のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

母のいる場所 シルバーヴィラ向山物語 / 久田 恵

2002-01-29 | 読書(~2005.09)
文藝春秋

二十歳で家を飛び出し、勝手に結婚し子どもを産んで離婚し実家へ帰った著者は、親とも和解し地に足を下ろした生活を始めた。ところが、そのわずか1年後、母親が脳血栓で倒れ、体と言葉の自由を奪われた。そこから父親と一緒に長い介護生活に入っていく。10年間という長い期間を自宅で介護したが、介護する側にも生活があるし、老いも始まる。著者は以前から取材先であった老人ホームに母親を入居させ、自分たちもその近くへ引っ越すという介護方法に辿り着く。父親との確執、離れて住んでいる兄姉との距離、手をかけられなかった一人息子、自分の仕事、悩み続けながら生きていく。

自宅で10年、ホームで2年半、長い介護生活を最後までやりぬいた著者は、本当に気持ちの熱い人だと思う。これから超高齢化社会に突入していく日本だから、とても他人事とは言っていられない。誰の身にも介護するとき、されるときが必ずやってくるという、そんな緊張感を持って読んだ。幸いホームの園長、ヘルパーさんたち、そこに入居している方が、みんな明るく前向きで力強かったので、方向は見えたかもしれない。しっかり生きろと背中を押された感じがする。(02/01/29)


落花流水 / 山本文緒

2002-01-27 | 読書(~2005.09)
集英社

1967年に7歳だった少女「手毬」の人生が、10年ごとの出来事を通して描かれている。手毬の母親律子との長年にわたる愛憎と、自分の家族との関係が複雑に重なり合って60年の歳月が過ぎていく。7歳で彼女は自分の本当の母親が姉であったことを知り、その後、その母親が次々と男性と暮らす場面に自分の身をゆだねていく。そして、いつか彼女も母親となり、一見幸せな家庭を築いていったが・・・

因果は巡る・・・ そんな言葉がぴったりなストーリーだった。「ああいうふうにはなるまい!」そう硬く決心していたのに、いつのまにか自分もその道を歩いていく、ということが少なからずあるけれど、私には手毬の行動が単なる場当たり的に感じられてしまった。手毬は生まれてから一度も愛情に恵まれたことがなかったのだろう。そして自分も誰も愛してはいないのだろう。そう思うと、母親の身勝手でわがままな行動は許せないけれど、気持ち的には諦められそうだ。(02/01/27)


オルファクトグラム / 井上夢人

2002-01-25 | 読書(~2005.09)
毎日新聞社

姉の家を訪れたミノルは、ベッドに縛られた姉が殺される直前に遭遇してしまう。その時、隠れていた犯人に頭を殴られ、重症のふちから生還したとき、嗅覚が異常に発達するという能力を持っていた。その嗅覚は、形となって現れるもので、誰がどんな匂いをまとっているか正確に判別できてしまうというもの。ミノルは行方不明の仲間を捜すうちに、姉を殺した犯人と同じ匂いを感じ取り、仲間とともに追及し始めた。

ある日、突然、特殊な能力が備わってしまったら、その能力をどんなふうに生かしていくか・・・ ミノルがその能力で犯人を追い詰めていく様子に引き込まれてしまう。その能力をどう生かしていくか、どう社会と順応していくか、よい事ばかりとはいえないだろう。女性を狙う連続殺人鬼が起こした事件には憤りを感じるが、ラストは小気味よい。(02/01/25)


犬のいる暮し / 中野孝次

2002-01-16 | 読書(~2005.09)
文春文庫

ハラスを失ってから、中野夫妻は犬のいない暮しに我慢ができず、ついに二代目マホとの生活を始めた。自分の暮らしは犬がいることで救われていることを実感し、大切に育てるがマホは急死してしまう。その後三代目ハンナを家族の一員に加え、子犬のナナも誕生する。老いていく自分と、愛犬の老い・・・ そこにもまた避けられない道がある。 

「ハラスのいた日々」と続けて読んでしまった。やはり、犬のいる暮らしはいいものだ。やんちゃな子犬時代から、お互いの気持ちが通じていく様子は、参考になる部分も多く、ついつい自分とわが家の愛犬と比べてしまう。最期まできちんと面倒を見て、潤いのある生活を目指すのだという意気込みが沸いてくる。(02/01/16)


ハラスのいた日々 / 中野孝次

2002-01-15 | 読書(~2005.09)
文春文庫

夫婦二人暮しの中野家では、引っ越しの機会に犬を飼うことにした。中野氏47歳、奥様44歳からの犬との暮らしがスタートした。柴犬の名前をハラスとつけ、共に暮らした楽しい日々と、辛い別れ・・・ さまざまなエピソードを交えて、犬を飼うということ、愛するということ、信頼関係を築くこと、さまざまな場面が描かれている。ハラスはスキー場で行方不明になり、探し回る中野夫妻の憔悴した日々は、胸を熱くする。そして、その先には必ずやってくる老いをつづっている。ハラスの写真も可愛い。

前々からぜひ読んでみたいと思っていたので、むさぼるようにして読んでしまった。犬と暮らすことにより心が満たされた日々と、必ず来る別れが綴られていて、ひとつひとつのエピソードをかみ締めながら読んだ。共に生きられることに感謝して、生活を楽しもうと思う。犬と暮らし始めたばかりの私には、大切な一冊になった。(02/01/15)


グレイがまってるから / いせ ひでこ

2002-01-10 | 読書(~2005.09)
理論社・1993

建築家と絵描き、そして2人の女の子がいる家に、シベリアンハスキーの子犬がやってきた。名前は絵描きの好きなブルーグレーにちなんで「グレイ」とつけて、それから一家は手探りで子犬を育てていく。やんちゃなグレイは、絵描きと散歩し、訓練士にしつけを受け、アレルギーで顔をはらせたりして、そうして家族の一員になった。絵描きは取材旅行に出かけても気になって仕方がない。家にはグレイがまってるから・・・

初めて犬を飼うときの気持ちと、そこから始まる奮闘の日々は、私にも通じるところがあった。犬っていいなぁ。名犬でなくても何の芸ができなくても、いてくれるだけでいい。それだけで十分に幸せ。グレイと絵描きの散歩の風景や、だんだんと犬の気持ちに近づいていく絵描きの心情が、今の私をとりこにしている。


メドゥサ、鏡をごらん / 井上夢人

2002-01-08 | 読書(~2005.09)
講談社ノベルズ

小説家の藤井陽造は、異様な死に方をした。それは 「メドゥサを見た」というメモを残して、コンクリートに身を固めるという自殺だった。その死を疑問に思う娘の菜名子と婚約者の「私」は、藤井の書きかけの小説があることに気づき、それを読んでみたいという思いにかられる。そして「私」が藤井の足跡を訪ねるうちに、他にも「メドゥサ」という言葉と多数の死者との関連に気づく。果たして、「メドゥサ」の秘密とは何か・・・ 藤井はなぜ自殺をしたのか・・・

冒頭部分から、謎が謎を呼び、その展開に圧倒され一気に読んだ。「私」が経験するさまざまな出来事が、ラストに向かうにつれてとてつもない恐怖に繋がっていくのが怖い。詳しく説明することはできないが、ミステリーとホラーがミックスされたような感じのストーリーで、なんだか最後は「やられた~」という感じ・・・


パワー・オフ / 井上夢人

2002-01-06 | 読書(~2005.09)
集英社

「おきのどくさま、このシステムは、コンピュータ・ウイルスに感染しています」こんな言葉をディスプレイに残し、すべての操作を中断してしまうという感染力の強いウイルスがばらまかれた。そのウイルスのワクチンの開発を急ぐソフト会社と、感染経路を調査するパソコン通信会社と、 そしてそこから逃れようとする犯人は、いったいどこにたどり着くのか・・・ 一方では自動的に進化していくプログラムを開発するプロジェクトとなぞのプログラマーが、 もっと危険なウイルスに直面していた。

最近ウイルスの被害を受けたことがある私としては、とても興味をもった題材だったが、惜しいのは、コンピュータの知識のない私には、このウイルスに関する解説が最後まで理解できなかったこと・・・ これはコンピュータ関係を仕事にしているような人でないと、難しいかも知れないなどと、そこのところは妙に納得してしまった。(負け惜しみか??) そんな私の理解度では、プログラムがどんどん子供を生み、あらたに目的を植え付けて増殖していくとは、これまた謎だらけだ。人間が機械に左右されるような時代なんて、来て欲しくないとひたすら願うばかり・・・


最悪 / 奥田英朗

2002-01-05 | 読書(~2005.09)
講談社

町工場を経営する川谷信次郎は、取引先、融資先に勧められ設備機器を購入するために努力するが、人の良さを利用されて思うようにいかないところに、近所から騒音公害の苦情までが寄せられる。パチンコと恐喝で金を稼ぐチンピラまがいの野村和也は、友達の裏切りでヤクザから痛めつけられ、大金を要求されてしまう。素行の良くない妹を心配しつつもまじめに働く銀行員の藤崎みどりは、上司のセクハラに悩んでいた。その3人が最悪の状態で偶然に出会った・・・

人にとって、最悪って何だろう・・・ ささいなことがきっかけとなり、その後まるで雪だるまのように膨れていく。3人のうちで、川谷が「最悪」に陥っていく過程が、なんとも気の毒に感じられて、思わず何とかしてあげたくなった。世の中は弱いものになんて非情なんだろうと憤りながらも、読み応えのある一冊だった。同情の先には、明日はわが身という恐怖が・・・ そう考えると本当に怖くなった。


猫と魚、あたしと恋 / 柴田よしき

2002-01-04 | 読書(~2005.09)
イースト・プレス

ミステリーと恋愛をテーマにした9つの短編集
◆トム・ソーヤの夏  小学校時代の仲良しが殺人事件の被害者となり、葬儀に向かう雛子の頭によぎる思い出は・・・
◆やすらぎの瞬間  欲しくもないものを万引きし、成功後にみせる穏やかな微笑みの意味は?
◆切り取られた笑顔  専業主婦にあきていた奈美は、HPを作成し新しい世界を広げるが・・・
◆化粧  自分の思惑とは異なり夫の母親と同居することになった莢子は、夫の浮気を機に新しい人生を歩むが・・・
他に「深海魚」「どろぼう猫」「花のゆりかご」「誰かに似た人」「CHAIN LOVING」

短い話ばかりなのでちょっとした時間に読めて、こんな忙しい時期にはぴったりかも知れない。どの作品も、最後に「あら~」とハッとさせられて、それでいて女性の心理をつきつけているところが面白い。ミステリーが好きな人も恋愛小説が好きな人も、どちらも楽しめるのでは・・