のんびり主婦のPCライフ

黒柴「ころたん」の平凡な暮らしと、
散歩と読書の記録です。

ユニット / 佐々木 譲

2003-12-28 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2003.10.10

警察官の夫の暴力に耐え切れず、5歳の息子を連れて身を隠した門脇祐子。7年前にまだ新婚の妻と1歳の娘を少年に殺されて以来、立ち直れない真鍋篤。設備工事を請け負う会社を経営するが、妻に出て行かれてしまった波多野。この3人が偶然に出会った。流れで波多野の工場で、裕子と真鍋は働くことになった。生活する場を得て落ち着くかに見えた2人だったが、少年が仮釈放になり出てきたことを知った真鍋は、自分の手で決着をつけようと決心する。また、祐子の夫は警察官という身分を利用して、祐子の居場所を突き止めた。

初読みの作家だったが、とてもテンポよく読みやすい文章と、緊張感のあるストーリーで全体的には楽しめた。だが、真鍋の抱えた苦しみは、実際に起きた事件を思い起こさせる部分があるので辛い。そして、肝心なところでの真鍋の犯人に対する心の変化が、少し判りづらい気もした。(03/12/28)


影踏み / 横山秀夫

2003-12-26 | 読書(~2005.09)
祥伝社・2003.11.20

真壁修一は、「ノビカベ」と呼ばれる泥棒。二年間の服役を終えて出所してきた。彼には逮捕されたきっかけとなった家の妻が、夫を殺そうとしていたという確信があり、出所後にその真意を探ろうと行方を捜す。あの魅力的な妻は確かに夫に殺意を抱いていた・・・それを追求するうちに、次々と事件に巻き込まれるが、修一は頭の回転のよさと行動力で解決していく。修一には双子の弟がいたが、15年前に母親の放火によって修一を除く家族は焼死した。その後、弟の啓二は修一の内耳に住むようになり、いろいろと意見をしてきた。それは、泥棒家業から足を洗うこと、そして、修一を待っていてくれた久子という女性と幸せになることだった。
「消息」「刻印」「抱擁」「業火」「使徒」「遺言」「行方」

警察小説なら横山氏という思いもあり、泥棒が主人公でもやはり警察官とのさまざまな会話のテンポはよい。ただここに描かれる警察関係者は、幸せなんだろうか? 泥棒の方が生き生きしているのではないだろうかと思ってしまった。死んだ弟との会話も、実際にはありえないことではあるけれど、なぜか惹きつけられる。(03/12/26)


やさしく殺して / 吉村達也

2003-12-23 | 読書(~2005.09)
集英社文庫・2002.4.23

角丸真理子は社内恋愛をし屋敷芳樹と結婚した。それは、理解のある父親の反対を押し切ってのことだった。どんなに反対されても、ハンサムで仕事もまじめにこなす夫とともに、幸せになるはずだった。ところが、新婚旅行中から、芳樹の言葉にだんだんと傷つくことが多くなる。決して声を荒げて怒ったり、感情を爆発させたりしないかわりに、その言葉の数々は真理子をじわじわと不快にさせ、身動きをとれなくしていった。疲れはてた真理子が頼った人、それはかつて自分がふった恋人だったが・・・

ドメスティックバイオレンスとして肉体的暴力はよく聞く話だけれど、言葉の暴力というのも恐ろしい。やさしく言っているかのような言葉も、ナイフのように突き刺さってくるのだから・・・ しかし、真理子の考え方、行動が安易だったのがそもそもの原因だ。人を批判する前に、自分のことをよく考えないといけないと、私自身も思う。(03/12/23) 


リカ / 五十嵐貴久

2003-12-21 | 読書(~2005.09)
幻冬舎・2002.2.10

本間は42歳のサラリーマン。妻と幼い娘がいて、生活に特に不満も不安もない。その本間が、後輩に誘われて手をだしたのが、インターネットの出会い系サイトだった。軽い気持ちで年も少しごまかし、名前も本田と変えて複数の女性とメール交換をはじめたが、その中のひとり「リカ」と名乗る看護婦の女性と意気投合する。ところが、はじめはおだやかで可愛い女性に思えたリカが、途中から本間に対する感情をコントロールできなくなり、執拗にまとわりついた。携帯電話の番号も変え、断りのメールを何通もいれても、リカはすぐにつきとめ、教えていなかった職場も家庭も家族も、すべてを知った。第2回ホラーサスペンス大賞受賞作。

作品名からも、表紙からも、読み始めてからの展開も、すべてが怖い。「来るぞ、来るぞ」とわかっていながらも、それでもドキドキする内容だったので、アッという間に読了。ありがちなホラーではあるが、私には程よいホラーだったが、リカの人格をもっと掘り下げて欲しかった。そうしたら、もっと内容の濃い怖さだったかも知れない。(03/12/21)


クレオパトラの夢 / 恩田 陸

2003-12-20 | 読書(~2005.09)
双葉社・2003.11.5

双子の兄妹の恵弥と和見。ともに自立した大人だが、不倫相手を追ってH市で生活している和見を連れ戻そうとやってきた。ところがその日は、不倫相手の教授若槻の葬儀の日だった。若槻は妻とは別居して一人暮らしの身だが、どうやら家の中で事故死したらしい。ところが、さまざまな疑問が浮かびあがり、若槻の研究「クレオパトラ」が関係しているのではないかと感じた。次々と明かされる人間関係と誰もが知らないクレオパトラ。いったいそれは何なのか? 兄と妹も互いを疑いながら謎に迫っていくが・・・

H市は函館市。地図をもとに移動していく土地の様子がそのものだ。先日読んだ「まひるの月を追いかけて」同様、地方都市の様子が鮮明で自分もその場に出ているような気にもなる。「クレオパトラ」の正体が何かが早く知りたくて一気に読めるが、何度も切れ切れになる人間関係に、ちょっとイライラしてしまった。(03/12/20)


翳りゆく夏 / 赤井三尋

2003-12-18 | 読書(~2005.09)
講談社・2003.8.7

20年前に産婦人科から生まれたばかりの赤ちゃんが誘拐された。だが、身代金を受け取った男は逃げる途中で交通事故死してしまった。赤ちゃんはその後、行方不明となっている。そして20年後、犯人の娘が大手新聞社の記者として内定を受けたが、週刊誌によってその事実が暴露された。ネタが漏れたのは新聞社の管理責任ということもあり、会社側は人道上からもその女子学生を入社させたい。そこで、社長命令で、現在は閑職にある梶という記者に事件の洗い直しを命じた。梶は、その事件を覚えていて、担当の刑事とも顔見知りだった。資料をもとにひとつひとつ検証していくと、疑問が出てきた。当時の誘拐事件の真相はどうだったのか? 赤ちゃんはどうなったのか? 第49回江戸川乱歩賞受賞作。

乱歩賞受賞作家ということで読んだ。初読みの作家。丁寧な文章で、読み手にはわかりやすいと思う。誘拐事件、再調査、真犯人と、ミステリー作としては常道ではあるが、十分に楽しむことができた。(03/12/18)


東京湾景 / 吉田修一

2003-12-14 | 読書(~2005.09)
新潮社・2003.10.15

出会い系サイトで知り合った亮介と涼子。亮介は品川埠頭の倉庫で働き、涼子は台場の高層ビルに勤務している。まさに海をはさんで向かいあう。
過去に大恋愛をし、現在は真理という彼女がいる亮介は、涼子に惹かれていく。そして、涼子もまた今まで知り合ったことのないタイプの亮介に魅力を感じる。一見、万事うまくいきそうな二人だが、亮介の過去の恋愛が涼子の本心を突き動かしてしまう。

東京湾が魅力的に描かれているので、おもわず行ってみたくなる。それも、お台場側ではなく、倉庫のある場所。きれいな恋愛小説でさわやかさも感じるが、「どんなに好きでもあきてしまう・・・」という台詞は痛い。(03/12/14)


送り火 / 重松 清

2003-12-08 | 読書(~2005.09)
文藝春秋・2003.11.15

私鉄富士見線沿線に住む人々のさまざまな思いを描いた9つの短編集。
◆ハードラック・ウーマン  フリーライターの慶子がネタ探しをしているときに駅で出会った一人の女性。慶子はその姿を記事に取り上げるが・・・
◆かげぜん  ひとり息子を突然の事故で失った夫婦。もう息子は帰ってこないと理解はしているものの、どうしても妻は子供の成長に執着する。
◆漂流記  子供の成長のためにと緑の多い郊外のマンションに越してきたが、楽しいはずの公園での交流。それはいつしか母親に暗い影を落としていく。
◆よーそろ  疲れはて生きる気力を無くしてしまったときにも励まされる存在がある。それがたとえどんな人物のどんな言葉であろうとも。
◆送り火  実家のあるニュータウンは昔は栄えていた夢の町だった。そこに一人残った母親はなかなかその場を離れない。
他に、 「フジミ荘奇譚」「シド・ヴィシャスから遠く離れて」「家路」「もういくつ寝ると」

重松さんらしい家族の物語。たんたんと綴られる日常は、どの家庭においても一大事なのだ。読み終わったあとに、平凡で暮らせること、人それぞれささやかな希望を持って生きることがいかに幸せかということを、いつも感じてしまう。(03/12/08)