奥に生まれ育ち、そこには「ゆらゆら橋」と呼ばれる壊れそうな橋があった。それは揺れる女心のようだと言われていた。
健司には、年代ごとに影響を受けた女性たちがいた。小学生のときに東京から赴任してきた若い女の先生。中学時代に病気療養のために越してきた少女。高校時代に付き合った貧しいながらも頑張りやの女子生徒。大学生の時に同棲した女性。家族の反対を押し切って結婚した妻。結婚後に知る新たな女性たち。健司はいつでも真剣だった。
幸せに暮らしてきたものの、結婚25年後にリストラにあったことから妻との間に亀裂が生じはじめ、それは修復できないほどに大きくなってしまう。疲れはてた健司は、今はもう年老いた父親しかいない故郷に、今ではコンクリートになった橋を渡って戻っていった。

少年時代の健司は、まっすぐでいい感じだったのに、女性体験が増えるに従って、だんだんと共感できなくなってしまった。これは性差なのかも知れないけれど・・・ 
また、健司の元に集まる女性は、一見弱そうに見えて実はとても強い。健司をバネにちゃんと力強く、逞しく生きていくのは、小気味いい。最終章の健司は気の毒だが、橋は何度でも渡れるのだから・・・(05/01/27)


幸福な食卓 / 瀬尾まいこ

2005-01-25 | 読書(~2005.09)
講談社・2004.11.19

佐和子の家庭のあり方は、ちょっと変わっている。数年前に父親が自殺未遂をし、それを見た母はその後家を出た。佐和子もそれ以来、梅雨の季節になると体調を崩す。兄の直ちゃんはずっと成績優秀だったが、大学には行かず農業に携わっていた。
佐和子が中学生のある朝、父が「父さんは父さんであることをやめようと思う」と言い出し、教師を辞めた。佐和子は塾で知り合った大浦君と受験勉強に励み、ふたり揃って希望の高校に入学した。そして約束どおり恋人になって爽やかな日々を過ごしていたが・・・

瀬尾さんの描く家庭はいわゆる普通の形態とは少し違っているのだけれど、それでも家族を思いやる気持ちが前面に出ていて、どういう家族を「普通」というのか、疑問に思えてきたりする。本作品もその色合いは濃く、登場人物の交わす言葉が、なんとも優しく聞こえてきた。でも、とても実際にはありえそうもない。ファンタジーと思えばいいのだろうが、そろそろこれまでとは違うストーリーが読みたい。(05/01/25)


小森課長の優雅な日々 / 室積 光

2005-01-23 | 読書(~2005.09)
双葉社・2004.7.20

小森正一、40歳。二人の子供を持ち、平穏な日々を過ごしていたが、最近何事にも意欲がわかない。そんな時、通勤電車の中で、誰かれと痴漢扱いする女性に出会い嫌悪感を抱き。後日、小森はホームにいたその女性の背中を押した。人を殺して得られたものは、気力体力の充実だった。小森は友人から拳銃を手に入れ、それを持っていることでさらにパワーがみなぎっていた。部下の北沢はみんなの嫌われものだったが、彼の受けた暴力バーでの出来事を聞いて、そのチンピラ達も殺した。世の中の悪を消すことは、人の役にも立つことだという信念を掲げ、殺人のグループが出来上がった。

タイトルや本の装丁とはガラリと異なる内容で、とまどいながらも読了。こんなに簡単に殺人ができるはずもなく、膨れ上がったグループが存続できるはずもなく、秘密を維持できるはずもないのだが、悪人ばかりが相手なので重く感じられない。しかし、それでいい訳はない。面白おかしく読んでしまった自分を少し反省。(05/01/23)


7月24日通り / 吉田修一

2005-01-20 | 読書(~2005.09)
新潮社・2004.12.20

小百合はOL。生まれ育った町がポルトガルのリスボンに似ていると思い、町をリスボンに見立ててさまざまな名前をつけて呼んでいる。「7月24日通り」もそのひとつ。
おっとりとした性格の小百合は、会社の同僚の妻となった友人の悩みを聞いたり、ハンサムな弟の面倒を見たり、母亡きあとの父親の再婚の心配をしたりと忙しい。
そんな時、高校時代の同窓会が開催され、誘われて参加した小百合は憧れの先輩と再会した。

今回の吉田作品の恋愛小説は、読み終えてホッとするストーリーだった。すっかりおばさん化した私よりも、若い女性の心理を見事に言い当てている。サラサラとした文章や、登場人物の心情がそれぞれ理解できることから、読後感がよかった。また、見出しのタイトルが、最後になってもう一度響いてくる。(05/01/20)


汝の名 / 明野照葉

2005-01-18 | 読書(~2005.09)
中央公論新社・2003.8.25

麻生陶子は美貌のバリバリのキャリアウーマン。表参道にある人材派遣会社を切り盛りし、仕事関係の男とも、年下の男ともうまくいっている。そして家に帰ると、そこには友人の久恵が家事を一切引き受けている。
内向的な久恵を、陶子は意のままに操り生活をしていたが、陶子に新しい恋人が出現した頃から、久恵の不満が爆発する。

明野作品を続けて読破中。こちらは前作とは一味違った展開だが、それでも怖さは増している。陶子の過去も久恵の学生時代からの劣等感もすべてが現在まで引き継がれているので、どんどん先が読めた一冊だった。陶子派でも久恵派でもない私は、二人の取る行動には理解も共感もできないが、そういうところが心理的ホラーだ。(05/01/18)


ひとごろし / 明野照葉

2005-01-16 | 読書(~2005.09)
角川春樹事務所・2004.3.8

野本泰史は、10数年も通っている洋食屋で、アルバイトとして雇われた水内弓恵と出会う。彼女は物静かで地味な女性だが、なぜか泰史は惹かれるものがあった。ところがマスター夫妻は、彼女だけはやめた方がいいと忠告する。なぜなら、彼女には、夫とその愛人を殺したという過去があった。
また、泰史の妹の萌子も兄を慕う気持ちから、弓恵の過去を知ることになった。萌子は泰史のまだ知らないことまでも調べ上げ、交際を止めるようにと迫っていたが、ある日行方不明となってしまう。萌子の調べた弓恵の過去は本当のことなのか? もしかして、萌子の失踪は弓恵に関係があるのではないか? ちょうどその頃から、弓恵の泰史に対する態度が急変していく。控えめな女性だったはずが、いつのまにか、泰史を束縛するようになっていた。

明野作品2冊目。タイトルが「ひとごろし」というところで、まず怖いのだけれど、登場人物が皆、どこか愛情に対して異常な部分を持っていて、それが思い通りになると信じているという部分に恐ろしさをを感じた。「禁断」も同じだったけれど、深みにはまった後の後悔というのは、どうしようもない。恋愛だけに限らず、堕ちる前に気づきたい。(05/01/16)


禁断 / 明野照葉

2005-01-14 | 読書(~2005.09)
小学館・2004.12.10

邦彦の友人が何者かに惨殺されるという事件が起きた。事件はなかなか解決せず、邦彦は数少ない手掛かりを頼りに自分で真相を探ろうとした。そこで浮かんできた1人の女性は、名前を何度も使い分け、職場も住まいも短期で変え、世間の目から逃れるようにひっそりと暮らしていた。邦彦は彼女に対峙するうちに、惹かれてしまう。ところが、彼女の過去を調べるうちに、友人の他にも関わった男が死亡していたことを知った。
そして、邦彦自身の周りにも、何者かの影がしのび寄っていた。間違いなく誰かに調べられている。もしかしたら、自分の命も狙われているのか・・・。

初読みの作家さんだったが、とても面白く読了。ミステリーとホラーがミックスされてとても怖いのだけれど、どんどん先が読みたくなる本だった。邦彦が「次は自分が・・・」と感じる場面で恐怖感は絶頂に・・・。他の作品もぜひ読みたいと思う。(05/01/14)


幻日 / 福澤徹三

2005-01-11 | 読書(~2005.09)
ブロンズ新社・2000.3.25

ジワリとした怖さが忍び寄るホラー短編集。10作品。
◆幻日  仕事で疲れきった男が、帰宅途中の電車の中で見かけた女性を助けたことから、二人は親密な関係になる。
◆仏壇  同居する真紀が田舎から仏壇を預かってきた。それ以来、美也子の周りに不思議な出来事が続き、美也子は精神的にまいってしまう。
◆お迎え  末期癌での死の直前、男は迎えにきたという死神に頼み込み、10年という期限付きで命を延長してもらう。それから男は大成功を収めたが、10年が過ぎた。
◆廃憶  「私」は悪い夢を続けて見ていた。自分が刃物を握っている。
他に、「階段」「出立」「骨」「顔」「厠牡丹」「釘」

数ページから50ページくらいまでの短編集なので、時間の空いたときにサラリと読めた。ホラーと言っても、血がたくさん出るようなホラーではなく、心理的に追い詰められるストーリーで、その方が断然怖い。読みながらドキドキし、ラストでゾクッとさせられた。(05/01/11)